――――……
「こっちです、早く」と、ウサギのように走る又三郎が、追いかけてくるカリンカから、京卦と叶方を逃がそうとしていた。
「工場はまったく見えなくなったけど、ミーナさん達は大丈夫なの」と、息を切らせた京卦が言った。
「心配いりません」と、又三郎が近づきながら言った。「貴重な魔力ですからね。あのまま無事に瓶の中に収まっているでしょう」
「……」と、立ち止まった二人は、又三郎の顔を見た。
「暴れさえしなければ、あんな小さな瓶でも、中は意外と快適なんですよ」
「――エレクティラ」と、杖を取りだした京卦が、雷を放つ呪文を、又三郎に向かって唱えた。
「おっと……」
又三郎が、ひょいと体を翻し、杖の先からほとばしり出た矢のような光を、危ういところで逃れた。
「誰を狙ってるんですか」と、又三郎が二人の前に立って言った。「敵は後ろにいるはずですよ。私じゃありません」
「あなた、何者」と、京卦が叶方の腕を放しながら言った。「猫さんじゃないわよね」
「誰だよ、おまえ」と、叶方が胸の傷みを気にしながら言った。「どこに連れて行く気だ」
と、又三郎がクツクツと大きな口を開けて笑い始めた。
「頭は使うもんだよ」
又三郎が言うと、その姿が後ろから迫ってきた闇に飲みこまれ、跡形もなく消え失せた。
…………
ストン、と地面に降りた又三郎は、とらえ所のないカリンカに業を煮やしながらも、一撃を加える機会をうかがっていた。
鈍い光を放つ瓶を胸に、カリンカはよく聞き取れない呪文をもごもごと唱えながら、飛び上がった又三郎が地面に落ちるタイミングを計り、深い落とし穴を次々と穿ち続けていた。
瓶の放つ光に照らされるたび、強い引力が、又三郎の動きを封じていた。
「ここから先は行かせない」又三郎が鉄棒を両手に持ち、宙に飛び上がった。
「だったら私を止めてごらんよ」と、カリンカは挑発するように、ふわりふわりと自在に宙を飛び回った。
わずかの距離で鉄棒はカリンカに届かず、又三郎は強い引力に捉えられ、勢いよく地面に落ちていった。
「ほら、もうそろそろ穴の底に落ちるんじゃないのかい」と、カリンカは又三郎の正面に浮かんで言った。