Sixteen Tones

音律と音階・ヴァイブ・ジャズ・ガラス絵・ミステリ.....

ヴァージニア・ウルフ「幕間」

2021-04-30 08:31:14 | 読書
片山 亜紀 訳,平凡社ライブラリー(2020/2).

Amazon の内容紹介 BOOKデータベースより*****
*****ヨーロッパ各地で独裁者が台頭し再び戦争の影が迫りつつあった一九三九年六月。イギリスの内奥に位置するオリヴァー家の屋敷ポインツ・ホールでは、年に一度の野外劇が上演されようとしていた―。一昼夜の出来事に、田園の日常と、時代の気配を見事に描き出したヴァージニア・ウルフの遺作、待望の新訳。*****

難解とされて学生時代から敬して遠ざかっていた作家の初体験.この記述がストーリーとどう関係するのか,そもそもストーリーがあるのかと思った.登場人物が次から次へと現れ,誰が誰だかわからなくなったが,どんどん読んだら,意外に心地よかった.訳が良かったのかもしれない.

野外劇そのものもおもしろく,メロドラマ的と思えば前衛的.上演環境も,訳者が台詞を忘れたり,雨が降ってきたり,飛行機が飛んだり.
しかし幕間 Between thr Acts というタイトルが示すように,上演前・幕間・上演後の見物人の挙動のなかにテーマがあるらしい.親切なことにカバーの袖にミステリみたいに「主な登場人物」リストがあり,劇作家以外は見物人.
「主な登場人物」より階級が低い連中が役者になって劇を上演するのだ.
訳者解説に「ひとつの」解釈がある.登場人物のふたり (ひとりは女流劇作家) が同性愛者であることなど,言われて分かった.ただしふたりに交流はない.

もっと若かったら,原書に挑戦するんだけど... 現実にはこの訳書の再読もおぼつかない...

てっきりマチスと思ったら,カバー図版は Vanessa Bell "The Other Room". 



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井原三郎「句文集 全盲の画家」

2021-04-29 09:20:36 | お絵かき
朝日新聞出版 (2013/11).
だいぶ昔の本だが,図書館で背中のタイトルを見て 借りた.

Amazon の紹介*****
幼くして片眼を失明、20年後には全盲となった兄。
失明のどん底でしかし絵画への情熱を捨てきれず悶々とする。
やがて独自の手法を体得し個展を開催するまでになり、メディアに取り上げられる。
次々と進化させた手法を駆使し、60歳で世を去るまで描き続けたその半生を、弟の目から描く第1部。
第2部は「朝日俳壇」で年間俳壇賞を受賞するなど、各種の入選常連者である著者の第2句集として約200句を収載する。
*****

句文集というが,句と文は完全に分離している.文の方は借りた夜に読んでしまったが,句の方は進まない.春夏秋...に分かれていて,秋の句なんて見る気にならないのは当然だと思う.

第1部 エッセイ「全盲の画家」の目次は 1)大騒ぎ;2)心眼を求めて;3)記憶も成長する;4)ヒマラヤの風;5)その後.大雑把に言えば,1) は兄の絵が世に出るまで,2) は技法も含めた兄の絵の発展 である.3) からトーンが変わり,あなた = 兄 に呼びかける文体になる.兄とその家族と著者との葛藤など,書かなくてもいいじゃないのとも 読みながら感じたが,著者としては文章に起伏を与えることをねらったのかもとれない.この本は兄の死後 20 年以上経ってからの出版である.

この本を読んでも,実は「兄」の姓名さえわからない.その他の固有名詞も,T県K市S新聞というふう.
兄の絵画も,カバーイラストだけで,口絵があるわけでもない.しかし,目次の次のページに 挿画 全盲画家 鈴木敏之「家族の肖像」(油彩) との記載があった.ネットを漁ったが鈴木敏之の絵はあまり見つからなかった.

油粘土で輪郭をとり,塗りつぶしてから粘土を取り去るという技法が出発点だったそうで,このカバー絵にはそれが残っている.しかし後年の作品群はこの技法を悟らせないらしい.絵を描き始めたのは失明してから 20 年経ってからで,色も形も 20 年前の記憶に頼っている.
水墨画は別として,絵を描くことは修正作業の繰り返しだと思う.しかし氏の場合,形はともかく,色の方はフィードバックできない...まあ目あきの絵でも,対象の色を再現しているわけではないけれど.

