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書評、「アメリカ帝国の終焉」⑤最終回  文科系

2017年03月13日 21時05分40秒 | 文化一般、書評・マスコミ評など
「アメリカ帝国の終焉 勃興するアジアと多極化世界」(進藤榮一筑波大学名誉教授著、講談社現代新書、2017年1月刊)の要約・書評第5回目、最終回になった。今回は、全4章「勃興するアジア」の第3節「太平洋トライアングルからアジア生産通商共同体へ」と最終章「同盟の作法──グローバル化を生き抜く智恵」の要約である。

 東アジアの生産通商状況が世界一の地域激変ぶりを示している。80年代中葉から2000年代中葉にかけて一度、2000年代中葉から後にもう一度。前者は太平洋トライアングルから東アジア・トライアングルへ、後者は「三様の新機軸」という言葉で説明がなされている。

 太平洋トライアングルというのは、日本、東アジア、アメリカの三角関係だ。日本が東アジア(主として韓国、台湾)に資本財、生産財などを輸出してそこの物作りを活発にし、日本、アジアがそろって米国に輸出した時代である。その「日本・アズ・ナンバーワン」の時代が、世紀の終わり20年程でこう換わったと語られる。アジアの生産、消費両方において、アメリカとの関係よりもアジア域内協力・互助の関係が深まったと。最終消費地としてのアメリカの役割がカジノ資本主義・超格差社会化によって縮小して、中国、東南アジアの生産と消費が急増し、東アジア自身が「世界の工場」というだけでなく、「世界の市場」にも変容したと述べるのである。
 例えば日本の東アジアへの輸出依存度を見ると1985年、2000年、2014年にかけて17・7%、29・7%、44・5%と増えた。対して対米国の同じ依存度は、46・5%、29・1%、14・4%と急減である。
 ちなみに、世界3大経済圏(の世界貿易シェア)という見方があるが、東アジアはアメリカを中心とした北米貿易協定をとっくに抜いて、EUのそれに迫っているのである。2015年の世界貿易シェアで言えば、EU5兆3968億ドル、東アジア4兆8250億ドル、北米2兆2934億ドルとあった。


 次にさて、この東アジアが2000年代中葉以降には更にこう発展してきたと語られる。
 東南アジアの生産性向上(従って消費地としても向上したということ)と、中国が主導役に躍り出たこと、および、インド、パキスタンなどの参加である。
 この地域が世界で頭抜けて大きい工場・市場に躍り出ることになった。
 例えば、世界からの直接投資受入額で言えば2013年既に、中国・アセアンの受入額だけで2493・5億ドル、EUの受入額2462・1億ドルを上回っている。
 これらの結果リーマンショックの後には、世界10大銀行ランクもすっかり換わった。中国がトップ5行中4つを占め、日本も2つ、アメリカは1つになった。

 さて、こういう世界経済の流れを踏まえてこそ、日本のあるべき発展、外交、防衛策も見えてくる。最終章「グローバル化を生き抜く智恵」というのは、そういう意味なのだ。世界経済発展の有り様と東アジア経済の世界的隆盛とを踏まえれば、日本の広義の外交の道はこうあるしかないだろうということだ。
 最初の例として、中国への各国直接投資額が、2011年から2015年にかけてこう換わったと指摘される。増えたのが、韓国、フランス、ドイツ、EU4か国などからの投資額で、それぞれ、58・0%、58・4%、38・0%、24・4%の増加。減ったのがアメリカ(11・8%減)と、日本に至っては49・9%減なのである。

 次に、新たな外交方策として、アジア重視のいろいろが提言される。アジア各国の生産と消費との良循環を作ることを通して得られる様々なものの指摘ということだ。今のアジア各国にはインフラ充実要求もその資金もあるのに日本がこれに消極的であることの愚かさが第一。この広域インフラ投資を進めれば、お互いの潜在的膨張主義を押し留めるという抑止力が働くようになるという成果が第二。こうして、アジアが経済的に結びつくことによって不戦共同体が出来るというのが、最後の意義である

 最後に述べられるのがこのこと。日本が見本とすべきだと、日本と同じアメリカの同盟国カナダの対米外交史を示していく。アメリカと同盟関係にありつつも、中国との国交回復では米国に先行してきた。この時の元首相トルドーはアメリカのベトナム戦争に反対したし、その後のカナダもまたアメリカのシリア軍事介入に反対した。このように、カナダの対米外交は対米同盟絶対主義ではなく、国民民生重視の同盟相対主義なのだと解説される。その対中累積投資額は580億ドルとあって、カナダにとって第2位の貿易パートナーが中国なのである。アメリカ帝国の解体と日本の対中韓孤立状況を前にして、カナダのこの立場は極めて賢いものと述べられる。


 さて、この書の結びに当たるのは、こんな二つのテーマだ。英国のEU離脱とは何であり、現在のグローバル化は過去とは違うこういう積極的なものであると。
 英国のEU離脱を引き起こした『(EUの難民)問題はだから、(エマニュエル・トッドが語るような)EUではない。中東戦争の引き金を引いた米欧の軍事介入だ。それを支える米国流“民主化”政策だ」
 そして、現在のグローバル化とはもはや、米英流金融マネーゲームのそれではなく、こういうものだと語られる。
『一方で先進国の不平等を拡大させながらも、他方で先進国と途上国間の不平等を限りなく縮小させているのである』


