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くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

未来の落とし物(142)

2025-07-04 21:02:00 | 「未来の落とし物」

 ジローに続いて艦橋に上った沙織は、大きく開いたハッチに手を掛けながら、亜珠理を手招きして言った。「――行きましょう。グズグズしてはいられないわ」

「連中がどこまで来てるかわかるか」

 と、潜水艦の操縦席に座ったジローは、すぐにやって来た亜珠理に言った。
「まだ遠くにいるんだけれど、この場所はもうばれてる」と、亜珠理はマスクの上から頭を押さえて言った。「なにか仕掛けてきている。気をつけて――」
「出るぞ」と、ジローは言って操縦桿を操作したが、静かなうなりを上げている潜水艦は、ピクリとも動かなかった。
「どうしたの?」と、沙織はジローに言うと、考えるように周囲に目を向けた。「――ねぇ、なんだか寒くない」
「そんなことってあるの」と、亜珠理は思いついたように言いながら、沙織の後ろについて、艦橋を上った先にあるハッチに向かった。

「やっぱり」

 と、ハッチの外に顔を出した沙織は言った。「それにしてもどのくらい力があるのかしら、ここまで冷気を伝えられるなんて」
 艦橋から外に降りていった沙織の後から、顔をのぞかせた亜珠理が見たのは、つい先ほどまではなかったはずのつららが、所狭しと地底の空間に生え揃っている光景だった。
「急に季節が変わったみたい」と、言った亜珠理は、軽々と艦橋から飛び降りると、霜が覆い尽くしている地面に降り立った。「火が消えちゃいそう」
 白く彩られた地面の中で、点されていた温かな炎が、次第に勢いを失っていた。
 沙織は残っていた薪をくべたが、アジトを覆っていく冷気は次第に勢いを増し、炎はどんどんと小さくなっていった。

「潜水艦の中に戻りましょう」

 と、沙織は亜珠理に言った。「ここにいたら凍えてしまうわ。遅かれ早かれ、スカイ・ガールはここに来るつもりなんでしょ――」
 亜珠理は、こくりとうなずいた。
「なんだかとっても愉快なイメージが伝わってくるんです」と、亜珠理は言った。「きっと、私達をすっかり凍りつかせてから、ここまで降りてこようとしてるみたい」

「そうみたいだな」

 と、潜水艦から下りてきたジローは言った。「あっちも、もうだめだろう。燃料が尽きればそこで終わりだ」
「じゃあ、トンネルでも掘ってみる」と、沙織は肩をすくめながら言った。「それだって、悪あがきでしかないかもしれないけど」

 

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未来の落とし物(141)

2025-07-04 21:01:00 | 「未来の落とし物」

「それなら、私のところに直接来ればいいことでしょう」と、沙織は言った。「どうして、広くみんなの目に触れるようなことをするの? 派手なコスチュムーを纏って力を見せつけるなんて、意味がわからない」
「警告、的な意味があるんじゃないのか」と、ジローは首を傾げながら言った。「スカイ・ガールを、一人ではなく二人、三人登場させるのではなく、いろいろな力を持った者達を登場させるのは、それだけの力があることを誇示するためなんじゃないか」
「力を見せつけるのが目的の一つなら、それはもう達成しているはずよ」と、沙織は言った。「なのに、未来から来たタイムパトロールを撃退したり、私達を助けている泥棒さん達を警察に突き出したり、おかしなことが多いとは思わない?」
「スカイ・ガールと直接会ったとき、感じなかったか」と、ジローは言うと、沙織は「なに」と言って、顔を上げた。
「コスチュームは“神の杖”から与えられた物かもしれないが、彼女の行動は自分自身の意思に基づくものだ、と感じたがな」
「――キングみたいに」と、言った沙織は、ちらりと亜珠理に目を向けた。
「それと、光線銃を手にした彼女の同級生もだ」と、ジローもちらりと亜珠理を見て言った。「想像しかできなかった力を現実にする道具を手にした彼女たちは、それまで諦めてできなかったことを、やり始めたんだ」
「道具を持った者、それぞれの意思で、それぞれの行動を起こしている」と、沙織はうなずきながら言った。「自分勝手な行動の先に、どうしてこの指輪があるの?」