関連記事は有料.しかし上記T県K市S新聞は栃木県鹿沼市下野新聞と判明.
鈴木敏之氏自身の著書もあるが,この井原本における評は辛口.でもぼく的には,こちらのカバーの油彩の方が絵としては良いと思う.
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美術と音楽 アマとプロ

2021-04-28 09:02:34 | お絵かき
先日の波の会展 30 周年記念セレモニーにおけるシンポジウム「美術のすばらしさ」で,松田弘さん (東広島市立美術館 館長) から「絵画にはプロもアマもない」という発言があった.

トップの画像,左は低学年小学生の作
中央の油彩画はかっての人気プロレスラー ジャイアント馬場の作である.太陽の上の八の字に眉を寄せたような雲が,本人の意図したところは知らないが,かわいい.
右は昨日のブログに書いた 90 歳 木村セツさんの新聞切り絵

ぼく的評価では,これらの作品はアマの作品だがプロに劣らない魅力を持っている (ルソーなどは素朴派へたうま派だが,右の2枚はそうは言えない).これに対し,公募展でお目にかかるプロあるいはプロ志望作家の作品は.....

絵画,一般化すれば美術にはプロもアマもない.ところが音楽ではプロとアマの間には大きな溝がある.素人のど自慢の合格者はプロのように歌っているだけで,アマの画家によくある破天荒な面白さはない.

音楽は強固なシステムである.例えば,絵画ではどんな周波数 (どんな色)でも使えるのに対し,音楽で使う周波数は (早く言えば) ドレミファ ..に量子化されている.邦楽をふくむ民族音楽ではこの縛りは緩いが,これらは別なシステムであるといった方がいい.そのため,音楽には学習がつきもので,技術の習得もともなう.バイオリン,チェロなどはドレミファ...を弾くのもたいへん.尺八だって「首振り3年」が学習期間である.
言葉に似ているかもしれない.西洋音楽という言語体系の中に,クラシック語,ジャズ語,演歌語... 喋るには学習が必要.

美術は空間の芸術であるのに対して,音楽は時間の芸術である.絵画は納得できるまでじゅうぶん時間をかけて仕上げればいいが,音楽は時間との競争である.さらに,音楽は多くの場合,ソリストと伴奏者・小編成の合奏・オーケストラなど,共同作業が多い.合奏でボーっとしていると (時間的に) 置いていかれる.その点絵画の方が年寄り向き ?

美術に対し,音楽は保守的と断言したら叱られるだろうか.

わが学生時代には,美大の学生の外見は乞食みたいで,音大の学生はお嬢様に見えた (男子学生は記憶にありません)... 関係ないけど...
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90歳セツの新聞ちぎり絵

2021-04-27 09:00:27 | お絵かき
木村セツさんの画集.里山社 (2020/2).

書店で見つけてすぐに購入.いままで知らなかったのが不思議.

Amazon の紹介
内容*****90歳から始めた新聞ちぎり絵。
著者について*****1929年(昭和4年)奈良県桜井市生まれ。戦争中は学徒動員で紡績工場で働く。戦後、銀行に勤めるが、家庭の事情で退職。三人の子供を育てながら、養鶏、喫茶店、農業など仕事に励む。2018年年末に夫が死去し、2019年元旦から娘の勧めで新聞ちぎり絵を始める。ちぎり絵作家、丸田ちひろ作品などに刺激を受け、才能が開花。孫がツイッターで作品を発表すると、その作品の細かさ、鮮やかさ、作品のユーモラスな可愛らしさなどがたちまち話題となり、「にじいろジーン」「ナニコレ珍百景」などに出演。ツイッターアカウント「90歳セツの新聞ちぎり絵」はフォロワー数3万人以上。現在も精力的に作品を作っている。


楽しんで描いている,ではなく,ちぎっているところに共感.
始めてから1年だそうだが既に完成の域.すごい才能,こどもの頃は絵は嫌いだったそうだ.老眼鏡は使わない.手先までちゃんと動いていて,羨ましい.
娘さん・お孫さんのあとがきがある.娘さんのバックアップ大 ! 逆に言えば,子育てが成功したんだろう.孫の 木村いこ さんは漫画家・イラストレーターだそうだ.プロの目から見た祖母が語られている.

