孤帆の遠影碧空に尽き

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シリア  アレッポ東部で追い詰められた反体制派 撤退を前提とした即時停戦の決断を

2016-12-08 22:01:29 | 中東情勢

(4年ぶりに、自宅のあるシリア・アレッポ北東部ヘイダリヤ地区に戻った住民(2016年12月4日撮影)。【12月5日 AFP】)

反体制派が支配する地区はアレッポ東部の約4分の1のみ
政府軍と反体制派の間で激戦が続いていたシリア北部の主要都市アレッポですが、包囲網を狭めるシリア政府軍が、反体制派が2012年7月以降支配していた東部地区の4分の3ほどを奪って反体制派を追い詰めており、戦局は最終局面に入っています。


(現時点での勢力図 薄い緑が従来からの政府軍支配地域 赤紫が反体制派支配地域 濃い緑が11月21日以降、政権側に奪われた地域【12月7日 BBC】)

シリア政府側には、反体制派を支援するアメリカで来年1月にトランプ政権が発足する前に決着をつけたい思惑があるともみられています。

****シリア政府軍、アレッポ東部の大半を掌握****
シリア政府軍と反体制派の激しい戦闘が続く同国北部アレッポで、旧市街の大部分を政府軍が掌握したことが分かった。現地の住民や活動家が7日、CNNに明らかにした。反体制派が支配する地区はアレッポ東部の約4分の1のみとなった。

シリア軍は現地時間の7日午前の時点で、同地の要衝や旧市街のほとんどの地区を奪還。アレッポの活動家は、反体制派の戦闘員が撤退したために陥落した地区もあると話している。

国営シリア・アラブ通信(SANA)は7日、シリア軍がこの2日でアレッポの十数地区の「治安と安定を取り戻した」と報道。シリア軍が制圧したアレッポ空港道路の補修も始まったと伝えている。

シリアのアサド大統領は、市民を守るために「テロリスト」を排除しなければならないと強調した。

一方、シリア国営メディアの報道によれば、政府軍が掌握するアレッポ西部では同日、反体制派による砲撃で市民少なくとも12人が死亡、64人が負傷した。反体制派は住宅地に何十発ものロケット弾を撃ち込んだとされ、死者はさらに増えることが予想されるとしている。

活動家団体は、政府軍がアレッポ東部に進攻した11月26日以来、政府軍と反体制派の激しい戦闘で1日に数十人の死者が出ていると訴えている。【12月8日 CNN】
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アサド政権を軍事支援するロシアは、10月18日、一時停戦を控え空爆を一時停止すると発表、その後、11月15日にはシリア北西部イドリブと西部ホムスで大規模攻撃を開始していますが、アレッポ東部への直接の空爆は否定しています。

戦局の転換点となったのは、今年7月17日にシリア政府軍がアレッポ北部の反体制派支配地域と外部を結ぶ道路を遮断、周辺の路地も同月27日までに制圧したことでした。これにより、政権側が反体制派を環状に包囲する形となりました。


(8月1日時点での勢力図 北部補給路が政権側に支配され、反体制派支配地区は孤立する形となりました【12月7日 BBC】)

反体制派は一時、南部からの補給ルート確保も試みましたが、それも政府軍に遮断されています。

安全な脱出ルートがない中で食料や燃料、医薬品がほぼ底を突いた住民生活
アレッポに暮らす住民数は“アレッポには、2012年の時点で250万以上もの人々が住んでいたが、7月の戦闘で20万人が避難した。国連の推計によると、2016年時点でアレッポには反体制派の支配下に27万5000人、政府の支配下に150万人の住民が暮らしているとされる。”【ウィキペディア】ということで、反体制派の支配下にある20万人あまりの住民の安否が懸念されています。

****アレッポ住民20万人の窮状、脱出経路なく空爆と飢えに直面****
シリア内戦の激戦地となっている北部の都市アレッポ。同地は反体制派が4年以上にわたって支配していたが、ここ数日で政府軍が激しい空爆を行うなど攻勢を強め、7日には市内東部の大半の地区を制圧した。

縮小を続ける反体制派の支配地域にはまだ大勢の市民が残り、安全に脱出できるルートがない中で食料や燃料、医薬品がほぼ底を突いて窮状に追い込まれている。

アレッポ東部の活動家によれば、反体制派の支配する10地区には活動家やその家族など20万人あまりが残る。銃弾が飛び交う中を他の地区から避難してきた住民もいるという。

