『漢方の味』(鮎川静:著、日本漢方医学会出版部:1939年刊)という本をご紹介しています。今回は第7回目です。
◆風邪と脳膜炎
これまで何度もご紹介したように、漢方医学によると、多くの病気の原因は、瘀血(おけつ=古くなった不要な血液)と水毒(体内の水分が過剰な状態)だそうです。
そして、この瘀血と水毒を揺り起こして種々(いろいろ)な病気を起こさせる動機となるのが、古来より万病のもとと言われている風邪(かぜ)だそうです。
また、本ブログの「解熱剤と氷枕の罪悪」でご紹介したように、風邪の際に発熱するのは、病気を追い出すために身体の方から出す抵抗の表われであり、これを解熱剤や氷枕を使って無理に下げようとすると、今まで潜んでいた瘀血や水毒が追い込まれた外邪(がいじゃ)と結びついて、肺炎や肋膜炎、胃腸病、中耳炎、脳膜炎などを引き起こすそうです。
この本には、脳膜炎の症例が載っているのでご紹介しましょう。
あるとき、鮎川氏の奥さんの姪が病院でお産をしたのですが、間もなく脳膜炎にて危篤との電報が届いたそうです。
そのとき、鮎川氏は、この脳膜炎は風邪と瘀血が結びついた病気であると直感したので、漢方医にかかるよう打電したそうです。
漢方医は往診してくれ、桃核承気湯(とうかくじょうきとう)という瘀血下し(ふるちくだし)の薬を与えたそうですが、たった一服で危篤の脳膜炎が治ってしまったのだそうです。
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一般的には、漢方薬は慢性病に有効だと思われているようですが、漢方に関する書物を読むと、漢方薬が真価を発揮するのはむしろ急性病においてのようです。
今回登場した桃核承気湯という漢方薬は、『漢法医学講演集 第1輯』(森田幸門:述、木曜会:1940年刊)という本によると、下腹部に炎症があって、そのために脳症を起こしてきて、尿道、または子宮、肛門から出血する場合に用いる薬だそうです。
また、急性の熱病による鼻血、腸出血(黒い便)、血尿にも有効だそうです。
慢性病に対しては、神経の使いすぎで、血色が悪く、身体が衰弱し、食欲がなく、胸の中に物が詰まった感じで、みぞおちのところが痛む場合に有効だそうです。
また、瘀血による腰痛(夜間に特に強く感じる痛み)にも非常によく効くそうです。
ただし、この薬は、陽証あるいは実証の場合には著効があるが、陰証・虚証には用いてはいけないと書かれているので、ご注意ください。
ちなみに、陽証は有熱性伝染病で熱が高い場合、陰証は虚弱なため熱が出ない場合や疫痢のように手足が冷たくなる場合を指すそうです。
また、実証は、一般的には体力が充実している状態で、虚証はその逆とされているようですが、自己判断は危険なので、漢方薬を使う場合は漢方医に診断してもらって最適な薬を処方してもらうようにしてください。