右のブロッコリはセツさんの自信作だそうだ.題材は主として野菜・魚・食品.素材の正体を考えるだけで時間が潰れてしまう.新聞をちぎっているのでときどき文字も顔を出す.この文字も考えて配置しいてる場合があるようだ.
落款はどなたの作 ?
見れば見るほど面白い.
いつまでもお元気で !
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波の会展より

2021-04-26 09:52:32 | お絵かき
第30回波の会展の作品から,わたし的5点.

1 怖いはずはないんだけど,怖い絵.
2 電線,空の色... とてもいい.
3 二紀会 今井省吾画伯の特別出品「終わりの始まり」.いつものテーマだが,トリチウム海洋放出?のニュースの後で見ると...
4 ウィンドウ越しの実像とウィンドウに映った虚像がないまぜになっていて,人物の表情もよい.
5 いつもいい感じ.
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塩分計

2021-04-25 09:12:56 | エトセト等
塩分 (濃度) 計が食卓に出現.商品名「減塩生活」.7つのランプのどこが点くかで大まかに判断するのだが,デジタル表示に慣れているせいか,見やすくはない.
電気伝導度で判断していると思うが,食塩以外の電解質が溶解している可能性はないことになっている.図のような塩酸・硫酸・苛性ソーダは論外としても,アンモニアは・酢酸は ? なんて,深く考えないことにしよう.
シャブシャブした味噌汁・コンソメは OK だがポタージュはどうかな ?

J 子曰く : 塩分は血圧に直結するから,味噌汁は味噌をできるだけ少なくし,出汁の味で飲めばいい,塩分濃度は7段階の下から2番目が目標だそうだ.
たまの外食の味噌汁が美味 ! となりそう.
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最後まで読めなかった (読まなかった) 本たち

2021-04-24 07:27:43 | 読書
水島治郎 「ポピュリズムとは何か - 民主主義の敵か、改革の希望か」中央公論新社 (中公新書 2016/12)
松尾 匡 「左翼の逆襲 - 社会破壊に屈しないための経済学」講談社 (現代新書 2020/11)
青木 栄一「文部科学省 - 揺らぐ日本の教育と学術」 中央公論新社 (中公新書 2021/3)

これらは,読み始めたけれど,結局最後まで読めずに (あるいは 読まずに) 放り出した本たち.別な本,小説かなんかを平行して読み始めてそちらに興味が移ったため忘れ去られるというケースが多いように思う.
このジャンルの本は苦手らしい.

実は小説にも放り出した本は数えられないくらい多い.どうやら翻訳物は読み通す傾向があるようだ.社会科学分野では (上の3冊のように) 良いと思っている本でも放り出すが,小説の場合は放り出すのはつまらんと思った本である.

本を読むことは好きだった.退職したら思う存分読めると思っていたが,目がしょぼしょぼして読む速度は半分以下になった.おまけに既に読んだ本を,また図書館で借りたり.
ちなみに音楽の演奏も,古い曲は忘れ,新しい曲は覚えられず,楽譜はよく見えない.

老い先短いと自覚するに及んで,読み始めた本は最後まで読み通さなければならないと言う強迫観念 (ある意味 貧乏根性) とは おさらばすることにした.
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上野千鶴子「在宅ひとり死のススメ」

2021-04-23 09:15:35 | 読書
文藝春秋 (文春新書 2021/01).

目次 : 第1章 「おひとりさま」で悪いか?/ 第2章 死へのタブーがなくなった/ 第3章 施設はもういらない!/ 第4章 「孤独死」なんて怖くない/ 第5章 認知症になったら?/ 第6章 認知症になってよい社会へ/ 第7章 死の自己決定は可能か?/ 第8章 介護保険が危ない!

