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くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

未来の落とし物(152)

2025-07-08 21:00:00 | 「未来の落とし物」


「――こんなところまで追いかけさせて、覚悟しなさいよ」

 と、Sガールは我に返った途端、真人に向かって拳を振り上げた。「石はどこ? 許さないんだから」
「子供相手に大人げないな」と、真人はSガールの拳を避けながら言った。「ピチピチの水着みたいなスーツを着てるあんたこそ、見た目が子供っぽいけどな」
「あんた、誰?」と、Sガールは首を傾げた。「そこのお兄さんは前にも会ってるけど、もしかしてあんたが、悪魔?」
「だったらどうする。呪われないように、お祈りでもしてみるか」と、真人は笑いながら言った。
「黙れ、この悪魔」と、Sガールは再び拳を振り上げて言った。「見た目は子供だけれど、その腹の中にどれだけの悪業が潜んでいるの」
 Sガールの拳が風を切って打ち出された。
 正面にいる真人は不敵な笑みを浮かべたまま、微動だにしなかった。
「おまえの相手はおれがする」と、ジローは打ち出されたSガールの手首をつかむと、ねじり上げながら言った。「悪魔退治はその後にしろ」
「頼んだぜ」と、真人は二人と距離を置いた。

「オウ」

 と、ジローはうなずくと、Sガールの腕をさらにねじり上げ、海岸の砂利が派手に巻き上がるほど、思い切り地面に押し倒した。
「――痛いわね」と、海岸の砂利に突っ伏していたSガールは、腕をねじり上げているジローの手をもう片方の手でつかむと、力比べをするように、ゆっくりとねじり返していった。

「ほう」

 と、離れたところで見ていた真人は、感心したように言った。
「さすが二三世紀の技術だな。だけど、もうそろそろ蓄積したパワーがレッドゾーンに入る頃だろ」
「なに言ってるの」と、Sガールは余裕の笑みを浮かべながら立ち上がると、替わりにジローを海岸にうつ伏せにさせた。「こいつを黙らせたら、次はお前だからな」
「そりゃ楽しみだ」と、真人は挑発するように前に出てきて言った。「オレの計算じゃ、そろそろカウントダウンが始まるぞ」

「チックタック、チックタック、チックタック……」

 と、真人は時計が秒針を刻むように、繰り返し言った。

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未来の落とし物(151)

2025-07-07 21:02:00 | 「未来の落とし物」

「ちぇ。やっと操縦になれてきたところだったのに」と、つまらなさそうに言う真人だったが、どこかほっとしたように聞こえた。「どうだ。振り切れそうか」
「わからない」と、歯を食いしばりながら、ジローは操縦桿を握っていた。「――だめだな。スカイ・ガールが潜水艦のどこかを捕まえて、潜らせまいとしている」
「しかたがないな」と、真人は言った。「捕まえさせたまま全速力で進んで、息継ぎをする隙を与えないようにしてやろうぜ」
「そううまくいけばいいけどな」と、ジローは目一杯操縦桿を操作し、さらに深い地中に向かって、加速度を上げて進もうとした。
「だめだ」と、ジローは息切れをするように言った。「進もうとしているが、引っ張られてピクリとも高度が下がらない。すごいパワーだぞ」
「仕方がないか……」と、真人は顎に手を当てながら言った。「潜水艦を壊される前に、急浮上してやっつけてやろうぜ」
「できんだろ?」と、真人はジローを見上げて言った。
「スカイガールのあの力は、特別に感じるよ」と、ジローは考えるように言った。「止めなければならないな――」
「潜水艦をバラバラにされる前に、上昇するんだ」と、真人は言うと、ジローは思い切り操縦桿を傾けた。

 ググン――……

 甲板の手すりを握りしめたスカイ・ガールもろとも、潜水艦は急浮上を始めた。
 息が尽きそうになっていたスカイ・ガールは、潜水艦に大穴を開けて、動きを止めるつもりだった。しかし、朦朧とした意識の中、堅く握った拳を振り上げた途端、潜水艦が急浮上したことがわかり、振り上げた拳を下ろして潜水艦に抱きついた。

