前回、職業がんを調べていて、ヒ素の発がんリスクが意外と高いことに気がついたので、少しまとめてみました。
まず、自然界に存在するヒ素は、大きく分けて有機ヒ素と無機ヒ素の二種類があり、このうち、無機ヒ素の方が毒性が強いそうです。また、ヒ素、およびその化合物は、国際がん研究機関 (IARC) の発がん性物質のリストでグループ1に登録されている強い発がん物質です。
ヒ素に関するニュースを調べてみると、イギリス食品規格庁(Food Standard Agency:FSA)が、2004年7月28日に、日本産のひじきには高濃度の無機ヒ素が含まれているので食べないよう国民に勧告しています。カナダでは、同様の勧告を2001年10月に行なっているそうです。
ただし、ひじきを食べて健康被害が出たという話は聞いたことがないので、毎日大量にひじきを食べない限り、それほど心配する必要はなさそうです。この件については、東京都福祉保健局のホームページに詳しい解説があるので、ご興味のある方は「福祉保健局 ひじき」で検索してみてください。
また、2003年には、茨城県神栖町(現神栖市)で井戸水を利用していた住民に有機ヒ素中毒が発生しました。住民には、手足の震えやしびれ、歩行困難などの症状が出たそうで、井戸水を検査したところ、最高で水道水基準の450倍のヒ素が検出されたそうです。詳細は、神栖市のホームページをご覧ください。
世界保健機関(WHO)が定めたヒ素の水道水基準は、10μg/リットルで、この水を毎日飲んだ人が死ぬまでにがんを発症するリスク(生涯発がんリスク)は0.0006(1万人中6人)と見積もられているそうです。
ちなみに、大気汚染の環境基準は、生涯発がんリスクが0.00001(10万人中1人)以下となるよう決められているそうですから、ヒ素の水道水基準はやや甘いと言えます。これは、ヒ素が自然界に豊富に存在していて、あまり厳しい基準は現実的でないことが理由のようです。
なお、一般的な自然水のヒ素濃度は、1~3μg/リットル程度であり、日本の水道水はろ過されてそれよりも低い値となっているので、水道水を利用する限り、ヒ素について心配する必要はなさそうです。もし、井戸水や温泉水を利用する場合は、ヒ素濃度が定期的に検査されているかどうか確認することをお薦めします。
それよりも重要なのは、食品中のヒ素です。厚生労働省が調査した「総ヒ素の食品群別摂取量(平成14~18年度平均)」によると、食品群別の1人当たり1日総ヒ素摂取量は、以下のようになっています。
米 12.6μg
野菜・海藻 63.0μg (野菜は、有色野菜を除く)
魚介類 95.3μg
その他 6.9μg (このうち、飲料水:0.1μg)
合計 177.8μg
ちなみに、神栖町の有機ヒ素中毒事件では、毎日2リットルの水を飲んでいたと仮定すると、最大で9,000μg(=10μg×450×2)の有機ヒ素を毎日摂取していたことになります。
また、無機ヒ素に限ると、以下のようになっています。
米 10.8μg
野菜・海藻 40.6μg (このうち、ひじき:20.4μg)
魚介類 4.8μg
その他 4.2μg
合計 62.8μg
一方、アメリカ環境保護庁(EPA)は、無機ヒ素の皮膚がんリスクを、1.5/(mg/kg/day)と見積もっており、日本人の平均体重を60kgと仮定すると、この無機ヒ素による皮膚がんの生涯発がんリスクは、(0.0628/60)×1.5=0.0016(1000人中1.6人)と計算できます。
これは、大気汚染の環境基準の160倍ですから、我々は、日本の食品がヒ素に汚染されているということを認識して、今後ともヒ素に関するニュースには注意を払う必要がありそうです。
もっとも、国立がん研究センターの「最新がん統計」によると、例えば男性の胃がんの生涯発がんリスクは、0.11(100人中11人)ですから、ヒ素の心配をする以上に、基本的な生活習慣の見直しが大切だと思います。
最後に、ヒ素は医薬品としても使われています。かつては「ホーレル水」という名前で、貧血、マラリア、リウマチなどに処方されたそうで、近年では、急性前骨髄球性白血病の特効薬として処方されているそうです。
ただし、ホーレル水などの無機ヒ素を含む薬を投与された患者には皮膚がんが多発したという報告があるそうなので、もし使うのなら、最後の手段という覚悟が必要かもしれません。
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