ジローに続いて艦橋に上った沙織は、大きく開いたハッチに手を掛けながら、亜珠理を手招きして言った。「――行きましょう。グズグズしてはいられないわ」
「連中がどこまで来てるかわかるか」
と、潜水艦の操縦席に座ったジローは、すぐにやって来た亜珠理に言った。
「まだ遠くにいるんだけれど、この場所はもうばれてる」と、亜珠理はマスクの上から頭を押さえて言った。「なにか仕掛けてきている。気をつけて――」
「出るぞ」と、ジローは言って操縦桿を操作したが、静かなうなりを上げている潜水艦は、ピクリとも動かなかった。
「どうしたの?」と、沙織はジローに言うと、考えるように周囲に目を向けた。「――ねぇ、なんだか寒くない」
「そんなことってあるの」と、亜珠理は思いついたように言いながら、沙織の後ろについて、艦橋を上った先にあるハッチに向かった。
「やっぱり」
と、ハッチの外に顔を出した沙織は言った。「それにしてもどのくらい力があるのかしら、ここまで冷気を伝えられるなんて」
艦橋から外に降りていった沙織の後から、顔をのぞかせた亜珠理が見たのは、つい先ほどまではなかったはずのつららが、所狭しと地底の空間に生え揃っている光景だった。
「急に季節が変わったみたい」と、言った亜珠理は、軽々と艦橋から飛び降りると、霜が覆い尽くしている地面に降り立った。「火が消えちゃいそう」
白く彩られた地面の中で、点されていた温かな炎が、次第に勢いを失っていた。
沙織は残っていた薪をくべたが、アジトを覆っていく冷気は次第に勢いを増し、炎はどんどんと小さくなっていった。
「潜水艦の中に戻りましょう」
と、沙織は亜珠理に言った。「ここにいたら凍えてしまうわ。遅かれ早かれ、スカイ・ガールはここに来るつもりなんでしょ――」
亜珠理は、こくりとうなずいた。
「なんだかとっても愉快なイメージが伝わってくるんです」と、亜珠理は言った。「きっと、私達をすっかり凍りつかせてから、ここまで降りてこようとしてるみたい」
「そうみたいだな」
と、潜水艦から下りてきたジローは言った。「あっちも、もうだめだろう。燃料が尽きればそこで終わりだ」
「じゃあ、トンネルでも掘ってみる」と、沙織は肩をすくめながら言った。「それだって、悪あがきでしかないかもしれないけど」