孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

トルコ・エルドアン大統領 “活発”な外交・軍事展開で、お疲れモード?

2017-10-11 23:10:36 | 中東情勢
共同記者会見で居眠り
****エルドアン大統領、トルコ・ウクライナ首脳共同記者会見で居眠り****

トルコのエルドアン大統領は9日、ウクライナのポロシェンコ大統領と共同記者会見した。ポロシェンコ氏の演説中、眠り込みそうになる様子の動画がネットに流出した。スプートニクが伝えた。

動画にはエルドアン氏が定期的に寝入りそうになっており、あくびを噛み殺したことがよく見える。
エルドアン氏は9日、ウクライナのキエフを訪問し、ポロシェンコ大統領との首脳会談した。【10月10日 SPUTNIK】
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熱弁をふるっていたポロシェンコ大統領(右)も気づいたようです。テーブルを手で叩いて、エルドアン大統領(左)を起こすようなふうにも見えます。

国内では反体制派の大量拘束という政治闘争継続
ただ、内外に多くの難しい問題を抱えるエルドアン大統領が“お疲れ”なのもよくわかります。

内政の面では、昨年来のクーデター未遂事件を契機とするギュレン派など反政府勢力一掃の“大規模粛清”が続いています。

****トルコ・クーデター鎮圧から1年 政治闘争はなお エルドアン大統領は反体制派を強力締め付け****
トルコで軍の一部によるクーデターが鎮圧されてから、16日で1年となった。エルドアン大統領は、4月の国民投票で承認された改憲で強大な権限を手に入れ、反体制派の大量拘束といった政治闘争を続ける構え。

クーデター事件の黒幕とされる在米イスラム指導者の身柄をめぐり対米関係が一層ぎくしゃくするなど、外交に影響もあらわれている。(中略)
 
エルドアン氏は事件後、米国で暮らすイスラム指導者、フェトフッラー・ギュレン師が首謀したと強調。政府や報道機関に浸透してきた同師支持者らを「国家の脅威」と呼び、公務員15万人以上を停職や免職としてきた。軍や警察などでの逮捕者は5万人に上る。(後略)【7月16日 産経】
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****トルコ軍幹部ら40人に終身刑 クーデター未遂事件****
トルコで昨年7月に起きた軍の一部によるクーデター未遂事件をめぐり、トルコの裁判所は4日、軍幹部ら40人に終身刑の判決を言い渡した。

今回の判決はエルドアン大統領を殺害しようとした罪に対するもので、地元紙などによると、事件で中心的な役割を担った被告らへの判決は初めてという。クーデター未遂をめぐっては別の罪状でも裁判が進められている。(中略)

トルコ政府は、在米のイスラム教指導者ギュレン師とその信奉者団体が事件の「黒幕」と見ており、米国に引き渡しを求めている。【10月5日 朝日】
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同盟国アメリカと対抗措置の応酬 ロシアとは接近
これだけでも大変な事態ですが、最近の外交面でのトルコ・エルドアン政権の“活躍”と言うか、武力衝突や政治対立をものともしない活発な活動は目を見張るものがあります。

あちこちに喧嘩を売っているようにも見えますが、まずはアメリカ。

上記の“ギュレン派一掃”の流れで、アメリカに対しギュレン師引き渡しを要求。これに応じないアメリカと険悪な関係になっていましたが、トルコ側が在イスタンブール米総領事館の現地職員を逮捕したことで互いにビザ発給を中止する事態にもなっています。

****ビザ発給、互いに中止=職員逮捕で対抗措置応酬―米・トルコ****
在トルコ米大使館は8日、米国での一時滞在に必要な非移民ビザの発給業務を中断すると発表した。

トルコ当局が4日、エルドアン大統領と敵対する在米イスラム指導者ギュレン師の支持者と接触したとして、在イスタンブール米総領事館の現地職員を逮捕したことへの対抗措置とみられる。
 
これに対し、トルコ側も米市民へのトルコ滞在用ビザの発給停止を発表した。トルコ外務省は9日、米大使館のナンバー2である首席公使を呼び、撤回を要請。エルドアン大統領は訪問先のウクライナで、今回の米側の決定を「腹立たしい」と述べた。(後略)【10月10日 時事】 
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アメリカとトルコは同盟関係にあり、IS掃討作戦では協調する関係にもありますが、両者の亀裂は中東情勢全体に影響します。

