前回は、余命3か月の胃がん患者が、手術を受けたもののすでに手遅れで、結局何の処置も受けなかったにもかかわらず、奇跡的に完治したお話をご紹介しました。これには、生薬の効果もあったでしょうが、名医に手術をしてもらったという心理的な効果も無視できないと思われます。
というのも、私自身、似たような話を聞いたことがあるからです。その話とは、次のようなものです。
ある医療関係者が、肝臓がんの手術をする友人に、日本一の外科医を紹介したそうです。しかし、その外科医が開腹してみるとすでに手遅れだったため、何もせずに縫合し、本人には手術は成功したと告げたそうです。ところが、その肝臓がんの患者はどんどん快復して、無事に退院することができたのだそうです。
これは、名医に手術をしてもらったことで、必ず治るという確信が生まれ、それがきっかけで今まで眠っていた免疫機能が発動し、がんを克服することができたのかもしれません。
ところで、このような心理的効果をもっと積極的に利用する手術を、偽手術、または偽装手術といいます。これは、薬の効力を調べる際に使われる偽物の薬(偽薬=プラセボ、またはプラシーボ)の手術バージョンと考えると分かりやすいようです。
偽薬は結構有名なので、ご存じの方も多いと思いますが、実は偽手術の効果も以前から知られていたそうです。『プラシーボの治癒力 心がつくる体内万能薬』(ハワード・ブローディ:著、伊藤はるみ:訳、日本教文社:2004年刊)という本に書かれている偽手術のお話をいくつかご紹介しましょう。
それによると、1950年代には、狭心症の患者に対して、胸部動脈結さく手術というものが行なわれていたそうですが、結さくしなくても、同じく良好な結果を上げることができたそうです。(なお、胸部動脈結さく手術は、狭心症の根本的な治療法ではなかったそうなので、この手術自体が偽手術だった可能性もありそうです。)
また、ノーマン・シェア博士は、1965年に、「心に問題を抱え、腹痛を訴える患者に対して、腹部を切開した後、何もせずに縫合する手術を行ない、良好な結果を上げた医師がいた」と報告しているそうです。そして、毎年何千件もの虫垂切除手術や子宮摘出手術がプラシーボとして行なわれていることは間違いないだろうと語ったそうです。
さらに、1990年代には、変形性ひざ関節症に対する偽手術が行なわれ、本物の手術と同じ効果があったそうです。(ベイラー大学の退役軍人病院に所属するJ・ブルース・モーズリー博士のチームの研究)
この本の著者は、偽薬や偽手術が効果を発揮する仕組みについて、患者が「これは効く」と確信することによって、体内で必要な化学物質が合成されるのではないかと考えています。つまり、心が病気を治すという考えです。
これは、以前ご紹介した「サイモントン療法 」とも共通する考え方であり、他にも豊富な症例を並べて心と病気の関係を解説していて、現在がんで悩んでおられる方には非常に参考になる本だと思いましたので、ご紹介させていただきました。