スパニッシュ・オデッセイ

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「神曲」地獄の入り口

2017-08-28 18:24:48 | スペイン語
  ユリウス暦1300年の聖金曜日(復活祭前の金曜日)、ダンテは暗い森に迷い込んだ。
 
 【ギュスターブ・ドレによる挿絵】
「古代ローマの詩人ウェルギリウスと出会い、彼に導かれて地獄、煉獄、天国と彼岸の国を遍歴して回る」(ウィキペディア「神曲」)わけだが、地獄の門に書かれている言葉は有名である。
 「神曲」はこの時代には珍しく、ラテン語ではなく、イタリア語(トスカーナ方言)で書かれている。
 Lasciate ogne speranza, voi ch'intrate.
 現代のイタリア語と少し違う。現代のイタリア語に直すと、
Lasciate ogni speranza, voi ch'entrate
 となる。
 
 英語では次のようになる。
 
 実は、筆者は高校2年生の夏休みの読書感想文の課題に「神曲」を選んだのである。当然、日本語の翻訳である。地獄の門の言葉は「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ」というような訳だったと思う。この言葉は印象的で、記憶に残ってしまった。
 その後、大学の第2外国語でフランス語を、第3外国語でスペイン語を学んだ。さらに趣味でイタリア語もかじった。
 イタリア語はカンツォーネでなじみがある。中学3年生のとき(1964年)、ジリオラ・チンクェッティの「夢見る想い」(Non ho l'età)やボビー・ソロの「ほほにかかる涙」(Una lacrima sul viso)などが流行っていて、意味はわからなかったが、歌詞が耳にこびりついてしまった。イタリア語はスペイン語に似ている印象があったので、スペイン語を学んだついでにイタリア語もかじってみたわけである。かじってみて確かに似ていることがよくわかった。
 「夢見る想い」の一節、“Lascia ch'io viva un amore romantico”はスペイン語の知識だけでも大体理解できるが、イタリア語を少しかじっただけで、完璧に理解できた。英逐語訳では“Let me live a romantic love”。スペイン語では“Déjame vivir un amor romántico”。
 lascia は動詞 lasciare の活用形で、スペイン語の動詞 dejar とは全然、形が違うが、基本動詞である。
 「夢見る想い」はスペイン語版もあり、コスタリカでもヒットしたようである。
 1957年には「コメ・プリマ」(Come Prima)という歌もヒットしていた。タイトルの意味は「最初のように」ということだが、スペイン語に逐語訳すると“Como Primero”となる。この歌の印象的なフレーズも忘れられない。
 Ogni giorno, ogni stante dolcemente ti dirò
(英逐語訳 Every day, every instant sweetly I'll tell you. 西逐語訳 Cada día, cada instante dulcemente te diré.)
 こちらの方はリアルタイムではなく、「カンツォーネ大全集」とか何とかいうLPに入っていて、よく聞いていた。
 この歌で ogni(発音は「オニ」でよい) という言葉を覚えた。
 そして、時が経ち、英文学を勉強することになるのだが、ある授業で E. M. Forster (「インドへの道」は代表作の一つ。映画化もされている)の短編を読んでいた。そのときに出てきたのが、地獄の門のことばである。
  Lasciate ogni speranza, voi ch'entrate
 もちろん英語の原文で読むのだが、突然、イタリア語が出てくるのである。当時の英語の先生は40代。その先生の大学の第2外国語はドイツ語とフランス語だけだっただろう。それ以外の外国語学習はなかなか大変だったことと思う。今ならインターネットですぐに調べがつくが、当時はそうも行かない。調べものをするにも労力も時間もかかる。その先生はお手上げだった。
 ところが、こちらはカンツォーネでイタリア語を少々仕込んでいる。
 lasaciate も ogni も知っている。speranza はスペイン語の esperanza (英 hope)に相当するはずである。entrate は英語 enter (西 entrar)と関連がありそうである。voi はスペイン語の2人称複数代名詞 vosotros に対応するものであることはイタリア語の初歩で習う。ch' は che(発音は「ケ」)の縮約形で、スペイン語の que (この場合は英語の関係代名詞の that)に相当する。
 というわけで、ぴんと来た。これはダンテの神曲に登場する地獄の入り口の文句ではないか。先生が困り果てているところに筆者が和訳させていただいた次第である。


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