****<米国とトルコ>懸念される中東情勢混乱の拍車 関係悪化で****
米国とトルコの対立が深刻化した場合、とりわけ懸念されるのが中東情勢の混乱に拍車がかかることだ。
 
テロとの戦いを「中東の最優先事項」に掲げるトランプ米政権は、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討作戦で多国間の結束を重視。トルコのイスタンブールの空港やナイトクラブなどで相次いだ大規模テロもISによる攻撃とみられ、トルコ側は国内の空軍基地の使用を米軍に許可して共に作戦を進める。
 
また、シリア内戦でも両国は反体制派を支援。イラク北部クルド自治区が9月に独立の是非を問う住民投票を実施した際も、地域の不安定化を懸念する立場から、共に「投票反対」を早くから表明した。

サウジアラビアなどが6月にカタールと断交した問題でも、トルコと米国は沈静化を目指して外交努力を続けている。両国関係がさらに悪化すれば、こうした共闘態勢にも影響を与えかねない。(後略)【10月10日 毎日】
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トルコとアメリカの間には、シリアのクルド人勢力をめぐる対立もあります。

“ISが「首都」と位置付けるシリア北部ラッカの奪還作戦を巡り、米国はクルド人主体の民兵組織を軍事支援しているが、トルコ側はこのクルド人勢力が国内で非合法組織のクルド労働者党(PKK)と関連があるとして問題視。ラッカの「解放」は間近とみられているが、IS追放後のクルド人勢力への対応を巡り、混乱が広がる可能性もある。”【同上】

トルコはアメリカを牽制するようにロシアに接近し、NATO加盟国としては異例のロシアからのミサイル購入を契約しています。

****トルコ、米への不信背景か ロシア製ミサイル購入契約****
トルコはロシアから最新鋭のS400地対空ミサイルシステムを購入する契約を結び、頭金を支払った。トルコメディアが12日、報じた。

北大西洋条約機構(NATO)の加盟国がロシアから主力兵器を購入するのは異例。背景には、少数民族クルド人の武装組織をめぐるトルコと米国のあつれきがあるとみられる。ロシア側にはミサイル売却でトルコの「NATO離れ」を促す思惑がある。
 
ただ、トルコの外交政策の基本は米国との関係重視であることは変わらず、実際にロシア製ミサイルの配備に踏み切るかは微妙だ。(中略)

トルコと米国は過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討作戦で協力するが、ここ数年、トルコは米国に不信を募らせている。トルコがテロ組織に指定するシリアのクルド人武装組織に対し、米国が軍事支援し、対IS戦で共闘しているためだ。トルコは米国に支援中止を求めているが、米国は応じていない。
 
トルコはシリア内戦をめぐり、ロシアと対立関係にある。トルコが反体制派を、ロシアがアサド政権をそれぞれ支援しているためだ。ところが、クルド人武装組織がトルコ国境沿いで勢力を拡大し、トルコにとってはアサド政権の打倒よりもクルド人武装組織の牽制(けんせい)の方が優先順位が高くなった。ロシアとは昨夏、関係改善を果たした。(後略)【9月14日 朝日】
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シリア・イドリブに軍事介入か ロシアと共闘
一方、ラッカ奪回が目前に迫っているシリアに関しては、ISとは別のアルカイダ系のイスラム過激派を排除するため、イドリブでの「本格的(軍事)作戦」を開始しています。

****シリア北西部で作戦開始=反体制派を支援-トルコ大統領****
トルコからの報道によると、エルドアン大統領は7日、隣国シリア北西部イドリブ県で、トルコ軍が支援するシリア反体制派が「本格的(軍事)作戦」を開始したと明らかにした。ただ、トルコ軍は越境していないという。
 
イドリブ県をめぐっては、シリア内戦の和平を仲介するトルコ、ロシア、イランが同県に戦闘行為を禁じる「安全地帯」を設定する。3カ国の要員が監視に当たることで合意していた。今回の作戦は、トルコ軍の展開に向け、イドリブ県で強い勢力を持つ国際テロ組織アルカイダ系のイスラム過激派などの排除が目的とみられる。
 
