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信長協奏曲

2016年02月02日 | 邦画(16年)
 『信長協奏曲』を吉祥寺オデヲンで見ました。

(1)予告編を見てオモシロそうだと思って、映画館に行きました。

 本作(注1)の冒頭では、実写TVドラマとして放映されていた部分(注2)のあらすじが簡単に紹介され、次いで本編が映し出されます。

 戦国時代の武士たちが農家に火をつけ、逃げ惑う女子供らを次々に殺していきます。
 男の子が逃げて建物の隅に隠れ、武士らが「織田信長様」と呼ぶ馬上の指揮官を恨みのこもった目で睨みつけます(注3)。

 次いで、場面は安土城内。
 サブロー信長小栗旬:注4)が、肖像画のモデルになっています。



 周りの者が「絶対に動いてはなりませぬ。我慢、我慢」と言うのですが、信長は「もう無理」と答えて、描かれている絵を見ます。
 信長は「誰これ?」と言い、柴田勝家高嶋政宏)も「全く似ておらん」とつぶやきます。
 そこに、信長の妻・帰蝶柴咲コウ)が現れ、「何を騒いでおる?」と尋ねると、信長は「全然似ていないんだ」と絵を見せますが、帰蝶は「随分と男前だ」と言います。

 こうした騒ぎを、明智光秀に変身している本物の信長小栗旬)が頭巾の中から見ています。

 次いで、サブローと同じように現代からタイムスリップして来た男(古田新太)が松永弾正として登場し、サブローの信長と対面して、「俺はこういう話に弱い。余命わずかの身ながらこの城を建てるとは」と言うものですから、信長は驚いて「余命わずか?」と聞き返します。
 すると、松永弾正は、「お前、教科書をちゃんと読んでいないのでは?」と言って、教科書の『高校日本史B』を見せます。



 信長は、そこに「織田信長の“死後”」などと記載されているのを見て、「俺って死ぬの?」とつぶやき、「俺が未来からやってきた時点で歴史は変わるのでは?」と言います。
 松永弾正は、「お前がこれまでやってきたことは、すべて教科書に載っている。歴史は何も変わらない。お前はもうすぐ死ぬ。タイムリミットは今日かも」と言います。

 さあ、歴史は変わることになるのでしょうか、………?

 漫画を原作としていることは薄々知っていましたが、本作が、実写TVドラマとして放映されていた物語の最終章となっているので驚きました。確かに、冒頭においてそれまでの経緯が紹介されるので、これはこれだけで理解できるようになっています。それに、本作もなかなか面白く仕上がってもいます。とはいえ、本作だけを見たのでは、原作漫画の持つ無類の面白さがやっぱり半減してしまっているのではと感じました(注5)。

(2)サブロー、信長、そして明智光秀を演じる小栗旬の熱演もあって、本作はなかなか面白い出来栄えとなっています。

 それで、原作の方はどうなっているのかと興味が湧いてきて、漫画本の第1巻と第2巻を読んでみたところ、サブローは、いともあっけらかんとタイムスリップしていきなり織田信長になってしまうのです。
 なにしろ、日本史の授業で、先生から「本能寺の変を引き起こした人は?」と訊かれて「あいださん……?」と答えたサブローが、帰宅途中に土手の上を歩いていて足を滑らせて落ちたら、織田信長とぶつかってしまい、いきなり「わしの身代わりになれ」と言われ、本物の信長はスグに立ち去り、池田恒興が現れて信長として扱われてしまいます(注6)。
 そして、サブローの信長が「目指すは、今川義元!!続けぇ!」と叫んで、桶狭間に出撃する前までのところが大層スピーディーに描かれています。

 この分だと、TVドラマの方も面白いに違いないと思って、第1話をオンデマンドで見てみたところ、こちらでは、「戦国時代体験ツアー」が催されている「歴史時代村」に修学旅行で行っているサブローが、その村から外に出ようと塀の上に上がったところで足を滑らせて落ちたらタイムスリップした、とされています。
 そして、こちらでは、兄を亡き者にしようとする弟・信行との争いを軸に(注7)、斎藤道三が「そろそろ動いてみるか」と言い出すところまでが描かれています。

 見た範囲で言うと、原作漫画の方は、帰蝶が「殿とでえとするのが何よりの楽しみにござります」と信長に言ったりして、大層ユルーイ雰囲気が漂っているのに対し、TVドラマの方は、実写版のためでしょう、よりリアルな面が強調されているように思われます(注8)。帰蝶も、信長のことを「うつけ」と言ってはばかりませんし、喧嘩ばかりしています(注9)。



 これが、本作になると、TVドラマの最終章なのですから、帰蝶と信長の関係はかなり良好なものとなっていて、結婚式を挙げるという話に繋がりますし、まして「本能寺の変」が引き起こされるのですから、なおさらリアルな感じになっていきます(注10)。
 さらに、サブローの信長、本物の信長、そして明智光秀になった信長が羽柴秀吉山田孝之)と対決するという話の進め方はなかなか興味深いものがあります。
 とはいえ、原作漫画が持っていたユルーイ感じとか、TVドラマの最初の方に漂う面白さといったものは、本作になるとあまり伺えなくなってしまうのは、仕方がないとはいえ少々残念な感じがしました。

 それと、「平和、平和」、「殺し合いはやめよう」などと事あるたびにサブローの信長は口にします。これは、信長、秀吉、家康の“天下統一”の事業を見据えてのことではないかと思います。とはいえ、果たしてその「平和」という理念は、通時的に他のことをなげうってまで追求すべきものなのかどうか、検討する余地があるのではないでしょうか?