 チャポポン――……

 と、甲板にしがみついているスカイ・ガールと共に、潜水艦が浮上したのは星明かりに照らされた海岸だった。
「さ、降りようぜ」と、真人は言うと、操縦席を立ったジローを待たず、艦橋のハッチを開けて外に出た。「――気絶してるみたいだな」
「どこにいる」と、ハッチを降りてきて言ったジローに、真人は指をさした。「手を離さなかったのか、それとも、離そうとしなかったのか」
「どっちでもいいさ」と、真人は言った。「どっちに転んでも、オレ達は狙われるんだからな」
 ジローが、潜水艦の手すりからスカイ・ガールの手を離させようとしていると、気絶していたスカイ・ガールは目を覚ました。

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未来の落とし物(150)

2025-07-07 21:01:00 | 「未来の落とし物」


「さっきからぐるぐる走り回って、的を射ないわね」

 と、Sガールは耳を澄ませながら、じっと地面に目を落としていた。「近くまで上ってきたら、行くから」
「はいはい」と、無言で唇を噛む孝弘の隣で、翔は面倒くさそうにうなずいた。「打ち合わせどおり、おれ達はここで待機してますよ」
「――地面に穴なんて掘って、本当にいけるのかよ」と、孝弘は半信半疑に言った。「あちこち穴だらけにしたら、タイムパトロールどころか、警察が飛んでくるぜ」
「なにごちゃごちゃ言ってるの――」と、Sガールは振り返らずに舌打ちをして言った。

「来た」

 小さくジャンプをしたように見えたSガールは、地面に顔をぶつけるようにくるり、と一回転すると、ズボッフ――と、重々しい音を立てて地中に沈んでいった。
「ほらな」と、翔は地面に大きく穿たれた穴を見下ろして言った。「こんなの見せられたら、意見したくてもできないだろ」
 と、翔は顔を上げて孝弘を見ると、孝弘は慌てて無言のまま何度も頭を振った。
「こんな町の真ん中で大穴を開けるなんて、付き合わされてるおれ達も頭がどうかしてるぜ」と、翔はため息をつきながら地面に腰を下ろした。
 二人がいる場所は、郊外型の遊技場の広い駐車場の一角だった。もうとっくに日が暮れ、深夜に近い時間帯のため、駐車している車の台数は数えるほどしかなかった。
 ただ、Sガール達がなにかしていることに、誰も気がついていないわけではなかった。気がついていても、怖さが先に立って騒ぎ出せないだけだった。
 しかし、矢面には立てなくても、静かな声は波のように伝わり、ボス達を確保した警察官達は特命の通報を受け、Sガール達がたむろしていた駐車場に、急ぎパトカーを走らせていた。

「おい。さっきから同じような場所をぐるぐる大回りしていやしないか」

 と、真人の操縦に慣れてきたジローは、思いついたように言った。「スカイ・ガール達を引きつけるとは言っていたが、同じ場所を回っていると、つけ狙われるんじゃないのか」
「ふふん」と、真人はどこか上の空で強気に言った。「だいぶんいい調子になってきたじゃないか。このままマントル近くまで誘いこんで、火傷させてやろうか――」

“ゴツン――……”

 と、潜水艦がなにかに当たって、大きく艦首を左右に振った。
「スカイ・ガールだ」と、ジローは言うと、真人から操縦桿を奪い取るように席に着き、進路を素早く真下に変えた。

 

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未来の落とし物(149)

2025-07-07 21:00:00 | 「未来の落とし物」


「あんた、ちゃんと凍らせてるの」

「――見りゃわかるでしょーが」と、冷凍手袋をつけた孝弘は、怒ったように言った。「いつまで続けるんだよ。さすがにこの手袋もオーバーヒートしそうなんだけど」
「黙ってやんなよ」と、Sガールは言いながら、孝弘の耳をつねった。
 痛ッ――と、孝弘は悲鳴を上げた。
「下の連中がどこかに向かって行っちまったんなら、凍らせる意味なくないすか?」と、翔は言った。「そもそも、ほかの助っ人を集めてくるって、どうしちまったんですか? おれだって仕事はしなくちゃならないし、いつまでもこんなことやってられないんですけど」
 不機嫌そうに舌打ちをしたSガールは、自転車のタイヤをぐるぐると手で回す翔を見ながら言った。
「そのとおりね」と、Sガールは孝弘にやめるように指示すると、手袋の形に白くなった地面の横に耳を当て、潜水艦が発する音が聞こえないか、集中して探っていった。「人を集めようとしたけれど、タイムパトロールに先回りされて、あんた達しか集められなかったのよ」

