*****日本加速器学会の会長に就任しておいて何なのですが、加速器って名前、変えたいです。一部のマニアには、サイボーグの必殺技だと思われているし、世間的には謎の装置と思われているような気がする。機能的には、電場を使って、荷電粒子のエネルギーを増やす装置なんですが。いい名前、無いですかね。*****
学会会長のFB 上のお言葉である.
たしかに,16トンの古巣である高エネルギー加速器研究機構 KEK を「加湿器研究機構」と揶揄するツィターを,この2,3日散見している.
そもそも加速「器」というと茶碗・どんぶりくらいの大きさ,素直な方は画像右の回し車みたいなものを想像しそう.しかし衝突型円形加速器 KEKB は周長は3.016kmという代物である.
このKEKBは 8.0GeV(80 億電子ボルト)の電子と 3.5GeV(35 億電子ボルト)の陽電子を衝突させる.トップ画像の横軸は粒子 (電子または陽子) の運動エネルギー,縦軸は粒子の速度を光速度で割ったもの β=v/c である.KEKB の電子・陽電子は遡れば RF 電子銃から供給されるが、この電子銃の電子エネルギーはすでに 2MeV であって,その速度は β=0.9 すなわち光速 c の 0.9 を超えている.このあと「加速」する (accelerate する) のだが,光速より速くはならない.すなわち速度は v=c, β=1 で頭打ちである (正確にいえば,いくらエネルギーを与えても v=c, β=1 には到達できない).加速器の中では速度は増えないのだ.
ただし重い粒子には加速器という名前は OK かもしれない.図のように陽子は 10GeV くらいで光速になる.ちなみに J-PARC MR のエネルギーは 30GeV である.
KEK に途中就職したとき,かなりの人が加速器 accelerator という言葉に違和感を持っているのに気づいた.
相対性理論は 20 世紀初頭にすでに確立していたのだが,加速技術が次々に現れた1930年代にはなんであれ,いくら加速しても光速 c より速くはならないという知識は,単なる知識として終わっていたのだろう.
加速器ではなく加エネルギー器という名前が欲しいところ.中国では「能」でエネルギーを表すとかで,KEK = 高エネルギー研は高能研である.しかし中国語でも加速器は加能器ではなく加速器というそうだ.