「なにかほかにも目的がある。そう言いたいのか――」

 と、ジローは言うと、沙織は大きくうなずいた。
「スカイ・ガールの後ろにいるヤツが、その指輪を狙っているから、そう見えるだけじゃないのか」と、ジローは言った。「自分勝手な行動で大暴れをする道具を与える代わりに、指輪を取り上げろ、そんな取引があるのかもしれないぞ」
「見かけはそうかもしれない」と、沙織は言った。「私たちの居場所なんか手に取るようにわかるはずなのに、スカイガール達が手をこまねいているのを、わざと見守っているだけのような、そんな様子があるでしょ。私達が接してきた“神の杖”なら、もっと直接的に狙ってくるはず。――やっぱり、変だわ」
「――」と、ジローは黙って、揺れる炎を見ていた。

「ごめんなさい」

 と、亜珠理がマスクを被っていてもそれとわかるほど、青ざめた表情で言った。

「ごめんなさい。わたし、連れてきちゃったみたい」と、亜珠理は空のない剥き出しの地面を見上げて言った。「マスクは脱いでおけばよかったのに、被っていればあの人達の動きがわかると思って、逆に居場所を突き止められちゃったみたい……」
 亜珠理が話し終えるより早く、ジローと沙織は動き始めていた。

 

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未来の落とし物(140)

2025-07-04 21:00:00 | 「未来の落とし物」

 ジローは速度を上げると、さらに深く地中に潜って、ボス達が潜んでいた地底のアジトに進路を向けた。

 ――――    

「どうやら着いたみたいだな」と、ジローは潜水艦を止めて席を立つと、艦橋に歩きながら言った。「――先に外に出る」
 重いハッチの扉を開けて、ジローはゆっくりと顔を出し、外の様子をうかがった。
 真っ暗な空間が、目の前に広がっていた。しかしジローの目には、わずかな光の中でもしっかりと外の様子が見えていた。
 グレースケールに浮かび上がったのは、気持ちばかりの調度と、道具類だった。
「大丈夫なようだ」と、ジローは後ろを振り返ると、心配そうにしている沙織達に言った。「いま、明かりをつけてくる」
 と、ハッチの扉を開けたまま外に降りたジローは、暗闇の中で一人、なにやらがさごそと物音を立て始めた。

 シュボ――……

 と、炎の煌めく音が聞こえ、小さくて頼りなげだが、明かりが点った。
 沙織はハッチに登るはしごに手を掛けると、艦橋から顔をのぞかせ、外の様子をうかがった。
「あら、思ったよりも広い場所ね」と、艦橋から降りてきた沙織は言った。「足下の地面もしっかりしてるわ」
 艦橋から飛び降りてきた亜珠理は、沙織の後ろに来て言った。
「ここって、本当に地底なの? なんかもっと寒いと思ったけれど、ちょうどいい」
「火を焼べる材料が揃っていたから、空気も潤沢にあるようだ」と、ジローは言った。「飲めるかどうかわからないが、水が湧いている場所も何カ所かあるようだ」
「さすが、年季の入った泥棒さん達のアジトだけあるわ」と、沙織は感心したように言った。
 うなずいた亜珠理は、小さなドーム球場ほどはありそうな空間をぐるりと見ながら、明かりの届く範囲に足を伸ばし、素早く確認していった。
「こんな場所がほかにもたくさんあるなら、地底人だって本当にいるかもしれない」と、亜珠理はうれしそうに言った。
 子供っぽくはしゃいでいる亜珠理を眩しそうに見ながら、沙織とジローは困ったような表情で、パチパチとはぜる炎の前に座っていた。
「どうあっても、その指輪を手に入れたいようだな」と、ジローは沙織を見て言った。
「そのようね」と、沙織は愛おしそうに指輪を撫でながら、考えるように言った。「どうしても私に行かせたくない場所があるみたいだけど、それだけなのかしら」
「――どういうことだ」と、ジローは言った。「父親が傾倒する“神の杖”のなにかが、そこにあるっていうことじゃないのか」