今も運営を続ける数少ない病院は負傷した市民で満杯になり、医薬品はなく設備も整わない状況で「大量殺戮現場」のような様相だと活動家は話す。

7日朝にはスーツケースやビニール袋に身の回り品を詰め込んだ数百人の住民が、疲れ切った様子で、アレッポ東部から西部へ向かうバス待ちの行列をつくっていた。CNNの取材に応じた数人は、飢えや空爆の恐怖に見舞われ続けた惨状を振り返った。

親族8人とともに移動中の60代の男性は「配給される量のパンでは家族を養うことができなかった。食料が不足したため私は目が見えにくくなった」と語る。一家は2人につきパン1斤が3日ごとに支給されただけだったといい、息子の1人は空爆による破片を浴びた。しかしそれよりも、このままアレッポ東部にとどまって一家が餓死することの方を危惧したという。

CNN取材班は、シリア軍が奪還した地域から兵士が高齢者など弱者を連れ出す現場も目撃した。生後わずか7日という乳児を連れた一家や、高齢の女性が乗った車椅子を押す男性もいた。

ユニセフは7日、この10日間で約3万1500人がアレッポ東部から避難したと発表した。推定では約半分が子どもだったとしている。

カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、英国、米国の首脳は7日に発表した共同声明で「即時停戦」を促し、シリア政府とロシアによるアレッポでの行動を非難した。国連に対しては「戦争犯罪」を犯した者の罪を問うよう呼びかけ、「政治的解決のみがシリア国民に平和をもたらすことができる」と強調している。

アレッポ東部に残る市民の正確な数は不明だが、同声明では子どもを含む20万人あまりが食料や医薬品などの供給から切り離されていると指摘した。

激しい爆撃が続く反体制派の支配地域に今も家族と共に残る男性は、携帯メールを通じてCNNの取材に答え、「飛行機の音で目を覚まし、寒さに震え、朝食になる食べ物もなく、きれいな飲料水もない。家族は苦痛と恐怖にさらされている」と証言。多くの人が「埋葬してもらえるあてもないまま死んでいく」と語った。

家族を連れて脱出しないのかという問いには、「どこへ? 政権の支配地域へか? 死んだ方がずっとましだ。自分の兄弟姉妹や子どもたちを殺した相手のところへ戻れというのか」と憤る。

男性の妻は母乳が出なくなり、生後9カ月の娘はお腹を空かして泣き続けているという。娘にはつぶした米飯や紅茶に浸したパンを食べさせていると男性は語った。

アレッポ東部の活動家によると、激しい砲撃や空爆は7日も続き、やむ気配はない。同地の反体制派は5日間の人道停戦を呼びかけ、アレッポからの避難を望む住民は北部へ脱出させるよう求めた。【12月8日 CNN】
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2012年当時の反体制派の侵攻については“アレッポ市民の多くは郊外から侵入してきた反体制派を歓迎しなかったとされる”【ウィキペディア】ということですが、長引く戦闘のなかで“自分の兄弟姉妹や子どもたちを殺した”政府軍への反感も増しているようです。

包囲下に多数の住民が残存しているのは、安全な避難ルートが確保できていないことに加え、上記のような政府軍への反感もあるのかも。

ただ、「(政権の支配地域へ逃げるぐらいなら)死んだ方がずっとましだ」と考えるのは勝手ですが、家族、特に子供たちもそうなのか・・・、そこを考慮した行動をしてもらいたいと思います。

また、政権側の対応への不安もあります。

“政権側は9月以降、反体制派の戦闘員には投降、住民には自主的な退避を求めてきた。11月の戦闘激化後、数万人が政権や少数民族クルド人勢力の支配地域に避難した。だが、政権側が反体制派を「テロリスト」と位置付けているため、「テロリストの協力者」とレッテルを貼られて拘束、拷問されることを恐れ、反体制派支配地域にとどまる住民も多い。”【12月8日 毎日】

