孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ  エルドアン首相、大統領に鞍替え 憲法改正で「強い大統領」を目指す

2014-08-25 21:51:02 | 中東情勢

(後任の首相に自身の側近であるダウトオール外相(左)を指名したエルドアン首相(右)【8月22日 ロイター】)

熱心なイスラム教徒や低所得層を中心に絶大な人気
トルコで8月10日に行われたトルコ初の直接選挙の大統領選において、予想されたように現首相の首相のレジェップ・タイイップ・エルドアン氏(60)が52%の得票率で勝利しました。

主要野党の統一候補としてイスラム協力機構(OIC)のイフサンオウル前事務局長(70)と、クルド人のデミルタシュ氏(41)も出馬しましたが、得票率はイフサンオウル氏が約36・6%、デミルタシュ氏が9・6%にとどまりました。

首相3期目のエルドアン氏は、与党公正発展党(AKP)の内規でこれ以上の首相続投は不可能なことから今回、大統領選にくら替え出馬したものです。

****トルコ:大統領選出のエルドアン氏 世俗派との融合課題****
2002年から3期連続の単独政権を達成した公正発展党(AKP)の創設者。圧倒的な存在感とカリスマ性から国父的存在と言われる。

イスタンブール郊外の下町に育った。大柄で筋肉質。サッカー好きでプロのチームから誘いが来るほどの腕前だったが、敬虔(けいけん)なイスラム教徒の父親の強い勧めで宗教指導者養成校に入学。マルマラ大学経済商学部に進学し、政治活動を始めた。

1994年、イスタンブール市長に当選。98年、イスラム教をたたえる内容の詩を集会で朗読して政教分離違反で逮捕され、4カ月服役した。

01年、「イスラムの伝統を重んじた民主主義」を掲げてAKPを結成した。
徹底した「どぶ板選挙」で知られる。

熱心なイスラム教徒や低所得層を中心に絶大な人気があり「英雄」と呼ばれる。

だが最近は酒の販売規制や人前でのキスの禁止などを奨励して、世俗派が「イスラム回帰」と反発。昨年夏には大規模な反政権デモに発展し、メディアなどを徹底的に弾圧して「独裁者」とも評された。

今後、大統領の権限を拡大し、政教分離を定めるトルコの国是をゆがめるような事態となれば、世俗派との溝はさらに深まる。

国家の象徴として国民融合を図るのか、新たなる分断をもたらすのか。かじ取りが注目される。
エミネ夫人との間に2男2女。【8月13日 毎日】
******************

首相としての功績
エルドアン首相はトルコ経済を牽引し、外交においても地域大国としての存在感を示し、ひところはイスラム民主主義のモデルとも見られていました。

******************
在任11年に及ぶ首相としての功績も、それと同じくらい輝かしい。AKPが政権を握った2002年11月以降、経済成長率は平均およそ5%で推移してきた。インフレは抑制された。

軍もしっかりした文民統制下に置かれた。

トルコのクルド民族の権利拡大については、エルドアン氏は過去のどの政治指導者よりも大きな進展を遂げた。

そして2005年には、歴代首相が誰一人として成し得なかったことをやってのけた。欧州連合(EU)と加盟交渉を始めたのだ。(後略)【8月16日号 英エコノミスト誌】
*****************

軍部は、エルドアン首相・AKPのようなイスラム主義台頭を警戒する世俗主義の牙城であり、最大の既得権益層であった訳ですが、エルドアン首相はこれまで度々イスラム主義政権を引き摺り下ろしてきた軍部との権力闘争に勝利し、その政治的影響力を抑え込むことに成功しました。

トルコ内のクルド人勢力はトルコ民族主義からは警戒される存在ですが、そのクルド人の権利を一定に拡大することで、クルド系住民の選挙でのエルドアン・AKP支持を獲得しました。

トルコ経済が「中所得国の罠」を抜け、ランクアップするために必要とされるEU加盟については、後述のようなエルドアン首相の強権支配が強まるにつれてEU側の不信感が強まり、現在は加盟交渉は殆ど停滞しています。

もともとEU側にはイスラム国トルコへの強い警戒感がありますので、エルドアン首相が進めるイスラム主義及び強権支配体制によって、加盟の可能性は非常に低いのが実情です。

また、大学など公の場での女性のスカーフ着用(トルコではイスラム主義の表明とみなされる)を認める法案を成立させるなど、信条でもある穏健なイスラム主義を推し進めています。

強まる強権支配傾向
ゆるぎない権力と名声を手にしたエルドアン首相ですが、昨年夏の反エルドアンデモを力で封じ込めた対応のような強権支配傾向が強まっていることが指摘されています。

*****************
しかし、エルドアン氏がアンカラのチャンカヤ宮殿(大統領官邸)の主になることを憂慮すべき理由もある。

軍と世俗的な支配階級、政界野党が皆、エルドアン氏を恐れるようになると、同氏は独裁色を強めていった。

昨年夏、トルコの市民が街頭に繰り出し、ゲジ公園で抗議デモを行った際、同氏の取った対応は、催涙ガスを持った機動隊を出動させることだった。

昨年、エルドアン氏の家族までをも巻き込む汚職スキャンダルが勃発すると、司法をより強固に掌握した。
批判に対しては、エルドアン氏は自由なメディアや個々のジャーナリストを攻撃し、インターネットを検閲しようとした。(後略)【8月16日号 英エコノミスト誌】
******************