 

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未来の落とし物(139)

2025-07-03 21:02:00 | 「未来の落とし物」


 ――――
  
「いないようだな」と、ジローはボスとの合流場所に来て、小さな声で言った。
「なにかあったようね」と、沙織はきょろきょろせず、まっすぐ前を見ながら言った。
「スカイ・ガールの仕業か」と、ジローは沙織と並んで歩きながら言った。
 夜もすっかり更け、町を歩く人はめっきり少なく、仕事帰りの車なのか、ヘッドライトを眩しく点した車が、足早に通り過ぎていった。
「キングも見当たらないみたいだ」と、ジローは立ち止まると、合流場所を振り返りながら言った。
「――そんなことはない、はずだけれど」と、立ち止まった沙織は、ため息をつくように言った。

 ザッププン――……

 と、二人の足下から、潜水艦の艦橋が伸び上がってきた。
 沙織を抱きかかえて、素早く後ろに飛び下がったジローは、地面から伸びてきた潜水艦の艦橋に手を掛けると、ハッチを開けて沙織の手を引き、潜水艦の中に入っていった。

「どこに行っていたんだ」

 と、ジローはブリッジに降りてくると、操縦席に座っている亜珠理を見て、驚いたように言った。「――ボス達はどうしたんだ」
 操縦桿を握っていた亜珠理は、必死で潜水艦を操縦しながら言った。
「ボス達なら、警察に捕まりました」
「やられたわね」と、マスクをつけたまま、沙織がくやしそうに言った。
「スカイ・ガール達か、タイムパトロールの連中か、いずれにしろ、ここから難しくなるな」と、ジローは言った。「潜水艦の操縦はどこで覚えたんだ」と、ジローは操縦桿を握っている亜珠理に言った。
「偶然かもしれないけれど、ボス達が潜水艦を予定よりも離れたところに停泊させていたから、誰かに持って行かれる前に見つけて、私が動かしたんです」と、亜珠理は潜水艦の操縦で手一杯なのか、心持ち早口で言った。「なんとか動かさなきゃと思って、どうにか操縦してるんですけど、よかったら、替わってもらえませんか」
 ふふふ――と、おかしそうに笑う沙織を横目に、ジローは亜珠理に替わって席に座ると、操縦桿を握った。
「ボス達は残念だが、計画どおりにアジトに向かおう」と、ジローは言った。
「あなた、家に連絡しなくて大丈夫?」と、沙織は亜珠理に言った。
「潜水艦を見つけてすぐ、母親に連絡を入れたんで、大丈夫です」と、亜珠理は携帯電話を取り出すと、沙織に見せてからポケットにしまった。
「アジトの場所はわかるの?」と、沙織は潜望鏡を引きおろすと、外の様子を見ながら言った。
「ああ。大体の位置は教えてもらった」と、ジローは自信ありげに言った。「少し揺れるかもしれないぞ」

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未来の落とし物(138)

