アントンK「趣味の履歴簿」

趣味としている音楽・鉄道を中心に気ままに綴る独断と偏見のブログです。

インキネンのブルックナー第8を聴く

2017-01-21 10:00:00 | 音楽/芸術

昨年の秋から日本フィルの首席指揮者にフィンランドの指揮者ピエタリ・インキネンが就任して、今シーズンはいよいよ本格的な演奏活動を開始するが、そのスタートに選曲した楽曲がブルックナー、それも第8番で勝負するというので、当然のことながらサントリーホールまで聴きに行ってきた。

ピエタリ・インキネン。不勉強であまり聞くことのなかった名前だが、フィンランド出身のまだ若手の指揮者であり、今年で30半ばの年齢だ。シベリウスなどの同郷の作曲家の楽曲が得意らしいが、今回日本フィルの首席指揮者に就任を契機に、今後はレパートリーにドイツ音楽もどんどん取り入れていくとのこと。大変心強いお言葉だ。

さて、サントリーホール改装前の最後の東京定期演奏会に、ブルックナーの第8一本で勝負に出た指揮者インキネン。アントンKにとっては、やはりというか予想通り無難な演奏に終わってしまった。予想に反していたのは、思いのほか設定されたテンポが遅く、しかも頑固なまでにインテンポで貫いていたため、オケである日本フィルが苦しそうな場面が多々散見できたことだ。時に音楽の流れが悪くなり、オーケストラ全体が空中分解しそうになりそうでこちらもヒヤヒヤする箇所があった。このゆっくりじっくりをインキネン自身「Old Stale」と言っていたそうだが、どこがそうなのか意味不明で、機会があれば聞いてみたいものだ。

オーケストラの日本フィルも、決してベストではなかったように思う。このテンポが起因しているとは思いたくないが、各声部が目立ち聴こえやすくなった半面、音色が揃わずバラバラに聴こえてしまうのだ。ヴァイオリン出身のインキネンだから、特に弦楽器に注視してみたが、ブルックナーでは重要なトレモロが小さく物足りない。またベースを元とした低音部が薄っぺらで音楽が非常に小じんまりしてしまい、別の音楽が鳴っているように聴こえてしまっていた。休符の前の弦楽器の扱いが、良く言えば柔らかくソフトに納めていたが、この解釈は、少なくともブルックナーの音楽には似つかない。弦楽器に限らず、全体的に音色のエッヂを取り去り、丸みを持たせたような奏法は、聴いていると非常に心地よく、美しく感じてしまうが、これなら敢えてわざわざブルックナーである必要はない。少なくともアントンKは、この手のブルックナーは好まないのだ。また響きがホールに残っていながら、次に進む感覚はどうしたことだろう。遅いテンポなら、やはり十分な間を感じて欲しいし、こちらもその間を心の中では欲している。音楽が熱く高揚していくようなポイントでは、指揮者インキネンの要求が曖昧であり、何をしたいのか聴衆も目隠しされたような感覚になってしまうのが情けない。終曲のコーダで、ここでもインテンポを貫き微動だにしなかったが、最後の最後ソーミレドのテンポが曖昧になり、空白分解!ここはよく耳にするように、リタルダンドするのか、あるいは昨年のスクロヴァチャフスキのように、一気に終結するのかがはっきりせずに何とも煮え切らない終わり方になってしまった。何だか気になり出したら止めどなくなってきたが、これ以上個々に指摘することはしないでおこう。

今回の演奏会、指揮者インキネンの日本フィル定期演奏会への意気込みは十分に伝わったが、その演奏は残念ながら作為的であり、うまく聴かそうとしていることがわかってしまった。おそらくインキネンは、まじめな紳士であり現代の若い音楽家たちがそうであるように、スマートで技術的にも器用な指揮者なのだろう。練習時間も限られているはずで、あそこまでまとめ上げることは素晴らしく、やはり将来有望な指揮者の一人だと思う。しかし、ことブルックナーの演奏となると大分離れたところにいる指揮者のように感じざるを得なかった。。これは若さから来ることなのかもしれないが、うまく聴かそうとすればするほど、ブルックナーの音楽は遠くに行ってしまうのだ。この日の演奏会場を後にして、アントンKの頭によぎったことは、生前朝比奈がよく言っていた、「愚直に、楽譜にバカ正直に・・・」という言葉だった。

 

日本フィルハーモニー交響楽団 第687回東京定期演奏会

ブルックナー 交響曲第8番 ハ短調 (ノヴァーク版)

指揮:ピエタリ・インキネン

2017(H29)-01-20  サントリーホール



最新の画像もっと見る

コメントを投稿