(3)渡まち子氏は、「映画そのものは、あくまでもテレビの延長線上にあるエンタテインメントで、ドタバタ劇や、歴史を軽く無視した設定、ほとんどゴリ押しに近いラストの収束まで、どこまでもライト感覚だ」として50点をつけています。



(注1)監督は松山博昭
 原作は、石井あゆみ信長協奏曲 のぶながコンツェルト』(最新刊は第13巻、小学館刊)。

 なお、つまらないことながら、タイトルについて、映画の公式サイトでは「信長協奏曲 NOBUNAGA CONCERTO」、TVドラマの公式サイトでは「信長協奏曲 ノブナガコンツェルト」、TVアニメの公式サイトでは「信長協奏曲 のぶながコンツェルト」、このサイトでは「信長協奏曲(ノブナガコンツェルト)」、このサイトでは「信長協奏曲(のぶながコンツェルト)」とされています。
 ブログのタイトルはどれにしたらいいのでしょう!

(注2)現代に生きる高校生のサブローが、タイムスリップして戦国時代の織田信長と出会って信長として生きていくことになる発端から1573年の小谷城の戦いまで、全11話で制作されています(原作の第9巻まで:放映期間は2014.10~2014.12)。
 なお、この実写TVドラマの前に、TVアニメとしても放映されています(原作の第8巻まで:放映期間は2014.7~2014.9)。

(注3)本作では、この子供が後に羽柴秀吉になります。

(注4)現代の高校生サブローが、戦国時代にタイムスリップして、本物の信長に頼まれて、その身代わりとなります。

(注5)出演者の内、最近では、小栗旬は『ギャラクシー街道』、柴咲コウは『青天の霹靂』、池田恒興役の向井理は『天空の蜂』、お市の方役の水原希子は『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド』、徳川家康役の濱田岳は『杉原千畝 スギハラチウネ』、山田孝之は『バクマン。』、高嶋政宏は『柘榴坂の仇討』、本物の信長に仕える沢彦役のでんでんは『駆込み女と駆出し男』で、それぞれ見ました。

(注6)普通のタイムトラベル物であれば、例えば、『幕末高校生』におけるスマホのアプリのように、何かしらのタイムマシンが用意されるのではないでしょうか?

(注7)TVドラマでは、信行と信長の戦いにつき、大層激しい戦闘場面が描かれ、サブローの信長が実戦の恐ろしさをつぶさに体験するように描き出されますが、原作漫画においては「結局、この戦いは信長軍の圧勝に終わり」と文字で記載されているに過ぎません。

(注8)原作漫画の信行は、信長の前で切腹するとはいえ、母親と一緒に信長に謝りに来るような器量の持ち主で、小さな役割しか与えられていませんが、TVドラマの方では、様々の手段を講じて信長を付け狙う執念深い男として大きな役割が与えられています。

(注9)それでも、TVドラマでは、例えば、サブローの信長が、城内に「週休2日制」とか「1日3度の食事」を導入しようとして池田恒興に叱責されたりする場面が描かれたりします。

(注10)本作では、「本能寺の変」の最中に秀吉が京都にいたようにされていますが、史実としては、そのときには秀吉は「備中高松城の戦い」の最中であり、本能寺の変からおよそ10日後に京都に戻ってきたとされています(Wikipediaの「中国大返し」の項)。
 とはいえ、こうした史実との違いは、本作が元々タイムトラベル物であって、実際を無視しているのですから、いくらあってもかまわないと思われます。
 それに、「本能寺の変」には“秀吉黒幕説”が言われたりしますから(例えば、井上慶雪著『秀吉の陰謀』詳伝社、2015年)、本作のような描き方もあながち捨てたものではないかもしれません。
 加えて、例えば、明智憲三郎著『本能寺の変 431年目の真実』(文芸社文庫、2013年)では、「徳川家康も謀叛と無関係どころか実は共犯で、豊臣秀吉も事前に謀叛の計画を知っていたから中国大返しも実は神業でもなんでもなかった」とか(この記事によります)、「信長は、徳川家康を本能寺に呼び寄せ、光秀に討ち取らせるつもりだった。ところが、この計画を聞いた光秀は、ゆくゆくは明智一族も滅ぼされると思い、家康と織田家打倒を決意。家康との談合の末に、信長と息子の信忠の間隙を縫って決起したのが本能寺の変だった」などと述べられていて(この記事によります)、「本能寺の変」についてはなんだか“百家争鳴”状態にあるような感じがします。



★★★☆☆☆



象のロケット:信長協奏曲(のぶながコンツェルト)


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2 コメント

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Unknown (ふじき78)
2016-02-02 23:31:22
> 映画の公式サイトでは「信長協奏曲 NOBUNAGA CONCERTO」、TVドラマの公式サイトでは「信長協奏曲 ノブナガコンツェルト」、TVアニメの公式サイトでは「信長協奏曲 のぶながコンツェルト

もういっそ「信長コンコルド」で!(違うて)
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Unknown (クマネズミ)
2016-02-03 05:59:50
「ふじき78」さん、TB&コメントをありがとうございます。
そうですね、「信長コント」でも「信長コンプレックス」でもいいかもしれません!
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