御徒町の人


D800E + AF-S NIKKOR 35mm f/1.4G

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新しく取り引きが始まる仕入元の重役の方が、会社に挨拶に来た。
きちんとした身なりの初老の男性だ。
一通り工場内を説明して回り、事務所に戻った。

仕事の話が済んで、世間話になった。
どこに住んでいるのか尋ねると、御徒町だという。

「それはずいぶんと賑やかなところにお住まいですね」
「ええ・・まあ・・」
「御徒町のどの辺りでしょう? 私も毎週のようにあの辺をうろつくんですよ」
「多慶屋の裏の方です」
「バンビの本社のある辺りですか?」
「そうですね。もう少し裏の方です」

「私は時計のジャンクなどを探しに、よくアメ横周辺をぶらつくんですよ」
「ああ、そういうお店もありますね」
「面白いところにお住まいで羨ましいです」
「まあ・・若い人には面白いところかもしれませんね・・・」
「住んでいる方にはそうでもないですか?」
「私の場合は、もっぱら飲んで回るくらいですから」

男性は何となくはっきりしない返事で、詳しく語ろうとはしない。
それでいながら、御徒町の街の事はかなり細部まで心得ているのが伝わってくる。

「以前知人が御徒町でウエスタンのお店を開いていたんですよ」
「ああ・・線路のところの」
「え・・ご存知なんですか?」
「知り合いに連れられて、行ったことがあります」
「T氏のお店をご存知とは驚きました」
「今はもうありませんね」
「ええ、お店をたたんで岩手に帰ってしまいました」

まさかウエスタンショップで結び付くとは思わなかった。
人は見かけによらないというが、まったく想像もしなかった。
考えてみたらウエスタンに傾倒した世代かもしれない。

「ウエスタンに興味がおありなんですか?」
「・・・いや・・・特には」
「でもあのお店に行かれるのは相当の方ですよ」
「まあ・・・そうかもしれませんね」
「T氏に会われましたか? 髭を生やした無愛想な男性です」
「ああ・・・そういう人がいましたね」
「扱っているものが特殊なので、警戒して親しい人以外にはそっけなく振舞うんですよ」
「ええ、何度か会っていますが、そういう感じの人でした」
「え、何度も行かれているんですか?」
「ええ・・まあ・・・」
「・・・」
「・・・」

理由はよくわからないのだが、あまり触れられたくない話題なのか、話が続かない。
謎の多い男性であった(笑)
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