映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

シャッフル

2011年11月06日 | 邦画(11年)
シャッフル』をシネマート新宿で見ました。

(1)このところ観客数が極端に少ない映画ばかりを見ている感じで、この作品も、前々回取り上げた『ヤクザガール』よりも若干多目とはいえ、10名に満たない観客数でした。

 この映画では、最近アチコチの映画でちょこちょこ見かける金子ノブアキ(例えば、『書道カールズ』における書道部顧問役とか、『モテキ』では、長澤まさみと同棲している音楽プロデューサーの役を演じています)が主役の戸辺として熱演しています。



 お話はどんでん返しの繰り返しです。
 戸辺とその仲間のギャング団が、銀行強盗をして5億円ほどを盗み取ったものの、盗んだ金の隠し場所を知っている戸辺が記憶喪失状態に陥ってしまいます。ですが、数時間後に通貨の切り替えが実施されるため、それまでに盗んだお金を銀行に持っていって換金しないと、紙くず同然となってしまうというのです。そこで、仲間は、戸辺の記憶を取り戻すべく、1箇所に集まって、彼に恐怖を味わわせたり混乱状態を引き起こしたりします。
 しかし、自分たちしかいないはずの場所に、モウ1人いて、どうやら彼が全体を取り仕切っているらしいことが分かってきたり、仲間も決して一枚岩ではなく、別の情報を持っていたりして、当初考えられていた状況からはドンドンずれていきます。果たして、彼らはお金を上手く手にすることが出来るのでしょうか、……?

 この映画の舞台は、ところどころで外部の世界が描かれますが、大部分は建物の一室に限られます。というところから、『キサラギ』(2007年)と類似したものといえるでしょう(舞台戯曲を映画化した点でも、また主要な登場人物が男5人なのも同じです)。
 また、人数が2人と5人と差があったりしますが、ラストの雰囲気などは、『アリス・クリードの失踪』と類似するところが若干ながらあるようにも思います。
 ただ、どんでん返しがこうも多用されると、見ている方も次第にインパクトを受けなくなってきて、その次の展開が読めるようにもなってきます。どんでん返しは、やはり、最後に乾坤一擲の勝負を賭けて仕掛けるべきものではないでしょうか?

 とはいえ、新劇臭さは感じられるものの、1室に集まった仲間は、戸辺の記憶を蘇らせようとシナリオを作って演じているという設定(言わば劇中劇になっていると思います)によって救われているように思われます。わざとそのように演じることによって、戸辺に恐怖を味わわせたり、彼を混乱させたりして、その記憶を蘇らせようとするのですから。

 金子ノブアキ以外で注目される俳優としては、『あぜ道のダンディ』で主役を演じた光石研がギャング団を追う警察の刑事役に扮しています。といっても、よれよれのコートを着たうらぶれた男という刑事物でよく見かける格好をしているわけではなく、ソフト帽を被ったダンディな出で立ちで(同僚の刑事は、アメリカの保安官スタイルです)、外見だけからすれば『あぜ道のダンディ』の流れに乗っかっている感じでもあります。

(2)これ以降は、ネタ晴らしになりますので、未見の方はご遠慮願いたいのですが、最初は戸辺の記憶を蘇らせるべく、戸辺以外の4人がシナリオに従って行動しているはずだったところ、途中から、彼らの中に、銀行強盗の情報を警察に流した裏切り者がいて、それを焙り出すためのものだということが明らかとなります。
 その裏切り者が判明して射殺された後に、さあそれでは奪った金を残った皆で山分けしようというまさにその段になって、戸辺の仕掛けた毒入りミルクの効果が現れて3人は息絶えてしまいます。
 結局、戸辺は5億円を手中に収め、その建物を出て外を歩いていると、愛人だったカオリが車に乗って出現し、彼を射殺して金を奪って光石研の刑事と共に走り去ります。
 ですが、……。

 ただ、全体として学芸会風な雰囲気の中で物語が展開している時に、突然拳銃が持ち出されて人が射殺されたり、また毒入りミルクで殺されたりすると、見ている方は、何もそこまでしなくともと違和感が先だってしまいます。
 そんなに悪い奴らの集まりというのであれば、いくら自分たちが拵えたシナリオに従って演じているとはいえ、あのような和気藹々とした雰囲気は場違いな感じが否めず、だったらこんな手の込んだことをせずとも、最初から戸辺は4人を毒殺してしまえばいいのではないのか、などという感じにもなります(別に、裏切り者を焙り出すまでもないのではないでしょうか)。
 それに、こうもどんでん返しが多いと、そこまでするのなら、射殺された裏切り者が実は生きていたとか(防弾チョッキを着装していたなど)、毒入りミルクを飲んだ振りをして戸辺が出て行った後に3人が生き返って彼を追いかける、といったことにどうしてならないのか、など見ている方としては、至極落ち着かない感じになってしまいます。