2025-07-03 21:01:00 | 「未来の落とし物」

「ラッパ? だったっけ」と、眼帯は考えるように言った。「外の三人なら、先に警察署に行ってもらったよ」
「わかりました」と、ボスは言うと、眼帯と一緒にいた制服警官の二人に挟まれながら、陰に止められていたパトカーに乗りこんだ。
「どうして、あの場所にいるってわかったんですか」と、後部座席に座らされたボスは、隣に座った眼帯に聞いた。
「――それは秘密だよ」と、眼帯はとぼけたように言った。「だがな、これだけは覚えておいてくれ。空を飛べたり、腕力が強いことだけが、正しいってわけじゃないってな」
「――」と、ボスはうなずいた。
「人には事情があるんだよな。ちゃんと話をしようじゃないか」と、眼帯は窓の外を見ながら言った。
 うつむいていたボスは、眼帯がなにかを見つけて振り返ると、自分も顔を上げて窓の外をうかがった。
 わずかの間だったが、学生が体育の授業で身につけるジャージー姿に、どうにも不釣り合いなマスクを被った女子が、ゆうゆうと通り過ぎていったように見えた。
「よかった――」と、ボスは思わず声を出していた。
 パトカーの車内にいた警察官達が、怪しげな視線をボスに向けた。
 ボスははっとして息をのむと、またがっくりとうなだれたようにうつむいた。
 しかしその口元には、安心したような笑みが浮かんでいた。

「どうしちゃったの」

 と、亜珠理は走っていた足を緩めると、赤いライトを点滅させて通り過ぎるパトカーを目で追った。
 ちらりと、パトカーの後部座席に、窮屈そうに身をかがめているボスの姿が見えたからだった。
 計画通りにタイムパトロールから逃れ、合流場所まで走ってきた亜珠理だったが、ボスが警察に捕まってしまった今、どうすればいいのか、すぐには動き出せなかった。
 マスクを被っているのは、スカイ・ガールの動きを察知するのが目的だったが、今のところ、亜珠理達を狙って動き出している様子はなかった。
 だったらなおさら、ボス達が警察に捕まったのは、想定外だった。
 マスクを被っているせいか、亜珠理は潜水艦が近くにあるように感じて、早足で近くを探してみた。
 亜珠理が感じたとおり、ボス達が乗っていた潜水艦の艦橋が、商店の前に設えられた自販機の隣に、にょきりと伸びているのを見つけた。
 亜珠理は赤い自販機がぶつぶつと耳慣れたCMを繰り返しているのを聞きながら、潜水艦に乗りこむと、躊躇することなく、当てずっぽうに操縦桿を握って、進み始めた。

 

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未来の落とし物(137)

2025-07-03 21:00:00 | 「未来の落とし物」

「――心配しすぎかもしれないけどな」と、ボスは艦橋の先にあるハッチを気にしながら言った。「なんかあったのかもしれない」
「ほら、だからボスは心配しすぎるんですって」と、ササキは言うと、面倒くさそうに立ち上がった。「ちょっと見てきますよ」

「あの二人のことだから」

 と、ササキはハッチの扉を開けながら言った。「無事にタイムパトロールから逃げ切れたキングと、帰ってくる途中で腹ごしらえでもしてると思いますよ」
「だったらいいんだけどな――」と、ボスは腕組みをしながら言った。
「ちょっと待っててください。潜水艦のまわり見てきますんで」と、ササキは困ったように言うと、ぶつぶつと恨み言を言いながら、艦橋のハッチから外に出て行った。

「――遅い」

 と、ボスは大きな声で言った。
 誰もいない潜水艦の中で、ボスの声がさみしげに聞こえた。
「どいつもこいつも、言わんこっちゃないんだ」と、ボスは用心のため、潜水艦を少し移動させると、操縦桿を動かないように固定させ、エンジンを動かしたまま、艦橋のハッチを開けて外に出た。
 ――ひょっこりと顔を出したボスの目の前には、道路に敷かれたアスファルトが広がっていた。
 町の明かりに照らし出された人影はちらほら見えていた。ボスは、素早くハッチを閉めて地面に立ち上がった。
 外は星明かりまぶしいくらい晴れていたが、雪が降ってもおかしくないくらい、寒かった。
 こんな寒い中、あいつらどこでなにしてやがるんだ――と、ササキが仲間を探しに行った方向を直感で探ると、白い息を吐きながら歩き始めた。

