風の強い日 一心に祈る女がいた
燃えろ!燃えろ!火事よ起これ!炎よ来い!
火の粉よ飛んで来い!ーと
随分物騒な願いではあるが 女の願いは叶い 火は牢へと届き囚人達は解き放ちとなった
但し決められた刻限までに決められた場所へ戻らないといけないのだが
牢内へ火が来るように祈っていたのは仙石屋の後妻お才の姪のおゆき
自慢の厚化粧はなく煤けた色黒の顔に吊り上がった目ばかりがぎらぎらしている
暫く後 おゆきは火のついた棒切れを持って走っていた
この女の頭にあるのは仙石屋と香野屋とに火をつけて燃やすこと
火事のどさくさにおみつを殺そうと思っている
「みんな みんな 殺してやる!」
宝福堂の吉太郎 菓子作りしか頭にない阿呆
新吉さんのいる仙石屋に戻るには邪魔だった亭主
嫁になど行きたくなかった
十三の年に死んだ母親の姉お才におゆきは引き取られた
お才が後妻に入っていたその店には太助と新吉の兄弟がいて
おゆきは新吉を初めて見た時 -こんな美しい人間は見た事がないーと思ったのだった
少しずつ大人びてくる年下の少年に いつかおゆきは妙な思いを抱くようになる
その肌に触れたい触れられたいと思うようになったのだ
そんなおゆきをどう見咎めたのか 亀三は早々におゆきの縁談を決めた
宝福堂の跡取り吉太郎
悪い縁談ではなく おゆきには断れなかった
ならば自力で新吉のいる仙石屋へ戻るしかない
戻るには亭主が邪魔だ
子供ができないうちなら戻れる
吉太郎の子など産む気はなかった
やれ月のモノだどうのと・・・・・
ところがおゆきは淫蕩な性質(たち)だった
男に抱かれるのは嫌いではなかったのだ
そうしたことをしながらー子供のできないやりようを覚える
男が女にするあれやこれやを新吉にされたいと 他の男に抱かれながらもおゆきは願った
外では遊んでいると評判の新吉なのに 店の堅気の女には目もくれない
少し深く衿を開けて着物を着ても裾を見せて歩いてみても駄目だった
太助亡き後 女房となったお蘭の誘いにも乗らず 次のおみつも幾年も抱かずー
それなのに とうとう新吉はおみつを抱くようになり仲睦まじく過ごすようになりー
その様子を夜には離れに近寄り庭から盗み聞いては おゆきは体の血を滾らせた
ーこんなに自分という女が抱かれたがっているのにー
おみつを追い出して やっとやっと女房におさまれたと思ったのに
お才には自分がどれだけ新吉を想っているか泣いて縋って甘えて訴え とりこんでおいた
「年上だし出戻りだし あたしなんざ相手にしてもらえません
いくら思ったって」
それに乗ってお才は「任せておおき!」と言ったのだ
「おみつなんざ追い出してやるよ
悪いようにはしないよ おゆき」
利用価値のある間はお才を生かしておこうとおゆきは思っていた
小うるさい女だし邪魔になればどうにかして片付けてしまえばいい・・・
吉太郎 太助 お蘭 亀三と殺(あや)めてきた
おゆきにとって邪魔な人間をいなくする事なぞ何ほどの事でもなかった
おゆきが捕えられてお才は命拾いをしたと言える
狂ったように走るおゆきが仙石屋の近くまで来た時 前に立ちはだかった者がいる
同じく解き放ちで仙石屋に向かった加助
加助は捕えられ牢の中でやっと自分が何をしたか我に返って気付いた
誰にのせられてしまっていたか
綺麗な綺麗なおみつ様への憧れ
その想いをどう汚され利用されていたのか
優しい笑顔で近づいてきた女
ーもしやお前さん おみつ様のことが好きなのー
ーおみつ様 御気の毒よね 若旦那はどうして手を出さずにいられるのかしら
あんなに色が白くって柔らかそうな肌なのにー
ーおや加助 お前 女を知らないのかいー
ーじゃ 抱き方を教えてあげるよ
ふふふ 女は体の扱いが上手な男に惚れるのさ
一度 男の体を知ってしまうと時々どうしようもなくなるんだ
店の者には内緒だよー
加助は初めて知った女の体に溺れた
ー駄目だよ お前はおみつ様に惚れてるんだろ
おみつ様だってお前に気があるのかもしれないよー
ー女は一度抱かれると弱いのさ