(3)また、こんな点はどうでもいいことなのですが、ギャング団が盗んだお金が円ということは、まだその時点では通貨単位の切り替えが行われていなかったのでしょう。そして、5人が1週間後に1室に集められたその日の午前0時以降、円は通用しなくなって紙くず同然になってしまうとされています。となると、本作における通貨の切り替えは、極めて短い期間(せいぜい1週間)で行われるということになります。
 その前に、切り替えをするという政府広報が事前になされていれば、ギャング団は円など盗まなかったでしょうから、はなはだ唐突に切り替えが発表されて実施されたことになります。
 ですが、平時において、国民の生活に直結する通貨の切り替が、そんな短時間で行いうるものだとは考えられないことです(注1)。
 アナログから地デジへの切り替えを見ても分かるように、そうした事業は数年がかりで準備した上で行われるのが普通であり、長くて1週間という短期間でことが済むことなど考えられないことです(注2)。
 それに、銀行から奪ったお金は、通常は番号が記録されているはずですから、それを持って交換しにノコノコ銀行などに行ったらたら、すぐさま御用になってしまうでしょう。

 でも、こうしたありそうもない設定は、『スイッチを押すとき』のあり得ない設定(自殺率が異常に高いこと)よりもはるかに受け入れやすいものです。というのも、経済的な事柄に関する設定は、どのみち人の生死といった重大問題に関与しませんから、どうでもいいと言えばどうでもいいと思われますから。


(注1)終戦直後という非常時の「新円切り替え」の場合は、激しいインフレを抑えるために、昭和21年2月16日に金融緊急措置令等が公布され、新紙幣と旧紙幣の交換は2月25日から3月7日までの11日間とされました。

(注2)映画の中では、その日の3時に銀行が閉まるからそれまでに換金しないと大変だ、と言われていました。そうであれば、ラストで紙幣が空に舞い散り、それを仲間の1人の愛人だった女が拾い集めているシーンが描かれますが、最早その時間を過ぎてしまい、紙幣が紙くず同然になってしまっていることを表しているのかもしれません。


(3)渡まち子氏は、「記憶喪失の男に仕掛けた罠とその顛末を、二転三転、いや四転五転ばりのどんでん返しで驚かせることに全力をあげている」が、「ただ密室劇なのに、ときどき登場人物が画面から消えて他の部屋へ移る演出が、上手くない。多用する長回しもあまり効果的とは思えない。演劇ではOKでも、映画ではもう少し編集に工夫が必要だったのではないか。“誰も信じるな”の言葉は、観客に向けてのもの。騙される快感を味わいたい人にはお勧めだ」として55点をつけています。
 福本次郎氏は、「伏線が一切なく突然状況が反転するドンデン返しの連続は一瞬の気の緩みも許さず、強引とも思える語り口は見る者をグイグイと物語に引き込んでいく。まるで停滞を恐れるかのような息もつかせぬ展開は、欠点も含めて演劇を見ている気分だった」として50点をつけています。



★★★☆☆




象のロケット:シャッフル


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2 コメント

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Unknown (KLY)
2011-11-06 22:29:45
えと、そもそも強盗に関しては彼らが決めたのではなくてMr.ヤマシタの依頼だったので、盗む盗まないは本人たちの意思ではどうにもならなかったのではないでしょうか。
ちなみに金額の件なんですが、私は劇中で3億円と言っていたように思います。ただgoo映画やMovieWalkerでは2億円となってるんですよね。これらのサイトは大抵マスメディア用のパンフを元に書いているんで、最初はそうなっていたのかもしれません。
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お礼とお詫び (クマネズミ)
2011-11-07 19:34:45
KLYさん、わざわざコメントをいただき恐縮です。
確かに、「盗む盗まないは本人たちの意思ではどうにもならなかった」のかもしれません。
ただ、たとえ「Mr.ヤマシタの依頼」にせよ、通貨切替えが行われるために時期が悪い、実行期日を切替え後にしたらどうだ、などといった指摘をすることはできたのではないでしょうか?
なお、金額の件ですが、自分がはっきりと記憶していない事柄をKLYさんに振ってしまって、申し訳ありませんでした。
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