「泥棒のリーダーは、おまえだな」

 と、ボスが歩き始めてすぐ、後ろから声が聞こえた。
 息が止まるほど驚いたボスは、しかし冷や汗を搔きながらも動揺を表には出さず、立ち止まったまま、後ろを振り返った。
「やっぱり、おまえか。何回か会ったことあるよな」と、暗い中から姿を現した眼帯をつけた刑事は、ため息をつきながら言った。「宝石店に押し入っただろ。くわしい話を聞きたいから、警察署まで来てくれないか」
「――」と、ボスは顔色を失いながら、大きくうなずいた。「ほかの連中は、知りませんか」

 

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未来の落とし物(136)

2025-07-02 21:02:00 | 「未来の落とし物」

「――」と、感覚を研ぎ澄ませたジローは違和感を覚えつつ、わずかに開いたドアから、音もなく部屋の中に足を踏み入れた。
 部屋の中には、ベッドと机が置かれ、十代の女子らしい綺麗な装飾が施されていた。
 先に部屋に入ったジローの前を通り、沙織がベッドの横まで進んだ。
“まさか、もう寝ちゃったの?”と、沙織はジローにほとんど声を出さずに言った。
“――そのようだな”と、ジローも不審に思いつつ、ベッドの上で服を着たまま寝息を立てている光梨を見て、うなずいた。
 沙織は、背中に回したバッグから記憶の器を取り出すと、横になった光梨に近づいた。
 服を着たまま寝入っているのは不自然だったが、苦しそうな様子もないため、沙織は持ってきた記憶の器を、そっと光梨の額に貼りつけた。
 記憶の器は、すぐに砂状の記憶をさらさらと対流させ、光梨の中に戻っていった。

「完了したみたいね」

 と、沙織が空になった記憶の器を取り外した頃、潜水艦でキングを待っていたボスは、ほっとしたように言った。

「追っ手はいないみたいだな」

「キング、大丈夫でしょうかね」と、ラッパが心配そうに言った。「もう夜で暗いし、近くまで来ていても、潜水艦を見つけられないかもしれませんよ。俺、見に行ってきていいですか」
「おいおい。本気か? 顔バレしてるんだぞ」と、ササキは言った。「スカイ・ガールならまだしも、俺たちが知らないヤツに狙われたら、後ろからズドンじゃないのか」
「――物騒なこと言うなって」と、ヒゲが怒ったように言った。「心臓に悪いって」
 と、ボスが考えるように言った。
「誰か、様子を見に行った方がいいかもな。キングが同級生と合流する場所は、わかってんだろ」
「承知してます」と、ラッパは元気よく言った。「この頭ん中にしっかり入ってますよ」
 首を傾げたササキは言った。
「キングになにかあったら、すぐに戻ってくるんだぞ。おまえだったら、俺達とは反対方向に逃げ出しそうだ」
「電話も入れてみるよ」と、ヒゲは携帯電話を手にして言った。「うまくやり過ごして、こっちに向かってるといいんだがな」
「じゃあ、頼んだぞ」と、ボスがハッチの下で見送りながら言った。「気をつけてな――」

 ――……

「どこで油売っていやがるんだ」と、ボスはイライラしながら言った。
「ラッパはどうか知りませんが、ヒゲが一緒ですから、もう少しで戻ってくるんじゃないですか」と、暇そうに椅子に座っているササキは言った。

 

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未来の落とし物(135)

2025-07-02 21:01:00 | 「未来の落とし物」

「しかたねぇだろ」と、ボスは言った。「助けてもらった恩を仇で返すわけにいかねぇんだし。最後まで、俺たちの生き様を見せてやろうぜ」
「スカイ・ガールには、きっとこっちの動きは筒抜けだろうから、この機を逃すはずがない」と、ジローは言った。
「スカイ・ガールには、宝石のことで聞きたいことがあるの」と、沙織は言った。「話なんてさせちゃくれないだろうけど、コンパス・ストーンの使い方がわかるなら、聞いてみたいの。“石”が示すはずの場所は、どこにあるのかも」
「無茶言わないでくださいよ」と、ラッパは驚いたように言った。「あれは絶対、話になんか乗ってくれませんよ。むしろこっちの首根っこを捕まえて、ぐうの音も出ないほど打ちのめされるのか関の山ですって」
「キングが鍵を握っているのは間違いないわ」と、沙織は言った。「あの子のマスクがスカイ・ガールとどのくらいリンクし合えるのか。戦いながら見極めるしかないでしょうね」

