先月は「正心調息法」の講習会に参加したので、いずれその内容をご紹介しようと思っているのですが、その前に、予備知識として呼吸法の話をさせていただきます。
我々は、激しい運動をした後には肩で息をすることもありますが、平静時には、胸(肋骨)を動かす胸式呼吸や、お腹を動かす腹式呼吸で呼吸しており、女性は胸式呼吸の人が多く、男性は腹式呼吸の人が多いと言われています。
腹式呼吸をもう少し詳しく説明すると、横隔膜を上下させる呼吸法で、息を吸うときには横隔膜を下げるのでお腹が出て、息を吐くときには横隔膜を上げるのでお腹が引っ込みます。(ただし、息を吸うときにお腹を引っ込める逆呼吸というものもあります)
この腹式呼吸と関係が深いのが「丹田」(たんでん)です。
ちょっと古い資料になりますが、『教祖御講釈』(直原伊八郎:著、黒住教日新社:1919年刊)という本によると、黒住教の黒住宗忠教祖は、丹田の重要性について次のように語っています。
「御陽氣を吸ふて下腹をはり、日々怠らず年月を重ぬる時は、臍下(せいか)氣海丹田、金石の如く堅くなる。(中略) 御陽氣臍下に集合積重固結すれば、病なく、身體(からだ)都(すべ)て健剛なり。」
「御陽氣」とは太陽の気で、これを吸って下腹をはるとは、まさに腹式呼吸のことです。つまり、腹式呼吸によって太陽の気を臍下氣海丹田に蓄えれば、病気はなくなり、身体は健康になるというのです。
なお、黒住宗忠教祖については、以前、本ブログの2011年5月20日の記事「心で病気を治す」でご紹介していますので、よかったらご覧ください。
ところで、「臍下氣海丹田」とは具体的にどこにあるのでしょうか? 『教祖御講釈』の記述によると、どうやら小腸の中心あたりにあるように思われますが、参考までに、『気海丹田吐納法』(川合清丸:著、東京崇文館:1912年刊)という本の解説をご紹介しましょう。
「仙家にては臍輪の處を稱して氣海と云ひ、臍下一寸五分の處を丹田と云ふて居る」(仙人になる修行をしている人たちは、へそのところを称して氣海と言い、へそ下一寸五分(約4.5cm?)のところを丹田と言っている)
とあるので、氣海はへそのあたりにあり、その4~5cm下に丹田があるようです。さらに、この本によると、氣海とは、全身の元気が集まるべき海という意味であり、丹田とは、不老不死の仙薬である「大還丹」(たいけんたん)を作り出す田地という意味だそうです。
したがって、氣海丹田は、元気の素(もと)であり、身体の中で最も大切な場所なのだそうです。
古来より、座禅や武道において丹田の重要性が伝承されていることは有名ですが、明治時代以降に発生した様々な健康法においても、丹田を意識した腹式呼吸を重視するものがいくつもありました。例えば、川合式気合強健法、土居式心身膽錬法、藤田式息心調和法、岡田式呼吸静座法、二木式腹式呼吸法、前野式静座法、丸山式身心健康法などです。
呼吸は無意識にしていることが多いものですが、ちょっと丹田を意識するだけで健康になれるとしたら、とても素晴らしいことですね。