映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

ベテラン

2016年02月04日 | 洋画(16年)
 韓国映画『ベテラン』をシネマート新宿で見ました。

(1)本作について耳にする評判が大層良く(注1)、かつまた、このところ韓国映画から遠ざかっていてこの辺りで見てみたいと思っていたこともあり、大層遅ればせながら映画館に行ってきました(注2)。

 本作(注3)の冒頭では、腕を組んだカップルが中古車販売場に現れます。
 女が「あの車がいい」とねだると、男が「駄目だ。待ってろよ。お似合いの車を選ぶから」と答えて、ベンツ(注4)を指して「この車がいい」と言います。
 女は「買い出し用にピッタリ」と言い、男は車を買います。
 ただ、その際、店の者が車に発信機を取り付けたようです。

 買ったベンツを女が運転しますが、運転が荒すぎて男が「危ない」と叫ぶと、女は「先輩が運転すれば?」と答えます。
 そこに電話が入り、「今日中に方を付ける気か?」と相手が訊くので、男は「3ヶ月も泳がせておいた」と答えます。

 場面は変わって、さっきのベンツが路地の奥に進んでいき、突き当りの倉庫の扉が開くと、その中に入っていきます。
 すると、作業員たちが現れ、ベンツからプレートを外し、違うプレートと取り替えます。
 そして、作業員がベンツのトランクを開くと、このベンツを購入した男が飛び出します。



 作業員のリーダーらしき男が、「お前は、昼間売り場にいたやつだな!」と気が付き、ベンツの男と作業員たちとの間で乱闘が始まります。
 その時、広域捜査隊のチーム長(オ・ダルス)に率いられた警官隊が入ってきて作業員たちを捕まえます。
 最初にベンツを購入した男は、広域捜査隊のベテラン刑事のソ・ドチョルファン・ジョンミン)で(注5)、捕まえた男に対し、「車はどこに運ぶ?」と訊くと男は「釜山」と答え、さらに「その先は?」と尋ねると男は「ロシア」と答えます。

 これを端緒に、ドチョル刑事らのチームは、国際的な中古車密売組織の摘発に成功しますが、ドチョル刑事にはさらなる大きな戦いが待ち構えています。さあ、どうなることでしょうか、………?

 本作は、凄腕刑事が、様々の圧力をものともせずに5人の仲間と力を合わせて、大財閥の御曹司を逮捕するに至るという痛快アクション映画です。こうした構図の映画はこれまでもたくさん作られてきたとはいえ、本作に登場する御曹司の悪さは尋常ではなく、また主人公らにのしかかってくる圧力も甚だ強いものがあります。ですが、そういうものを打ち破って正義を取り戻すストーリーの本作を見ると、クマネズミのような庶民はまさに溜飲が下がる思いをすること請け合いです。

(2)本作が痛快なのは、主人公のドチョル刑事に追い詰められる悪役チョ・テオを演じるユ・アインが、悪役の常識からは程遠い二枚目のイケメン俳優でありながら、ことさらな悪辣振りを見せるからではないかと思います。



 本作の後半に描かれる事件の元凶はチョ・テオですし(注6)、例えば、ドチョル刑事は、パーティーで財閥の御曹司のチョ・テオと初めて出会いますが、その際に、テーブルの上に並べられていた料理を腕で払って、周りの女達に浴びせかけたりするのです(注7)。

 また、主人公のドチョル刑事の悪に対する追求の執念深さも尋常ではないのですが、家に戻ると、福祉士の妻ジュヨンチン・ギョン)には、「疲れているの」と拒否されたり、子供や金銭のことでいろいろ愚痴をこぼされたりする夫に過ぎない普通の姿が描かれている一方で、平凡に思えるこの妻が、チェ常務(ユ・アイン)からの賄賂(札束の入った高級ハンドバッグ)を「そんなもの持っている」、「あの男と結婚したのを後悔している。だが、それ以上後悔することはない!」ときっぱりと拒否したりするのですから(注8)、面白さも倍加します。

 それに、コミカルな要素もいろいろ盛り込まれています。
 例えば、広域捜査隊チームの紅一点のミス・ボンは、グローバルに活躍するモデルとされるチャン・ユンジュが演じていますが、決して大人しい役柄ではなく、ハイキックが得意技で、国際的な中古車密売組織の摘発の際には大活躍します。とはいえ、相手との距離を見誤って積んであるコンテナに体当りしてしまい、目をむいて倒れてしまう様子は笑いを誘います。

 こうしたアクション物では、銃弾が飛び交い人も何人も死んだりして雰囲気を盛り上げるのが普通でしょうが、本作は銃が持ちだされることもなく殺人も行われないにもかかわらず(注9)、激しいカーチェイスが映し出されたりして見る者を充分興奮させ、娯楽作品として大いに楽しめました。

(3)暉峻創三氏は、「本作は、正義感に燃える刑事が悪を追い詰め、勝利するという古典的な英雄刑事像を描きながら、非の打ちどころなき傑作エンターテインメントに仕上がった」と述べています。
 読売新聞の恩田泰子氏は、「素直に身をゆだねれば、主人公と一緒に戦っているような気分。泣いて笑って最後は痛快。映画って楽しい。素直にそう思える一本だ」と述べています。



(注1)韓国では歴代動員ランキング第3位とのこと(公式サイトの「INTRODUCTION」によります)。

(注2)シネマート新宿での公開は本日(2月5日)で終了です。

(注3)監督・脚本はリュ・スンワン

(注4)ベンツW221のようです。

(注5)そのときドチョル刑事が連れていた女は、チームの同僚のミス・ボン。

(注6)チョ・テオは、部屋に現れた運転手のチョン・ウンイン)を殴りつけ、ペが倒れて死んだと思ったため、チェ常務に自殺に見せかけろと命じます。

(注7)その際、チョ・テオは「こうやって遊ぶべきなのかな?」とつぶやいたり、さらには「こんな遊び方しか出来ません」とドチョル刑事に対し挑発的に謝ったりします。
 ドチョル刑事の方も、チョ・テオに犯罪者の臭いを嗅ぎとって、「テオさんは面白い。ただ罪は犯すな」と忠告します。



(注8)ただ、妻ジュヨンは警察に乗り込んで、夫ドチョルに、「あなたは私に恥をかかせた。少し心が動いてしまった。私も人間だから」と怒るのです(その際に、ハンドバッグと札束を夫に見せるのですが、チェ常務からの賄賂を受け取っているのでしょうか?)。

(注9)瀕死の重傷を負ったペ運転手も、最後には病院のベッドで目を開けることになります。
 なお、この運転手は、国際的な中古車密売組織を釜山で摘発する際に、ドチョル刑事を現場までトラックに乗せていってくれました(最初の中古車密売組織摘発のエピソードと、チョ・テオを巡るメインのエピソードとはつながりがあります)。



★★★★☆☆



象のロケット:ベテラン


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ふじき78)
2016-02-05 00:10:11
これだよ、これ、「ベテラン」なんで皆、見いへんのという感じで集客にはあまり恵まれなかった映画ですが、どうにもこうにも面白くてねえ。駆け込みでも何でも見た人が増えてくれれば嬉しい。

奥さんの札束は見逃したなあ。もし、貰っていたら一番の悪は奥さんだよね。
返信する
Unknown (クマネズミ)
2016-02-05 19:14:49
「ふじき78」さん、TBSP&コメントをありがとうございます。
クマネズミも、「ふじき78」さんが協力に推薦してくれなかったらこんなに面白い映画を見逃すところでした!
返信する

コメントを投稿