「そもそも、最初っから私が行って、ひっ捕まえてくる計画だったでしょ」

 と、Sガールは足下を見て立ち上がると、つまらなさそうにしている二人に言った。「うじうじうるさいんだって。計画どおりなんだから、いいじゃない。だいたい、私のおかげでタイムパトロールに捕まらないで済んでるんだから、感謝しなさいよ」
「えっ、おれはなにも言ってませんけど」と、翔は自分を指さして言った。
「あんたも同じよ」と、Sガールは渋い表情を浮かべて言った。「あんたはなにも言わないけれど、ふてくされたような態度が気に入らないのよ」
「不安なんですよ」と、翔は心配そうに言った。「大丈夫なんすか。この二人だけじゃ、荷が重すぎるのと違います」
「だったらなに?」と、Sガールは不機嫌そうに言った。「タイムパトロールに捕まれば記憶が消されるのよ。私と一緒に戦うしかないでしょ」
「――」と、孝弘と翔は顔を見合わせた。
「どうしても、あいつらを追いかけなきゃならないんですか」と、翔は言った。「せっかく面白い道具をもらったんだから、もっとほかに使い道があるんじゃないですか」
「いまさらなに言ってるの」と、Sガールはあきれたように言った。「その道具をもらったときに言われたでしょ。宝石を取り返して、悪魔を退治しろって」
「そうでしたっけ――」と、翔は孝弘を見ると、気がついた孝弘は慌てて首を振った。「おい。本当のこと言った方がいいんだぞ。――宝石はわかりますが、悪魔なんて本当にいるんですかね。いるかどうかもわからない悪魔を退治するのに、タイムパトロールに捕まるリスクを負いながら活動するって、そりゃ酷ですよ」
「私だって、乗り気じゃないわ」と、Sガールは言った。「だけど人間に仇なす存在がいるんなら、誰かがやっつけなくちゃならないでしょうが――くっそ」

 

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未来の落とし物(148)

2025-07-06 21:02:00 | 「未来の落とし物」

「島? 沙織の父親も、そこにいるのか」と、ジローはワックスを塗る手を休めず、移動しながら言った。「――どこにあるのか、知っているんだな」
「ああ」と、真人はワックスを塗り終えた手を止め、ジローに言った。「今じゃ“神の杖”の本拠地になっているらしい。元々は、オレが作った物を保管する倉庫がある場所なんだ。持ち主に黙って、泥棒連中がいいように使っていやがるのさ」

「だからそろそろ、手がつけられなくなる前に、潰さなきゃならないんだ」

 二人は、手際よく作業を進めていった。

「――どうだ。まんべんなく塗り終えたぞ」

 と、ジローは空になった缶を真人に手渡した。「わずかな時間だったが、地盤はすっかり凍りついているぞ」
「よしっ、乗ってくれ」と、真人は満足げに言うと、艦橋のハッチから素早く船内に入っていった。
「派手に行こうぜ」と、操縦席に座った真人は、手慣れた様子で潜水艦を起動した。
「おまえ、操縦したことはあるんだよな」と、操縦席の後ろで見守っていたジローは、念を押すように言った。
「この潜水艦か?」と、真人は自信ありげに言った。

「ぜんぜん知らねぇよ」

「冗談だろ――早く替わるんだ」と、ジローが言った途端、潜水艦は二人が思っていたのとは違う方向へ、羽が生えたようにあっという間に地中に潜っていった。
 操縦桿を握る真人は、まんざらでもないように自信ありありで操作をしているようだったが、操縦席の後ろで見守っていたはずのジローは、倒れることこそないものの、手すりにつかまったまま、一歩も動けなかった。
 凍りついた地盤を物ともせず、行き先もわからぬまま、潜水艦は縦横無尽に暴れ進んでいった。

「ちょっと。なんかおかしくない?」

 と、Sガールは耳を澄ませながら言った。「あいつら、気が狂ったみたいに走り回ってるわ」
「水分が苦手なんじゃなかったのかい」と、地べたに座って自転車の様子を見ている翔は言った。「もしかして、故障したのかもな」
「そんなわけない」と、Sガールは首を振りつつ、ぐっと唇を噛んで言葉を飲んだ。