こどもがいないから,ふたり暮らしの行き着く先が おひとりさま であることは自明.そうなったら施設に入るのかなと漠然と考えていた.これを読んで在宅ひとり死もいいかなと思うようになった.しかしよく考えてみるとその理由は,施設を探す面倒を避けたいだけ ?

第3章は「施設はもういらない」.ここには,看取りのコストは 病院 > 施設 > 在宅 という不等式があり,在宅ひとり死にいくら必要か が,算定されている.
このあたりは威勢がいいのだが,「第5章 認知症になったら?」あたりになるとトーンダウンする.続く第6章のタイトルが「認知症になってよい社会へ」...ということは,現在の社会では,うっかり認知症にはなれないと言っているようである.
第7章は安楽死/尊厳死否定論.著者の言うことを丸呑みする気にはならない.
第8章では,今まで持ち上げられてきた介護保険が,改訂ごとに使い勝手が悪くなってきたと貶められる.この章の文章は第7章までに比べると難しくて読みづらい.

在宅看取り自己負担の最高は月額160万円と言うところらしい.不可能な金額ではない...というより,この本はこの程度は負担できる層を対象としているのだろう.しかし,この金額を在宅ひとり寝の老人がどう融通するすればいいのだろうか. 株を売る・貯金を降ろす...もままならないだろう.
在宅ひとり死にそなえ,家には緊急コールをつければいい.呼吸・血圧などの計測データを医療センターに直結すればいいとおっしゃるが,自分が住んでいる地方都市でそれが可能なのかどうか.チェックが必要.

この本で感じる違和感はふたつの事実から生まれていると思う.
ひとつは著者が独身であること. 第1章から おひとりさま讃歌だが,疑問がないでもない.
ふたつめは著者が 1948 年生まれで,まだ若いこと.だから想像力が足りない.親類・知人・友人が次々に逝去していく年齢になったら考えが変わるかも.

結局,本にいろいろ書いてあっても,自分のことは自分で対処しなければならない.しかし認知症にならないまでも,気力が衰えれば,それは不可能になる.
病院も施設も営利目的だ.これにならって,在宅ひとり死を請け合うことをビジネスにすれば儲かりそう.
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第30回記念 波の会展

2021-04-22 08:49:11 | お絵かき
4/20(火)-25(日) 広島県立美術館地階・県民ギャラリー.
最終日(日) 1400より美術館講堂にて 「シャコンヌ」によるギターコンサート,1430よりシンポジウム「美術のすばらしさ」松田弘(東広島市立美術館館長),難波平人・難波英子(波の会主宰).

これらの CD ケース絵9点を出品.どれも J 子は酷評.
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タヤリ・ジョーンズ, 加藤 洋子 訳「結婚という物語」

2021-04-21 09:25:07 | 読書
ハーパーコリンズ・ジャパン (2021/3).

先入観なしに,カバーイラストが綺麗なので図書館で借用.この絵の樹には意味があることが終わり近くでわかった.

若い夫婦の心理的葛藤がテーマの,日本の小説によくあるウジウジものかと思って読み始めた.ふたりは黒人で舞台はルイジアナ,ジョージァ.
突然 夫が冤罪で投獄され12年の刑をくらってびっくり.
この投獄と5年後の釈放の経緯はよくわからない.アメリカ南部とはそういうところと思うしかない.

妻が,幼馴染かつ夫の旧寮友である男性と結婚を決意するところで,夫が釈放される.
主要部分はこの3人が交互に一人称で語る.ただし夫の入獄中は,夫婦が交換する書簡でストーリーが進む.
背景に彼らのファミリーがある.特に夫には養父のほかに実父が現れ,夫とその実父が刑務所で同室だったりする.ほかにも小説的な仕掛けが多い.
この小説はアメリカではどういう位置付けなんだろうか.純文学というものが存在するのは日本だけらしいが...

第二次世界大戦後,やっとの思いで生還したら,妻は他人と結婚していた...というケースはありふれたことだった...ということを連想した.

416ページで満腹感大.
「冤罪という悲劇であると同時に、感動的な物語」 - バラク・オバマ アメリカ第44代大統領.その他,Amazon のページには原書のカバーから転載したらしい推薦文句が多数.2019年 女性小説賞受賞! 世界累計100万部突破の話題作,だそうだ.
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