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法実証主義とは何か

2016-01-01 18:01:34 | 基礎法・法理学・法制史

かつての記事以降に読んだ教科書の暫定的まとめ。ただし後半はさらに要勉強。

 

[実定法一元論]

自然法(natural law)に対比される実定法(positive law)は、人為によって成立する法(制定法、慣習法、判決法、条理)を指す。

田中成明の整理では、法実証主義(legal positivism;自然法論natural law theoryとの対比では「実定法主義」と訳すべきか)の基本的特徴は、次のように整理される。

・実定法一元論。自然法の法的資格を否認。

・法と道徳の区別、現に在る法と在るべき法との区別。正統な機関が所定の手続を経て制定した法律は、道徳的価値を問わず、妥当性(validity)をもつ。

・実定法とそれ以外のものを識別するための規範が法システム内に存在する。

・法的概念を、道徳的評価や政治的イデオロギーに左右されずに分析することが可能。

 

[補足:多義的な言葉の実際]

「法実証主義」とは多義的な言葉だが、ハート『法の概念』第9章の巻末注(長谷部恭男訳版pp521-522)では次の5つの意味をもつと整理される。

△(1)命令説;法は人間の命令(command)である。

◎(2)分離可能性テーゼ;法と道徳との間には必然的な関連がない。

◎(3)分析法理学;法的概念の分析は、歴史学的・社会学的や法の批判的評価からは区別されるべき重要な研究である。

×(4)概念法学;法体系は、完結した論理的体系である。

×(5)反実在論;道徳的判断は、事実言明とは違い、理性的議論・証拠・証明によっては確立されない。

 このうち、(1)は法実証主義の素朴な1バージョンにすぎない。(4)(5)は法実証主義とは関係がない。結局、(田中の整理と同じく)法実証主義の核心は(2)(3)といえ、研究対象を「(道徳と区別された)実定法」に限定し、自然法を排除するものだとまとめることができる。

 

[ソフトな法実証主義]

分離可能性テーゼにかかわらず、「法律家は法の解釈において、明文化されていない道徳的原理を利用している」とのドゥオーキンの批判は広く受け入れられている。例えば日本の実定民法で使われている「公の秩序」「善良の風俗」「信義誠実」といった言葉を、道徳的判断なしに解釈することは難しい。この批判に対し、法実証主義の反応は分かれる。

ソフトな法実証主義(包含的(inclusive)法実証主義)は、「特定の法がその中に道徳的基準を含むことはあり得る」と応える。この立場からは「分離可能性テーゼは法と道徳の’必然的な’関連がないというにとどまるから、道徳的基準に法的地位を認める法体系が存在するとの主張は何らテーゼと矛盾しない」と弁解される。そして、そのような法体系では、ある道徳原理が「法」としての妥当性をもつか否かは、(公務員の)慣行的ルール(conventional rule)に照らして決められている。 先の実定民法の例によれば、その妥当性(validity)は両議員での可決という社会的事実によって支えられている。

 

[ハードな法実証主義]

これに対し、ハードな法実証主義(排除的(exclusive)法実証主義)、「ある規範が法であるか否かは、立法・判決・慣習といった社会的事実のみに照らして価値中立的に判断することができる」とする。この時に道徳的原理を持ち出すことは、個人の道徳的判断を流入させて「法と法ならざるもの」の区別を不明確にさせてしまう(※ソフトな法実証主義の立場とどのように対応しているのかがよくわからない…)。

この立場からは、先の実定民法の例はどう説明されようか? 当該条文は、裁判官に自らの道徳的判断によって○○という法的効果を与える権限を与えているものの、その一事をもって当該条文が道徳を含むことにはならない、と説く(※さっぱりわからん…)。

源泉テーゼの提唱者であるラズは、ドゥオーキンによる「ハート的司法裁量論批判」に応対し、次のように反論する;たしかにドゥオーキンの言うとおり、裁判官は道徳原理を用いて法創造をすることがある。しかし、ここで援用される道徳原理が「法」だと考える必要はない。その限りでソフトな法実証主義は妥協しすぎている。「法」は、裁判官に対して「法の外部にある道徳原理を援用せよ」と要求しており、裁判官はそれにしたがっているにすぎない、と説く(※うーん、説得されない…)。

 

加藤新平『法哲学概論』[1976]pp272-

レイモンド・ワックス『法哲学』[原著2006、中山竜一ほか訳2011]

BRIAN H.BIX  A Dictionary of Legal Theory[2004] pp120-124

田中成明『現代法理学』[2011]pp78-80,pp146-152

笹倉秀夫『法学講義』[2014] p45 

瀧川裕英、宇佐美誠、大屋雄裕『法哲学』[2014]pp193-196〔宇佐美〕,249-263〔宇佐美〕

森村進『法哲学講義』[2015]pp48-58,169-176


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