あたしみたいに・・・男の体に夢中になっちまうー
魔の囁きだった 加助にとって
いつかその女 おゆきに操られていたのだ
ーあの時 おみつ様は化け物を見るような目で自分を見た
自分は化け物になっていたのだと加助は気付き 火事で解き放ちとなって
一言おみつ様に謝りたくて戻ってきた
加助はおみつが香野屋の寮にいることを知らなかったのだ
取調べの時に加助が知ったのは聞かされたのは おゆきが亀三までも毒で殺したこと
おみつに大怪我をさせたこと
そのおゆきが火のついた棒をふりかざし凄まじい形相で走ってくる
何やら喚きながら
加助の頭にあったのはおゆきを止めて恩ある仙石屋をおみつ様を守ることだった
今度こそ間違えない
おゆきは・・・極悪人なのだ
その好きなようにさせてはならない
「ええい 加助 そこをどけ~~~~
邪魔すると容赦しないよ」
ぶんぶんと火のついた棒を振り回す
火のついた棒を取り上げようとする加助とおゆきはもみ合いになる
加助は自分の着物に火が付き髪や皮膚が焼けようとかまわなかった
その火はおゆきをも焼く
「ぎゃああぁ~~~~~~っ!」
髪の毛も着物も燃え上がり おゆきは地面を転げ回る
騒ぎに仙石屋の番頭の寅七が出てきて加助に気付き火を消してやるがー
加助も重傷だった
「あの・・・・燃えている・・・のが・・・おゆきさんで・・・
牢に火の粉が入り・・・解き放ちに・・・なった・・・んでさ・・・
あたしは・・・一言・・・おみつさまに・・・謝りたくて・・・謝り・・・たくて・・・
恥をしのんで・・・戻って・・・まいりやした・・・
そこへ・・・おゆきさんが・・・あの・・・火のついた木を持って・・・走って・・来た・・・んでさ
鬼みたいな顔で・・・
すまねえ・・・すみません・・・番頭さん・・・あたしは・・・店の名に・・・傷を・・・つけ・・・ちまった
おゆきさんに・・・そそのかされたとはいえ・・・勘弁して・・・おくんな・・・せえ・・・」
医者を呼んだが・・・・・加助は助からなかった
燃えろ!燃えろ!火事よ起これ!炎よ来い!
火の粉よ飛んで来い!ーと
随分物騒な願いではあるが 女の願いは叶い 火は牢へと届き囚人達は解き放ちとなった
但し決められた刻限までに決められた場所へ戻らないといけないのだが
牢内へ火が来るように祈っていたのは仙石屋の後妻お才の姪のおゆき
自慢の厚化粧はなく煤けた色黒の顔に吊り上がった目ばかりがぎらぎらしている
暫く後 おゆきは火のついた棒切れを持って走っていた
この女の頭にあるのは仙石屋と香野屋とに火をつけて燃やすこと
火事のどさくさにおみつを殺そうと思っている
「みんな みんな 殺してやる!」
宝福堂の吉太郎 菓子作りしか頭にない阿呆
新吉さんのいる仙石屋に戻るには邪魔だった亭主
嫁になど行きたくなかった
十三の年に死んだ母親の姉お才におゆきは引き取られた
お才が後妻に入っていたその店には太助と新吉の兄弟がいて
おゆきは新吉を初めて見た時 -こんな美しい人間は見た事がないーと思ったのだった
少しずつ大人びてくる年下の少年に いつかおゆきは妙な思いを抱くようになる
その肌に触れたい触れられたいと思うようになったのだ
そんなおゆきをどう見咎めたのか 亀三は早々におゆきの縁談を決めた
宝福堂の跡取り吉太郎
悪い縁談ではなく おゆきには断れなかった
ならば自力で新吉のいる仙石屋へ戻るしかない
戻るには亭主が邪魔だ
子供ができないうちなら戻れる
吉太郎の子など産む気はなかった
やれ月のモノだどうのと・・・・・
ところがおゆきは淫蕩な性質(たち)だった
男に抱かれるのは嫌いではなかったのだ
そうしたことをしながらー子供のできないやりようを覚える
男が女にするあれやこれやを新吉にされたいと 他の男に抱かれながらもおゆきは願った
外では遊んでいると評判の新吉なのに 店の堅気の女には目もくれない
少し深く衿を開けて着物を着ても裾を見せて歩いてみても駄目だった
太助亡き後 女房となったお蘭の誘いにも乗らず 次のおみつも幾年も抱かずー