この点に関しては、政府側の住民保護に関する保証と実際の行動が必要になります。

壊滅か撤退しかない反体制派 求められる即時停戦の決断
反体制派及び支援する欧米諸国が求めている即時停戦については、下記のようにも。

****アレッポ停戦、米ロが合意間近に=インタファクス通信****
ロシアのリャブコフ外務次官は8日、シリア内戦の激戦地アレッポの停戦について、米ロ両国が合意間近にあると語った。インタファクス通信が伝えた。

リャブコフ氏は「ここ数日、アレッポの情勢に関して突っ込んだ協議」が行われ、両国は「合意に近づいている」と発言。ただ、「高い期待」は持たないよう警告した。

ロシア政府は7日、反体制派のアレッポ撤退については、協議の議題にまだ残っていると述べた。

ロシアのラブロフ外相は7日に続き、8日もドイツ北部のハンブルクでケリー米国務長官と会談を行う予定。【12月8日 ロイター】
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しかし、戦局がここまで動いている以上、シリア政府・ロシアとしては、反体制派のアレッポ撤退が必要条件でしょう。

完全包囲下にある反体制派にとっては、戦闘による壊滅か、交渉による撤退しか選択肢は残されていません。
であるなら、住民被害がこれ以上拡大しない形で、撤退をすみやかに決定すべきでしょう。

欧米諸国も対ロシア交渉だけでなく、支援している反体制派に対し、その線で圧力を行使すべきでしょう。

なお、反体制派は声明で“5日間にわたる即時の停戦と、アレッポ県内にある反体制派の他の支配地域に市民を避難させることを要求した。また、人道的な危機を緩和した後で、「市の将来」についての交渉も求めている。”【12月7日 AFP】とのことです。

「市の将来」とは何でしょうか? 現実問題としては、もはや交渉の余地は残されていないと考えるべきでしょう。

市民生活再開の動きも
破壊しつくされた感もあるアレッポ東部ですが、戦闘と並行して、意外と早い復興への動きもあるようです。

****アレッポの東西結ぶ直通バス、運行開始で住民ら数年ぶり帰宅****
内戦が続くシリアではここ数年間、同国第2の都市アレッポ(Aleppo)の分断された東西地域をバスで移動するために、市民らは時に危険をも伴う10時間の長旅を強いられてきた。

しかし今月3日、政府軍が支配する西部と、政府軍が奪還したばかりの東部地域を結ぶバスの運行が始まり、その所要時間は30分に短縮された。

政府軍がアレッポ東部にある反体制派の拠点6割を奪還した後、西部から東部へと運行したバスは少なくとも10台に上る。どのバスも東部に戻ろうとする人々ですし詰め状態だった。多くのバスには、シリアのバッシャール・アサド(Bashar al-Assad)大統領の写真や、シリアや同国を支援しているロシアの国旗が掲げられていた。
 
夫と息子と一緒にバスに乗っていたハラ・ハッサン・ファレスさんはAFPの取材に対して、自宅には6年近く帰っていないことを明かした。
「私たちの家は全焼したが、80歳になる私の父に会いに行く」とファレスさんは語った。
 
アレッポは、2011年3月に反体制派の抗議運動が始まって以来、30万人以上の死者が出ている内戦の激戦地となった。
 
2012年に反体制派がアレッポ東部を掌握してから、政府が運営するバスは運休していた。市民は中部にあるブスタンアルカスル地区の検問所を通り、爆撃の合間を縫うように移動していた。

しかし、2014年にはこのルートも狙撃手に狙われるようになったため、アレッポの反対側に行くには、民間のバスで10時間かけて迂回(うかい)するしかなくなっていた。
 
しかし、国営バス会社の車両は、このほどの運行開始によって中部の政府支配地域のみを通り、政府軍が先日奪還したアレッポ東部のマサケンハナノ地区まで30分で到着できるようになった。
 
運行ルートには、爆撃を受けて所々陥没した道路や、焼け焦げた車両があちこちに放置されている。マサケンハナノでは、政府軍がアレッポ全域を奪還するために攻勢を強め、今も爆発音が鳴り響いていた。
 
バスはがたがた揺れたが、東部までの運行を再開したバスの1台に乗ったファレスさんはうれしそうだった。「道路には大きな穴がたくさん開いていて胃が痛くなる。けれども、これまで一番順調な旅に思える」とほほ笑んだ。【12月5日 AFP】
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