「そろそろ、到着しますよ」

 と、ボスは言うと、潜水艦は滑るように動きを止め、ゆっくりと浮上を始めた。「家に帰ってるってことですが、襲ってくるとすれば、間違いなくこのタイミングでしょうね」
「――打ち合わせ通りに進めましょう」と、沙織は言った。「私たちが行って、もしもスカイ・ガールが現れたら、キングのところに向かう。彼女に私たちのことを知らせれば、すぐに合流できるはずよ」
「スカイ・ガールが現れなければ、俺たちは待ち合わせ場所に先回りして、逃げてきたキングを乗せて、アジトに向かう。でしたね」
「隠れられるのは地底しかないもの」と、沙織は言った。「もしも私達になにかあっても、無意味な助太刀はしないこと。そんなの、いらないから」
 と、ボス達は困ったように肩をすぼめた。
「そのときは、うまく身を隠してくれ」と、ジローは覚悟を決めたように言った。「あんた達の自由だよ。ここまで付き合わせてしまったが、いろいろありがとう。感謝してる」
「――」と、男達はばつが悪そうに顔を見合わせた。

「いってらっしゃい」

 と、ボスはマンションの床の上に浮上した潜水艦のハッチを閉めながら、二人に言った。「気をつけて」
 小さくうなずいた沙織は、潜水艦の艦橋がぽちゃりと床下に姿を消すと、目を隠すマスクを身につけた。
 正面には、光梨の部屋のドアがあった。廊下の先にある居間のドアも閉じられており、しんとして、家族の者は留守にしているようだった。
 ドアノブを手にしたジローは、物音を立てないように、静かにドアノブを回していった。
 日付が変わるにはまだ早い時刻だったが、高校生が眠りにつくのにも、まだ早すぎる時刻だった。

 

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未来の落とし物(134)

2025-07-02 21:00:00 | 「未来の落とし物」

 目を覚ました大旗は、周囲を警戒している亜珠理に言った。

「なにか、あったの?」

 と、亜珠理を見上げる目に涙がにじんでいた。「思い出しちゃった」
「――大丈夫。家まで送るわ」と、亜珠理は大旗を支えた腕に、ぐっと体重がのしかかって来たのを感じて言った。「無理しないで。そのままでいいから」
 小さくうなずいた大旗を背中に担ぐと、亜珠理はしかし、飛ぶような速さで走り始めた。
「わたし、全部思い出しちゃった」と、大旗は独り言のように、繰り返して言った。「――光梨に謝らなきゃ。もう無理かもしれないけど」
「友達なんでしょ? だったら、困難なことでも許し合えるはずよ」と、亜珠理は言った。
「――誰かは知らないけれど、強いのね」と、大旗は声を震わせて言った。