それなのに とうとう新吉はおみつを抱くようになり仲睦まじく過ごすようになりー
その様子を夜には離れに近寄り庭から盗み聞いては おゆきは体の血を滾らせた
ーこんなに自分という女が抱かれたがっているのにー
おみつを追い出して やっとやっと女房におさまれたと思ったのに
お才には自分がどれだけ新吉を想っているか泣いて縋って甘えて訴え とりこんでおいた
「年上だし出戻りだし あたしなんざ相手にしてもらえません
いくら思ったって」
それに乗ってお才は「任せておおき!」と言ったのだ
「おみつなんざ追い出してやるよ
悪いようにはしないよ おゆき」
利用価値のある間はお才を生かしておこうとおゆきは思っていた
小うるさい女だし邪魔になればどうにかして片付けてしまえばいい・・・
吉太郎 太助 お蘭 亀三と殺(あや)めてきた
おゆきにとって邪魔な人間をいなくする事なぞ何ほどの事でもなかった
おゆきが捕えられてお才は命拾いをしたと言える
狂ったように走るおゆきが仙石屋の近くまで来た時 前に立ちはだかった者がいる
同じく解き放ちで仙石屋に向かった加助
加助は捕えられ牢の中でやっと自分が何をしたか我に返って気付いた
誰にのせられてしまっていたか
綺麗な綺麗なおみつ様への憧れ
その想いをどう汚され利用されていたのか
優しい笑顔で近づいてきた女
ーもしやお前さん おみつ様のことが好きなのー
ーおみつ様 御気の毒よね 若旦那はどうして手を出さずにいられるのかしら
あんなに色が白くって柔らかそうな肌なのにー
ーおや加助 お前 女を知らないのかいー
ーじゃ 抱き方を教えてあげるよ
ふふふ 女は体の扱いが上手な男に惚れるのさ
一度 男の体を知ってしまうと時々どうしようもなくなるんだ
店の者には内緒だよー
加助は初めて知った女の体に溺れた
ー駄目だよ お前はおみつ様に惚れてるんだろ
おみつ様だってお前に気があるのかもしれないよー
ー女は一度抱かれると弱いのさ
あたしみたいに・・・男の体に夢中になっちまうー
魔の囁きだった 加助にとって
いつかその女 おゆきに操られていたのだ
ーあの時 おみつ様は化け物を見るような目で自分を見た
自分は化け物になっていたのだと加助は気付き 火事で解き放ちとなって
一言おみつ様に謝りたくて戻ってきた
加助はおみつが香野屋の寮にいることを知らなかったのだ
取調べの時に加助が知ったのは聞かされたのは おゆきが亀三までも毒で殺したこと
おみつに大怪我をさせたこと
そのおゆきが火のついた棒をふりかざし凄まじい形相で走ってくる
何やら喚きながら
加助の頭にあったのはおゆきを止めて恩ある仙石屋をおみつ様を守ることだった
今度こそ間違えない
おゆきは・・・極悪人なのだ
その好きなようにさせてはならない
「ええい 加助 そこをどけ~~~~
邪魔すると容赦しないよ」
ぶんぶんと火のついた棒を振り回す
火のついた棒を取り上げようとする加助とおゆきはもみ合いになる
加助は自分の着物に火が付き髪や皮膚が焼けようとかまわなかった
その火はおゆきをも焼く
「ぎゃああぁ~~~~~~っ!」
髪の毛も着物も燃え上がり おゆきは地面を転げ回る
騒ぎに仙石屋の番頭の寅七が出てきて加助に気付き火を消してやるがー
加助も重傷だった
「あの・・・・燃えている・・・のが・・・おゆきさんで・・・
牢に火の粉が入り・・・解き放ちに・・・なった・・・んでさ・・・
あたしは・・・一言・・・おみつさまに・・・謝りたくて・・・謝り・・・たくて・・・
恥をしのんで・・・戻って・・・まいりやした・・・
そこへ・・・おゆきさんが・・・あの・・・火のついた木を持って・・・走って・・来た・・・んでさ
鬼みたいな顔で・・・
すまねえ・・・すみません・・・番頭さん・・・あたしは・・・店の名に・・・傷を・・・つけ・・・ちまった
おゆきさんに・・・そそのかされたとはいえ・・・勘弁して・・・おくんな・・・せえ・・・」
医者を呼んだが・・・・・加助は助からなかった