 

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未来の落とし物(147)

2025-07-06 21:01:00 | 「未来の落とし物」


「はぁ?」

 と、真人はあきれたように言った。
「その石がなんなのか、知りもしないくせに、返さないのかよ」
 沙織は、真人の目の前で指輪をはずすと、煙のようにさっと掻き消してしまった。
「おい。手品は立派だけどな……」と、真人はあきれたように言った。
「さあ、私達は行きましょ――」と、沙織は亜珠理を手招きしながら、どこまでもドアに急ぎながら言った。「私の父がいる場所に、案内してくれるコンパスストーンでしょ。この宝石がないと、その場所に行けなくなってしまうんだから」

「ちょっと待てよ」

 と、どこまでもドアに入った沙織達に向かって、真人は言った。「あいつらが襲ってきたら、マスクのお姉ちゃんだけじゃ歯が立たないぜ。ほら――それ持って行け」
 と、真人がなにかを放り投げると、亜珠理は飛び上がって受け取った。
「変身できるブレスレットだ。使い方は多田が知ってる。無事でいろよ。少なくとも、石だけはあいつらに渡すな」

「わかったわ」

 と、亜珠理からブレスレットを受け取って、沙織は言った。「そっちこそ、無事でいてね」
 二人が奥に進むと、多田は真人に向かってうなずき、どこまでもドアを静かに閉じた。

 ――――    

「行ったな」と、空間に消え去ったドアを見ながら、ジローは言った。「本当にこのワックスで、水の中でも進むことができるのか」
 と、松明が花火のように散って、あたりが闇に包まれた。
「ジローは、暗闇は平気だろ」と、真人は言うと、ジローが持っているワックスをたっぷりと手で掬った。「オレも右目は義眼でね、暗闇でも見えるんだ」
「なにがあったんだ」と、真人に続いて、ワックスを手で掬ったジローは言った。
「悪魔は忙しいんだぜ」と、潜水艦にワックスを擦り込みながら、真人は言った。「なにかとあれば毛嫌いされて、いつも爪弾きにされるんだからな」
 ワックスを擦り込まれた潜水艦は、クラゲが水中で明滅するように、船体が薄ぼんやりとした光を発していた。
「それって、自分が招いたことかもしれないぞ」と、ジローは思い出したように言った。「自分のことを悪魔だなんて吹聴するやつが、神に仕える僧侶に痛い目に遭わされるなんて、よくあるストーリーじゃないか」
「そりゃそうだな」と、真人は言った。「そもそも十字教はオレが作ったんだ」
「――本当のことなんだろうが、やりすぎたな」と、ジローはあきれたように言った。
「それだけじゃないさ」と、真人はため息をついて言った。「“神の杖”とかって名乗ってる連中も、オレの島にいるんだ」

 

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未来の落とし物(146)

2025-07-06 21:00:00 | 「未来の落とし物」

「私てっきり、タイムパトロールがスカイ・ガールを捕まえたくって、覆面をわざと取り上げないでおいたんだとばっかり、思ってた」と、亜珠理はうなずきながら言った。
「おいおい、あんまりしゃべってる時間はないぞ」と、真人はそろそろ勢いがなくなってきた松明を見ながら言った。「タイムパトロールも、道具の仕組みがすっかり変わってて驚いたろうよ。そのマスクは、二三世紀の道具と比べりゃ、遙かに進んだ古代の忘れ物だからな」
「おい、ちょっと待ってくれ。それって状況がまた悪くなったんじゃないのか」と、ジローはため息をつくように言った。「スカイ・ガールを捕まえようとしてるタイムパトロールが、妙な技術を持ってる真人を狙って、一緒にいるおれ達も追いかけてくるってことだろ」
 ジローの言葉を聞いていた多田は、涼しい顔をして肩をすくめる真人の後ろで、困ったような表情を浮かべて、大きくうなずいた。
「オレとジローで、スカイ・ガールの連中を引きつけておく」と、真人は言った。「その隙に、おまえ達はオレたちがやって来たそのドアを使って、ここから脱出するんだ」