(終わり)

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「東洋経済」も・・・ (文科系)
2017-03-16 22:57:10
 「東洋経済」12月24日号をぱらぱらとめくっていたら、こんな記事に出くわした。
『「いま」がわかる歴史の読み方』という15頁以上の特集の中に、『グローバルヒストリーから見た 覇権国家の行方・・・欧米からアジアへ』
 これの内容はこういうものだ。
 1800年頃までは、欧州よりアジアの方が豊かだったのだが、今またそういう時代に戻る寸前だと。これを具体的数字で言えばこういうこと。アジア・アフリカのGDPが欧州・南北米大陸のそれを追い越しつつある、と。
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鋭い指摘 (文科系)
2017-04-27 09:57:30
 この本の最後の方の以下のような指摘は、極めて正しく、貴重で、鋭いものだと思う。

『アジアが経済的に結びつくことによって不戦共同体が出来るというのが、最後の意義である』

『 英国のEU離脱を引き起こした(EUの難民)問題はだから、(エマニュエル・トッドが語るような)EUではない。中東戦争の引き金を引いた米欧の軍事介入だ。それを支える米国流“民主化”政策だ」』
 トッドは、その学問方法論上各国のこと中心にしか見られない人。つまり、国際問題自身は苦手なはずなのだ。それを、日本の論壇が事実以上に称揚している。

『そして、現在のグローバル化とはもはや、米英流金融マネーゲームのそれではなく、こういうものだと語られる。
「一方で先進国の不平等を拡大させながらも、他方で先進国と途上国間の不平等を限りなく縮小させているのである」』
 これも,世界政治史にとってとても大事な指摘であるが、まだ時期尚早ではないか。米英金融はまだまだじたばたするはずだ。むしろBRICSの実態経済に食い込んでいくために。トランプが中国に低姿勢なのは、そんな狙いも大きいと思う。何せアメリカには、現生が無いのだから、レバレッジを掛けて株や為替で勝負するしかないと思う。デリバティブに引っかかる小金持ちも世界にはまだまだ居るだろう。
 この点では,ベネズエラ情勢が非常に怪しい。アメリカが猛烈な反政府工作をしているのだが。ベネズエラが握れれば、長年お望みイランを落としたほど、アメリカにとって大きな価値があるのではないか。
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Unknown (sica)
2017-04-28 04:30:54
最も不戦共同体として成功しているEUのように、経済のみならず「自由」「民主主義」「平等」「法の支配」などの共通の価値観が必要になります
そのEUでさえも表立って口には出しませんが「共通の宗教(キリスト教)」「共通の仮想敵国(ロシア)」を共有しているのも、一つにまとまった大きな理由です
トルコが長年EU加盟を申請しても加盟できていのも、宗教・人権が理由です

翻って日中という2か国だけでも、「自由」「民主主義」「平等」「法の支配」を共有しようというのは、はるか遠い未来の話となります
中国共産党の事実上の一党独裁国家である限り無理です

それと最大の問題を忘れているのか、意図的に無視しています
日本と中国が結びついたら、日本の仮想敵国は世界最大の軍事大国・米国となります
日中の経済関係がどれだけ緊密になろうが、中国が米国を最大の仮想敵国としている安全保障関係は変わりません
また中国の米国に対する盾となり、最前線基地となった日本が米国に「仮想敵国にしないでくれ」と懇願してもその願いを聞くことはありません
米軍には日本列島を守れる軍事力がありますが、中国に日本列島を守れる軍事力はありません
日本は日米同盟の時代より、さらなるいばらの道を歩むことになるでしょう
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アクセス4位 (文科系)
2017-06-26 12:02:44
 昨日このエントリーがここのアクセス数ベスト10の4位になった。とても嬉しい。

 このエントリーに書いてある重大な数字のほとんどが、読者には初耳のことばかりと確信する。それほどに、日本人には日米で急進しつつある弱みが知らされず、認識されていない訳である。そうだからこそ、日米の力をなお過信しつつ、安倍のような「幻想の政治」を進行できるのだろう。一例を挙げれば、こんな現状でもしも対中貿易が閉ざされたら、2%目標など永遠の彼方へと吹っ飛ぶどころか、たちまちにして二流国である。内需をとことん痛めつけてきたツケなのである。

 アメリカにはもはや、どんな超大国の力も残っていない。そもそも世界各国の信用というものをすっかり失ってしまった国なのである。
 イスラム諸国には勿論、ドイツを筆頭に西欧も「嘘の理由開戦・イラク戦争」と、「サブプライム・デリバティブ」を掴まされたことによっていまだに続いている苦痛。
 南米は、ベネズエラに対する「世界の警察官」の「民主化戦略」の行方を固唾を呑んで見守っていることだろう。
 BURICSは勿論、反米!
 そして何よりも、もうG7では世界は動かせない。さらには、アメリカがG20を説得するということは、国連を説得することと変わらない。