憲法改正で大統領権限強化を目指す
エルドアン首相は大統領へ鞍替えするにあたり、これまで儀式的だった大統領職にフランスのような大きな権限を与えようと考えています。

そのためには憲法改正が必要になり、憲法改正のためには議会で3分の2の賛成が必要です。

もし、このエルドアン首相の計画が実現できれば、エルドアン氏に権力が集中した現行体制が続くことになります。

その計画に向けて、大統領職を手にしたエルドアン氏の次の布石は、次期首相に自身の傀儡を据えることです。

******************
エルドアン氏の意図を試す最初の試金石は首相選びだ。

8月中旬、大統領を退任するアブドラ・ギュル氏が首相の座を目指す意思を表明した。ギュル氏は国内外で広く尊敬を集めるだけでなく、短い期間だが、かつて首相を務めたこともある。

そのうえ、同氏はAKPの共同創設者の1人として、エルドアン氏と張り合えるだけの政治的影響力を持っている。(後略)【8月16日号 英エコノミスト誌】
******************

過激な言動が目立つエルドアン首相に比べ、ギュル大統領は穏健で広く信頼されていますが、近年は政治姿勢を巡って両者の間に溝が生じていることも指摘されています。

“最近ではエルドアン政権が反対派による汚職追及キャンペーンを封殺するため、インターネットを規制したことにギュル大統領が公然と異議を唱えるなど、2人の対立が表面化していた。”【8月25日 産経】

昨年末頃、イスラム主義内部におけるエルドアン首相とギュレン師の率いる「ギュレン運動」の確執が注目されましたが、ギュレン派はギュル大統領が首相に就任してエルドアン大統領の権限に歯止めをかけることを期待していました。

結局、エルドアン氏は次期首相には、煙たい存在のギュル大統領ではなく、自身の側近を起用しました。

****経済面の手腕、未知数 トルコ次期首相、ダウトオール氏***
大統領選に当選したトルコのエルドアン首相は21日、首相の後継者にダウトオール外相を選んだ。
外交手腕に優れた右腕とも言える存在だ。

ただ、トルコの政権で最も重要な経済運営は未知数。主要経済閣僚に誰が就くかが、「エルドアン体制」の今後を左右する。(中略)

大学教授の経験から生まれた柔らかな語り口は「敵を作らない」とも言われる。2009年から務める外相では、時に過激な発言で国外と摩擦を引き起こす首相の「火消し役」として、欧米からの高い評価を受けていた。

ただ、経済面での実績はない。エルドアン体制が継続してきた最大の理由は、1人あたり国内総生産(GDP)をこの10年で約3倍に引き上げた経済発展だ。2010年のGDP成長率は9・2%を記録した。

最近は成長にも陰りが見え、14年のGDP成長率予想は2・2%にとどまる。経常赤字体質に9%台の高インフレ、高金利に加え、中東情勢の不安による輸出減の懸念もある。

誰もが注目するのは、トルコ経済を支えた最大の功労者であるババジャン副首相の去就だ。ただ、ババジャン氏は昨年12月に発覚した政権の大規模汚職などを嫌い、再入閣を拒んでいる。【8月23日 朝日】
******************

エルドアン首相の“ギュル氏排除”はかなり露骨だったようです。

****エルドアン・トルコ次期大統領 権力固めへ後継党首は最側近****
 ■かつての盟友・ギュル氏“締め出し”
トルコ大統領選に勝利したエルドアン首相(60)が、28日の大統領就任前に党内権力の強化を進めている。

イスラム系与党・公正発展党(AKP)の後継党首に最側近のダウトオール外相(55)を指名。
かつての盟友で、党重職への復帰に意欲をみせていたギュル大統領(63)憲法規定で党籍離脱中=を実質的に締め出し、次世代にも影響力を拡大することで、党内基盤をいっそう強めそうだ。

ギュル大統領はエルドアン首相の勝利から一夜明けた今月11日、退任後は「(自身が)創設に深く関わったAKPに戻るのが自然だ」と述べ、再び党内で指導的役割を担うことに意欲を示していた。

トルコ憲法は大統領が在職中、特定の党に所属することを禁じており、ギュル大統領の発言は、エルドアン首相の党首退任後を見越したものとも受け止められた。

ところが、エルドアン首相側は、後継党首を正式に決める臨時大会を大統領就任式の前日となる27日に開催すると決定。ギュル大統領の復党が不可能な時期に開催することで、影響力の排除を狙ったと受け止められている。(中略)

一方、後継党首に指名されたダウトオール外相は、エルドアン首相の最側近として知られる。

指名の背景について、トルコ有力英字紙ヒュリエト・デーリー・ニューズ(電子版)は、エルドアン首相が「簡単に操れる人物を後継に求めた」ことがあると指摘する。

エルドアン首相が権力を固めるため、AKPの世代間闘争を利用しているとの見方も強い。結党時からの「第1世代」を代表するギュル大統領を排除し、比較的若い世代のダウトオール外相らを重用することで、影響力を次世代にも拡大させたいとの思惑だ。

来年6月には総選挙が予定されており、AKPが大勝すれば、エルドアン首相が目指す大統領権限の大幅強化に向けた憲法改正が現実味を増す。

行き場を失ったギュル大統領が新党結成に動くとの観測もあり、今後の去就にも注目が集まっている。【8月25日 産経】
*******************

来年6月の総選挙がでAKPが大勝し、エルドアン首相が目指す大統領権限の大幅強化に向けた憲法改正が実現・・・ということになれば、エルドアン大統領はミニ・プーチン化することが懸念されます。
国民融合と言うよりは、反対派は力でねじ伏せる方向でしょう。

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« タイ  暫定首相へ選任で、... | トップ | リビア  アラブ首長国連邦... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

中東情勢」カテゴリの最新記事