「――だから早く、サオリが持ってる石を返してくれ」

 と、真人は沙織の目の前に手の平を開いて見せた。「その石を持ってる限り、どこまでも追いかけてくるぞ」
「どうするの」と、沙織は心配そうに言った。「潜水艦は水分の多い場所では動けないのよ。いくら硬い氷とはいえ、水分の塊を通って移動することなんて、できやしないわ」
「なんとか、力任せでもいいから、凍りついていない地層まで掘り進めた方が、いいんじゃないのか」と、ジローは拳を持ち上げて言った。
「ジローとか、マスクのお姉ちゃんみたいに、力まかせに突破するのもいいが――」と、真人は後ろを振り返ると、多田から缶に入った物を受け取った。「あり合わせの材料で手作りしたんだが、このワックスを船体に塗りこめば、水も怖くないんだ」
 と、パカリと缶を開けた中には、銀色に見えるワックスが溢れんばかりに入っていた。
「こいつを潜水艦に塗るには人手がいるからな」と、真人は言った。「ジローに手を貸してもらわなきゃならない」
「で、私たちはそのドアを抜けて、どこに行けばいいの」と、沙織は言った。「ただ逃げたって、連中は追いかけてくるわよ」
「オレとジローが潜水艦に乗っていれば、連中は機関音を聞きつけて追いかけてくるはずだ」と、真人は言った。「だから、石を返してくれ」
「――」と、沙織は考えると、どこまでもドアの方を向きながら言った。「あなたに返してあげてもいいけれど、スカイ・ガールが追いかけるのは潜水艦みたいだし、あなたたちに預けて、なくしちゃったりしたら大変だから、あなたたちが無事で帰ってくるまで、やっぱり私が大切に預かっておくわ」

 

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未来の落とし物(145)

2025-07-05 21:02:00 | 「未来の落とし物」

「いろいろ理由があるみたいね」と、沙織はマスクを外しながら言った。「それで、私達のこと、ずっとつけ回してたの」
「そりゃひどい言い方だな」と、真人は唇をとがらせて言った。「見守ってたんだよ。陰ながらな」
「ものは言いようよね」と、沙織は不満そうに言った。「さっさと姿を見せてくれれば、ここまで追いこまれなくても済んだのに」
「――」と、真人は肩をすくめて言った。「教団だけじゃなく、“神の杖”の本体が出てきたからな。こっちも迂闊には正体を出せなかったんだ。ここは、ドリーヴランドじゃないからな」

「なんかまだ、いろいろ訳ありな事情があるみたいよね」

 と、沙織とジローは、真人をまじまじと見た。
「気のせいかしら。妙に懐かしい感じがしてる」と、沙織はほっと息をつきながら言った。
「ここで、また会えるとは思わなかった」と、ジローはうなずきながら言った。
「お互い様だ」と、真人は言った。「狙われてるのがおまえ達だとわかって、どきりとしたよ」
「このタイミングで出てきたってことは、なにか考えがあるんだろ」と、ジローは言った。
「そうせかすなって」と、真人は足下の地面に浮き出た霜を、ぱりぱりと踏みながら前に出てきて言った。「どうせこの上にいる奴らは、邪魔っ気な潜水艦を足止めしておいて、一気に攻めこんでくるつもりなんだろうが、その裏をかいて、逆に追いこんでやるつもりだ」
「どうするの」と、亜珠理は不思議そうに言った。「きみって、歳はいくつ――」

「はぁ?」

 と、真人が頓狂な声を上げると、沙織とジローははっとして亜珠理の顔を見た。「スカイ・ガールが退治したがってる悪魔ってのは、オレのことだよ」
「えっ。オススメとかって人が言ってた、凶悪な悪漢って、もしかして、きみのことなの……」
「そっか。そうだったな」と、真人は思い出したように言った。「あのセールスロボットが余計なことを言わないように、調整したんだった」
「セールス? ロボット?」
 と、亜珠理がなにか言おうとする前に、「ちょっと待って」と、沙織は言った。「彼女のマスクって、スカイ・ガールが身につけているスーパースーツのひとつでしょ」
 と、沙織を見ていた亜珠理は、こくりとうなずいた。
「そうだよ。二三世紀の新製品らしいじゃないか」と、真人は言った。「連中が一般人にばらまいてる便利グッズに装置を付け加えれば、“神の杖”に繋がる情報が手に入ると思って、ちょっとばかし改造させてもらったんだよ」
「――だから、タイムパトロールに取り上げられなかったってこと」

