くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

機械仕掛けの青い鳥(59)

2019-05-29 22:13:21 | 「機械仕掛けの青い鳥」
 数台のパトカーや車両が、バリケードのように止められている中、少し離れたところに車を止めたシェリルが、なに食わぬ顔をして姿を現した。
 ぎくりっ、とシェリルに気がついた若い警察官が、緊張した顔を上げた。
 ――――――――
 今朝、交通係の任務に就こうとしていたところへ、急な連絡が入り、まるで退屈な現場の警戒任務に就くことになった。
 なんでオレが――。
 そんな気持ちがないわけではなかったが、先輩に励まされ、腐る気持ちをなんとか押し殺していた。
 どんな事件があったのか、それとも事故なのか、詳しいことは、なにも聞かされていなかった。配車係から、ほい、といつものようにパトカーのキーを投げ渡され、短く住所を教えられただけだった。

「なにかあったの――」と、警察官の前に来たシェリルが言った。

 若い警察官は、しっかりと胸を張って背筋を伸ばしつつ、しかし、どこか自信なさげに目を泳がせた。
「ここは立ち入り禁止だ」警察官が、硬い金属を思わせる無機質な声で、短く言った。
「――あたしの家、入ってもいいのかしら」
 シェリルは、警察官が背にしているアパートメントを指さした。
 目を伏せた警察官は、立ち入り禁止だ、と再び言いかけた言葉を飲みこんだ。どんな事件が起こったのかは知らなかったが、シェリルを、新聞記者と勘違いしてしまっていた。正直、この地区には黒人しかいないものと思っていた。白人の住民がいるなど、地区を担当している同僚からも、聞いたことがなかった。
 ほっと胸をなで下ろした警察官は、シェリルに言った。
「悪いが、今は現場検証中だ。それが終わったら、住人だけは出入りすることができるようになる。それまで、待っていてくれないか」
「ふーん。しょうがなさそうね――」
 シェリルが口をとがらせて横を向くと、アパートメントの出入り口からザワザワと声が聞こえてきた。若い警察官が後ろを振り返ると、刑事や先輩の警察官が、階段を下りて外に出てきた。

「ご苦労だったな。もう帰っていいぞ」

 ごくろうさまでした――と、若い警察官が声をかけるまもなく、ソラ達を脅したふとっちょの警察官が、外に出てきたとたん、若い警察官に向かって不機嫌そうに言った。
「あっ、でも……」
 若い警察官が後を追いかけようとすると、両手を広げた先輩の警察官が小走りに駆け寄り、目の前を遮るように立った。
「いいから、おまえはさっさと署に戻れ――」

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« よもよも | トップ | よもよも »
最新の画像もっと見る