エルドアン大統領は7日、西部アフィヨンカラヒサール県でのイスラム系与党・公正発展党(AKP)の会合で「北部アレッポを逃れてイドリブに着いた同胞を助けなければいけない。シリアとの国境沿いにテロの回廊が形成されることを決して許さない」と訴えた。【10月7日 時事】
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作戦は自由シリア軍が行うとされていますが、“トルコ軍の偵察部隊が8日、国境を越え、隣国シリア北西部イドリブ県に入った”【10月8日 時事】とありますので、おって本格的に越境介入するのではないでしょうか。

イドリブ地域ではロシア空軍が活発な爆撃を実施しており、地上ではトルコ軍が支援し、空からはロシア空軍が支援する共闘体制になるようです。このあたりも、前出のトルコ・ロシア接近の背景にあるようです。これまで反体制派を支援してきたトルコがアサド政権を支えるロシアと対過激派で共闘するということは、トルコとしてもアサド政権を事実上容認したということでもあるでしょう。

なお、エルドアン大統領とプーチン大統領はイドリブでの安全地帯設置で合意しています。

****シリア北西部の安全地帯、ロシアとトルコが設置推進で合意****
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領とトルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は28日、トルコの首都アンカラで会談し、イスラム過激派の支配下にあるシリア北西部イドリブ県で、戦闘や空爆を禁じる「緊張緩和地帯(安全地帯)」の設置を推進することで合意した。
 
エルドアン大統領は会談後、イドリブ県での安全地帯設置を「より強力に推し進める」ことで合意したと発表。プーチン氏も同様のコメントを出した。
 
ロシアとトルコは5月にカザフスタンの首都アスタナで開かれた和平協議で、シリア国内4か所に軍事監視団が巡回する安全地帯設置の提案を行っていた。中でもイドリブでの安全地帯設置は重要な意義を持つ。
 
ロシア・トルコ両首脳は、6年以上におよぶシリア内戦の終結に向けて「連携を強化していく」とも表明した。
 
プーチン大統領は「同胞が殺し合うシリア内戦を終結し、テロリストを最終的に敗北させ、シリア人に平和な生活と家庭を取り戻すに必要な条件が事実上整った」との認識を示した。【9月29日 AFP】
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イラク・クルド自治政府の独立阻止で強硬姿勢
次に、イラクのクルド自治政府へのけん制・圧力。

これまでイラクのクルド自治政府とトルコは、自治政府財政の命綱である原油のパイプラインがトルコを通っているとか、トルコの企業がイラクのクルド人自治区に多額の投資を行っているなど自治区財政・経済をトルコが支え、一方、自治政府側からはPKK情報をトルコへ提供する、PKK掃討のための自治区領内へのトルコ軍の侵攻も黙認するなど、緊密な関係にありました。

しかし、自治政府が9月25日に強行した独立を問う住民投票に関しては、トルコは明確に反対しています。

トルコ国内で反政府活動・テロを行うPKKに代表されるように、トルコにとってはクルド人問題は最大の問題のひとつであり、自治政府独立で国内クルド人勢力が刺激されることは容認できない立場にあります。

****<トルコ>イラク国境付近で軍事演習 独立住民投票に圧力****
イラク北部のクルド人自治区の独立の賛否を問う住民投票を巡り、実施に反対する隣国トルコがイラク国境付近で軍事演習を開始した。投票強行の構えを崩さないクルド自治政府に対する圧力とみられ、緊張が高まっている。(後略)【9月21日 毎日】
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****クルド独立阻止へ制裁強化も=断固反対で一致―イラン・トルコ首脳****
イランのロウハニ大統領とトルコのエルドアン大統領は4日、テヘランで会談し、イラク北部のクルド自治政府が強行した独立を問う住民投票は「正当性がない」との認識で一致した。

エルドアン氏は記者会見で「一層の制裁措置を講じる。自治政府は孤立を深める」と述べ、独立機運を鎮めるため圧力を強める意向を示した。
 
イラン、トルコはそれぞれ国内に多くのクルド人を抱え、イラクでの動きが自国に波及する事態を警戒している。自治政府はトルコ経由の原油輸出を主要収入源としており、トルコが原油パイプラインの遮断などに踏み切れば大きな経済的打撃となる。
 