 

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未来の落とし物(144)【12章 古代の忘れ物】

2025-07-05 21:01:00 | 「未来の落とし物」

         12章 古代の忘れ物

「――あなた、どこから来たの」

 と、ちろちろと勢いのなくなった松明を手に、沙織は真人に言った。
「トンネルだよ」と、開け放たれたどこまでもドアを背に、低い段差をストン、と飛び降りて、真人は言った。「思ったより深くまで潜るもんだから、ここまで来るのに体力が削られちまったじゃないかよ」
「地上からここまで、歩いてきたの」と、沙織は首を傾げながら聞いた。
「当たり前だろ」と、真人はつまらなさそうに言った。「子供の体でも、体力が無尽蔵にあるわけじゃないんだぜ」
「どんな仕組みかはわからないけれど」と、沙織は言った。「この場所がわかってるなら、直結すればよかったんじゃないの」
 真人は不敵な笑顔を浮かべたが、なにも言わなかった。
「――彼は」と、沙織は真人の後ろにいる多田を見て、言った。
「ああ。手伝ってもらってる多田だよ。知ってるだろ」と、真人は沙織達に近づきながら言った。「支店長をやってたらしい」
「はじめまして。多田です――」と言って、多田はこくりと頭を下げた。
「あんた、教団の奴らに追われて、命を落としたんじゃなかったのか」と、ジローは驚いたように言った。「どうして無事でいるんだ」

「まさか、クローン人間か」

「そんな訳あるかよ」と、真人はジローに手を振って否定した。「生きている人間に映像をキャプチャーする道具があるんだよ。知ってるだろ。サオリが持ってる指輪の、本来の台座だよ。石だけじゃ守れないからな。台座にいろいろ凝った機能を仕込んでおいたんだ」
「その道具で、生きながらえました」と、多田は申し訳なさそうに言った。「亡くなったのは、私とは別人です」
「嘘でしょ」と、沙織は首を振って言った。「親族が遺体を確認したのよ。警察だって本人かどうか確認したはずよ」
「――スカイ・ガールのスパイか」と、ジローは言うと、ひりりとした緊張感が走った。
「そんな訳あるかよ」と、真人はジローに言った。「疑うのもいい加減にしとけよ。多田はクローンでもなければスパイでもねぇよ。オレの作った道具の性能がよすぎて、一時的に自分の顔を対象の顔に転写するつもりが、一時的とはいえ、骨格から改変するようにしちまったんだ」
「私も、正直驚きました」と、多田は申し訳なさそうに言った。「追っ手から逃げるわずかなチャンスを作るだけのつもりが、私のコピー人間が目の前に現れたんですから――」
 沙織は黙って聞いていたが、どこか腑に落ちない様子だった。
「サオリが持ってる石も、オレがこの多田達と作ったものなんだ」と、真人は言った。「だから、そろそろ返してくれないか。石を持っているせいで、追われてるんだろ」

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未来の落とし物(143)

2025-07-05 21:00:00 | 「未来の落とし物」

「いい考えだ」と、ジローは首を振りながら言うと、そばの壁に思い切り拳を叩きこんだ。「意外ともろい地層が剥き出しになっているから、思ったよりいいトンネルが掘れそうだ」
 と、亜珠理は消えそうな火を焼べていた薪ごと拾い上げると、ジローの手元を照らした。
「よかったら、わたしも手伝います」と、亜珠理は言うと、沙織は松明を受け取って言った。「頼んだわ」
 うなずいた亜珠理は、ジローが拳を叩きつけているすぐ隣の壁に、思い切り拳を叩きつけた。

 ザザザザ、ドサリ――。
 ザクザク、ゴロリ――。

 ジローと亜珠理が拳を叩きこんだ地面の壁が、みるみるうちに大きく穿たれ、深く長い口を開けると、手彫りのトンネルが次第にできあがっていった。

「おいおい。おまえらどこに行くつもりだよ」

 と、聞き覚えのある声に驚いて、ジローと沙織は振り返った。

「きみ、どこから来たの」と、トンネルを掘る手を止めた亜珠理は、驚いて言った。「――もしかして、地底人の子供?」

「オレだよ、真人だよ」

 と、明るい空間の前に立っていたのは、真人と多田だった。

 

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