「……」と、京卦が呪文を口ずさみ、高笑いをしているカリンカに、魔法の一撃を加えようとした時だった。
「危ない――」又三郎が京卦を抱え上げ、その場から離れるように飛び退いた。
「くそう」と、カリンカがくやしそうに言った。「うるさい猫だね」
京卦の所に駆け寄ろうとした叶方が見ると、京卦が立っていた場所に、いつのまにかすり鉢状の深い落とし穴が、ぽっかりと恐ろしげに口を開けていた。
「これって、もしかして」叶方には、見覚えのある落とし穴だった。
「かかったね」
と、足元に目を落としている叶方を見て、カリンカがにやりと笑った。
叶方の体が、前かがみにグラリとよろめいた。底なしのように暗く深い落とし穴が大きな口を開け、罠にかかる獲物を待ち伏せていた。
そこへ、矢のような勢いで金魚鉢がぶつかってきた。
金魚鉢を投げた又三郎が見ると、バランスを崩して前かがみに倒れかけた叶方が、胸の辺りにぶつかった金魚鉢の圧力で、倒れかかったのとは逆の方向に尻餅をついた。
「――この猫め」と、カリンカが悔しそうに言った。
「イタタタ……」と、叶方が胸を押さえながら体を起こした。
「早く立って」と、叶方に駆け寄った京卦が腕を取り、素早く肩に掛けて立ち上がらせた。
「走れるよね」
返事を聞くのを待たず、京卦は叶方を肩に担いだまま、駆けだしていた。
「逃がすもんか」
カリンカがふわりと宙を飛び、走り去ろうとする二人の後を追いかけ始めた。
ぎこちなく走る二人のすぐ後ろの地面に、落とし穴が次々と口を開けていった。
「――待て」と、鉄棒を構えた又三郎が、カリンカの前に立ち塞がった。「これ以上は通しません」
「ちっ――」と、カリンカは不機嫌そうに言うと、宙に浮かんだまま小さな瓶を取りだし、又三郎に向かって早口に呪文を唱えた。
瓶の中の液体が渦を巻き、気味の悪い色が混じり合って、突き刺さるような淡い光を放ち始めた。
カリンカは瓶を掲げると、ほとばしる光を又三郎に浴びせかけた。
鉄棒を構えたまま、又三郎は光のまぶしさに目を細め、わずかに顔を伏せた。
又三郎は気がついていなかったが、倒れていたはずの青騎士の姿が、幻のように消え去っていた。
「ゾオンの人達を返せ」と、又三郎はカリンカに向かって地面を蹴った。
瓶から発せられる光の影響なのか、異様なほどの引力が足を押さえ、又三郎の動きを妨げていた。体ごと、地面に吸いつけられてしまいそうだった。それでも、落とし穴を避けて宙に躍り上がった又三郎は、呪文を一心に唱えているカリンカの姿を、鉄棒の鋭い先端で、確実に捉えていた。
「危ない――」又三郎が京卦を抱え上げ、その場から離れるように飛び退いた。
「くそう」と、カリンカがくやしそうに言った。「うるさい猫だね」
京卦の所に駆け寄ろうとした叶方が見ると、京卦が立っていた場所に、いつのまにかすり鉢状の深い落とし穴が、ぽっかりと恐ろしげに口を開けていた。
「これって、もしかして」叶方には、見覚えのある落とし穴だった。
「かかったね」
と、足元に目を落としている叶方を見て、カリンカがにやりと笑った。
叶方の体が、前かがみにグラリとよろめいた。底なしのように暗く深い落とし穴が大きな口を開け、罠にかかる獲物を待ち伏せていた。
そこへ、矢のような勢いで金魚鉢がぶつかってきた。
金魚鉢を投げた又三郎が見ると、バランスを崩して前かがみに倒れかけた叶方が、胸の辺りにぶつかった金魚鉢の圧力で、倒れかかったのとは逆の方向に尻餅をついた。
「――この猫め」と、カリンカが悔しそうに言った。
「イタタタ……」と、叶方が胸を押さえながら体を起こした。
「早く立って」と、叶方に駆け寄った京卦が腕を取り、素早く肩に掛けて立ち上がらせた。
「走れるよね」
返事を聞くのを待たず、京卦は叶方を肩に担いだまま、駆けだしていた。
「逃がすもんか」
カリンカがふわりと宙を飛び、走り去ろうとする二人の後を追いかけ始めた。
ぎこちなく走る二人のすぐ後ろの地面に、落とし穴が次々と口を開けていった。
「――待て」と、鉄棒を構えた又三郎が、カリンカの前に立ち塞がった。「これ以上は通しません」
「ちっ――」と、カリンカは不機嫌そうに言うと、宙に浮かんだまま小さな瓶を取りだし、又三郎に向かって早口に呪文を唱えた。
瓶の中の液体が渦を巻き、気味の悪い色が混じり合って、突き刺さるような淡い光を放ち始めた。
カリンカは瓶を掲げると、ほとばしる光を又三郎に浴びせかけた。
鉄棒を構えたまま、又三郎は光のまぶしさに目を細め、わずかに顔を伏せた。
又三郎は気がついていなかったが、倒れていたはずの青騎士の姿が、幻のように消え去っていた。
「ゾオンの人達を返せ」と、又三郎はカリンカに向かって地面を蹴った。
瓶から発せられる光の影響なのか、異様なほどの引力が足を押さえ、又三郎の動きを妨げていた。体ごと、地面に吸いつけられてしまいそうだった。それでも、落とし穴を避けて宙に躍り上がった又三郎は、呪文を一心に唱えているカリンカの姿を、鉄棒の鋭い先端で、確実に捉えていた。