「だって私、正義の味方だから」

 亜珠理は言うと、唇を引き結んだ。

 ――――    

「キングはうまくやったかしら」と、潜水艦の中にいる沙織は、操縦桿を握るボスに言った。
「大丈夫でしょうよ」と、ボスはうなずきながら言った。「はしこいですからね、つかみ所がないくらい」
「帽子を取られてしまいましたが、よかったんですか――」と、計器の前に座っているヒゲが振り返って言った。
「多少なりとも成果を上げられなければ、次はもっと厳しく対応してくるはずだから、帽子を手放すのも、仕方がなかっただろうよ」と、ジローは言った。「ただ、次の子は簡単には記憶を戻せないだろうな。タイムパトロールがキングに手間取ってる間に、スカイ・ガール達がここぞとばかりに仕掛けてくるはずだから」
「来ますかね?」と、ササキは不安そうに言った。「そういえば、なんでお兄さん達が追われてるんです。最初は、俺たちが付け狙われてるんだと思ってたのに」
「私が見つけた宝石のせいよ」と、沙織はつぶやくように言った。「あなたたちが奪い取ったんだと勘違いしていたんでしょうね。こんな潜水艦に乗ってるんじゃ、身に覚えのない疑いをかけられても文句は言えないでしょうけど」
「ひどいなぁ」と、ラッパが恨めしそうに言った。「お互い被害者じゃないですか。俺たちだってさんざん宝石屋の社長に振り回されて、やっとのことで自由になれたんだから」
「自由なもんかよ」と、ササキは言った。「妙な仕事を引き受けちまって。未来の役人に捕まれば記憶は消されるし、空を飛ぶやつに捕まれば、手足をバラバラにされるかもしれないんだぞ」

 

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未来の落とし物(133)

2025-07-01 21:02:00 | 「未来の落とし物」

「邪魔させるな」と、隊長の男が言うと、タイムパトロールの面々が警棒のような得物を手に、あっという間に距離を詰めた亜珠理に向かって行った。
 十数人はいるタイムパトロールに対し、一人で立ち向かっていった亜珠理は、明らかに劣勢だった。
 しかし、どういうわけか、隊員の誰一人として、亜珠理を捕らえることも、触れることもできなかった。
 マスクを身につけた亜珠理は、強靱な身体能力のほか、直感的な情報処理と一瞬先の動きを読む能力が飛躍的に向上し、日々鍛えている隊員の動きも、あくびが出るほどゆっくりで、歯ごたえのないものに感じていた。
「私の友達の記憶は、返してもらうから」と、亜珠理は隊長の前に立つと、後ろから殴りかかる拳を身を沈めてかわし、再び立ち上がって言った。「――だからそっちこそ、邪魔しないで」
「それはできない相談だな」と、隊長は言いながら亜珠理を捕まえようと手を伸ばした。しかし、亜珠理は隊長を足蹴にしてスタンと後ろに下がると、また再びゆるり、かすり、ふわり、とタイムパトロールの間を縫って回り、捕らえようとする手を難なくすり抜けた。

「隊長、あいつらの姿がありません」

 と、沙織達の姿が見えないことに気がついた隊員が、驚いたように言った。
 手こずっていたタイムパトロール達の動きが止まり、路上に座りこんだ大旗に視線が集まった。
「――大丈夫、大旗」と、亜珠理は大旗に身を寄せると、しっかと抱きとめて言った。
 亜珠理は道路の横に落ちている記憶の器を拾うと、中身が空っぽになっているのを確かめ、大旗の記憶がすべて元に戻ったのがわかると、近くにいた隊員の一人に放り投げた。
 前にいた隊員の一人が、記憶の器を悔しそうに受け止めた。

「早く立ち去らないと、目を覚ますわよ」

 と、亜珠理は大旗を抱きとめたまま、二人を取り囲んだタイムパトロール達を見上げて言った。
 正直、タイムパトロールが立ち去るかどうか、亜珠理に自信はなかった。ただ、再び大旗を捕らえて記憶を取り出そうとしても、亜珠理が邪魔をして抵抗し、その時間が長引けば長引くほど、大旗から消し去るべき記憶量が増えてしまい、記憶の取り出し中に、大旗の生命に関わる重大なダメージを負わせる可能性が生じるはずだった。
 大旗の未来がどのようであるのかは、亜珠理にはわかりようもなかったが、大旗の生命に関わるダメージを負わせることは、未来を書き替えることになり、タイムパトロールなら、そんな危険な真似をするはずがなかった。
 その推論は、亜珠理の考えたとおりだった。
 くやしそうな表情を浮かべたタイムパトロール達は、大旗が目を覚ますより先に、それぞれが乗車する時空間ホバーを駆り、なにもない空間に現れた光のドアの中に、逃げるように次々と飛びこんでいった。

 

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