イランもイラク軍との合同演習を実施するなど、自治政府への威圧を強化している。ロウハニ師は「憎しみを高め、宗派対立をあおる試みを非難する」と指摘。「イラクは一つの国家であり、地理的国境の変更は認めない」と語った。【10月4日 時事】 
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****イラクとの国境・空域閉鎖へ=クルド自治政府の独立投票で―トルコ****
ロイター通信によると、トルコのエルドアン大統領は5日、首都アンカラでの演説で、イラク北部のクルド自治政府が独立の是非をめぐる住民投票を強行したことを受け、「(イラクとの)空域と国境を間もなく閉鎖する」と述べた。
 
今回の投票に対する制裁措置として、トルコの各航空会社は既に、自治区への国際線運航を中止していた。【10月5日 時事】
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トルコ・エルドアン大統領はクルド自治政府独立問題のカギを握っているとも見られています。

****イラクからの分離独立はクルドの天敵トルコ次第****
・・・・トルコのエルドアン大統領は住民投票実施に反発。自治区からの石油輸出に対して、「蛇口はこっちにある。それを閉めればおしまいだ」と強硬姿勢を見せた。

だが実際に蛇口を閉めるとは断言しておらず、自治政府の指導者たちはトルコの姿勢が最終的に軟化することに賭けていることだろう。(後略)【10月10日号 Newsweek日本語版】
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ドイツに内政干渉
更に、トルコ・エルドアン政権はドイツなど欧州との関係も険悪になっています。

****2017試練の欧州)選挙でも、トルコと泥仕合 ドイツ総選挙****
(9月)24日に迫るドイツ総選挙に、悪化するトルコとの関係が影を落としている。

トルコのエルドアン大統領はドイツのトルコ系住民に、メルケル首相が率いる与党に投票しないように呼びかけた。これに対し、メルケル氏はトルコの欧州連合(EU)加盟交渉の打ち切りを示唆するなど、泥仕合になっている。
 
ドイツにはトルコ系住民約300万人が住み、人口の約4%を占める。昨年7月にトルコでクーデター未遂事件が起きると、トルコ系住民はエルドアン氏の支持派と反対派に分断され、衝突するようになった。
 
ただ、トルコの大統領権限を強める憲法改正を狙った今年4月の国民投票では、ドイツのトルコ系住民の憲法改正賛成率(約63%)はトルコ国内(約51%)を上回り、エルドアン氏の支持派がやや多いとみられる。
 
南西部ダルムシュタットに住むトルコ系移民のサバハティン・チャキラルさん(43)は「移民はドイツで差別されている」といい、ドイツ社会への反発と自らのアイデンティティーを求める心が、エルドアン氏支持に向かわせるという。
 
ドイツ政府は、エルドアン氏の支持派と反対派の対立がドイツ国内に持ち込まれることへの危機感が強い。与党・キリスト教民主同盟(CDU)は今回の総選挙で「二重国籍の制限」を公約した。移民3世には二重国籍を認めず、ドイツ国籍に統一する。
 
これに対し、エルドアン氏は先月、「トルコたたきで票獲得が図られている。総選挙でCDUと(同党と連立を組む)SPD(社会民主党)に投票しないように」とドイツのトルコ系住民に呼びかけた。

メルケル首相はすぐさま「内政干渉は許さない」と猛反発。今月初めに行ったシュルツSPD党首とのテレビ討論では、トルコのEU加盟交渉の打ち切りを模索することで足並みをそろえた。
 
その後も、トルコ外務省が「ドイツの政治指導者は反トルコで選挙運動をし、トルコのEU加盟も阻止しようとしている」とする声明を出すなど非難合戦が続き、関係修復の見通しは立っていない。【9月22日 朝日】
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4月の憲法改正国民投票の際も、トルコ・エルドアン政権は欧州各国でエルドアン支持の政治集会を行おうとして問題となりました。

エルドアン大統領は、欧州との緊張は欧州域内の政治要因が原因とし、ドイツとの関係は9月24日の独議会選挙後に改善するとの見通しを示していましたが、どうでしょうか・・・。

国内で“大規模粛清”を強行しながら、アメリカとの関係が悪化、シリアには軍事介入、イラク・クルド自治政府には独立阻止で圧力をかけ、欧州・ドイツとは“内政干渉”でEU加盟どころではない状態・・・まあ、これだけ厄介の種を抱えていれば、記者会見中に“居眠り”も出るでしょう。

もっとも、エルドアン大統領の“強気”は今に始まったことではなく、以前はロシア機を撃墜したり、ガザ支援船ではイスラエルと揉めたりと、いろいろ経験していますので、今の状態もさほどのストレスではないのかも。

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