 以上、アメリカ断末魔の世界現象である。泣き面に蜂の、国家累積赤字は70兆ドル。米GDPの4倍を超えて、大型兵器は老朽化していくだけなのだ。ここ10年ほどのように、サブプライムデリバティブのようなものを売って貿易赤字を改善するという道も、もうほとんど閉ざされているはずだ。
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意外な数字 (文科系)
2018-05-07 10:25:11
 ここに挙げてある日本の経済関係数字は、僕も驚いたが、国民も意外に知らないことだと思う。
 対米貿易がこんなに減っていて、東アジア依存がこんなに重くなって来たとは。
 そして、対中国各国投資額がこれだけ増えている近年において、日本が50%もこれを減らしているというこも。この減額はおそらく政治的なものだろう。その歴史修正主義によって敢えて中国と対立するような施策を採ってきた安倍政権になって特に、減額が激しいのだから。ただ、このことが、日本の大変な経済不振の一環だとは言えるのではないか。つまり、日本国民一人当たりGDPの急落原因のひとつ、と。最高時世界3位であったものが今や、30位ほどに落ちてしまった。

 安倍政権はその政治信条によって経済発展を後退させてきたわけだ。丁度、北朝鮮の転換によってもたらされたアジア情勢急変に「日本が蚊帳の外」という現象と同じものと言えるのではないか。

 こういう情勢にはマスコミも責任があると思う。中国のことと言えば「習独裁」しか取材観点が無いというような。これも大切な観点だが、「政治は政治、経済は経済で別」という見方もあるはずだ。
 ますこみにも、安倍政権忖度があるのではないか。
 
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お勧めエントリー (文科系)
2018-06-27 00:05:53
 このエントリーがベスト10の2位に入った。非常に嬉しい。コメントにも書いたように、日本マスコミが全く扱わない世界・日本の経済情勢(数字)ばかりが語られてあるからである。日本の株価一喜一憂も、実はそんな「長期情報不足」という砂上の楼閣の上に繰り広げられてるものだから、長期的に見れば誤情報ばかりでみんな騙されていくということなのだろう。

 FXとかをやっている人でも、こういう根本的な長期情報を持っている人が果たしているのかどうか? 持っていなければ、結局こういうことになる。「リーマンショックで大金を奪われた、南山大学、藤田保健衛生大学」。アジア通貨危機で直接間接に金を全て奪われた無数の人々。ちょこちょこ儲けてどさっと損するという、カジノの原理である。今の株価なんて結局そういうものだろう。

 というようなことは、10年単位ぐらいで見ればとてもよく分かる流れなのだ。
 ちなみにこのブログでは、06年からリーマンショックの警鐘を鳴らしてきた。06年11月1日、12月5日などの記事がそれである。
 右欄外のバックナンバーから入れば、こういう古い記事もお読み願えるんです。バックナンバー欄年月で06年11月をクリック。すると、すぐ上の今月のカレンダーがその月のものに替わるから、11月1日をクリックする。すると、その日のエントリーだけに、エントリー本欄が替わります。よろしく。
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アメリカが分かる本 (文科系)
2018-12-27 14:12:10
 このエントリーが、ここのアクセス・ベスト10の3位に入った。読んで下さった方々に是非一言。

 この本は「斜陽アメリカ」の数字がふんだんに出て来る、良書です。まるで、日本版チョムスキー本をもっと具体的リアルにしたような。日本のマスコミにはアメリカのマイナス情勢はほとんど載りませんから、よけい貴重だと思います。これを読むと次のこともよーく分かるのです。

・トランプ出現も含めて今のアメリカのアメリカ例外主義と言って良い国際的単独独善行動が今や、暗黙の内に軍事に物を言わせた苦し紛れの無理押しになっているということ。
・このままだと中ロとの関係を一方的にエスカレートさせるしかないのであって、相当のチキンレースも予想されるということ。
・政治闘争らしいものの歴史が浅いアメリカでは、公正とか国際規則とかの論議が国内で全くなかったと言って良く、上記単独主義には、人類の世界史的英知が欠けているように見えるから、ちょっと怖いということ。 
 こうして、今の世界はかなり危機的状況にあると思うのです。第二次世界大戦前と同じ、過剰生産恐慌、ブロック経済から、国や人々が生きていくためにだけでも生き馬の目を抜くような生存競争に駆り立てられていくと、そんな状況になっていますし。
 その中で、年間GDPの4倍の累積赤字を抱えるに至った斜陽の軍事超大国に現れた、無能なのにマッチョな自己顕示だけという斜陽そのものの大統領がトランプと、そんな風に僕には見えます。

 それにしても、そろそろ日本のマスコミもアメリカのマイナス面をきちんと報道しないとね。国民の政治判断をミスリードするばかりのままじゃ、国にも必ず悲劇が起こりますよね。こういう世界情勢関係なく、「日本は立派な国」と植え付けたいだけという「趣味」のような政治を目指す宰相を頂いていますから。
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