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解雇していないのに出社しなくなった社員が解雇されたと主張する。

2014-12-05 | 日記

解雇していないのに出社しなくなった社員が解雇されたと主張する。

1 解雇していないのに解雇されたと主張する社員の意図
 使用者が解雇していないにもかかわらず,解雇されたと主張する社員の意図は,主に以下のものが考えられます。
 ① 失業手当の受給条件を良くしたい。
 ② 解雇予告手当を請求したい。
 ③ 解雇無効を主張して,働かずにバックペイ又は解決金を取得したい。

2 失業手当の受給条件
 社員が自己都合で会社を辞めた場合は,会社都合の場合と比較して,失業手当の支給開始が3か月遅れるなど,失業手当の受給条件が悪くなります。社員の中には,会社から解雇されたことにして,失業手当の受給条件を良くしようとする者もいます。
 なお,退職勧奨により退職した者は「特定受給資格者」(雇用保険法23条1項)に該当するため(雇用保険法23条2項2号),会社都合の解雇等の場合と同様の扱いとなり,給付制限もありません。退職勧奨による退職であっても退職届を出してしまうと失業手当の受給条件が不利になると誤解されていることがあります。

3 解雇予告手当の請求
 平均賃金30日分の解雇予告手当(労基法20条1項)を取得したくて即時解雇されたと主張する社員が散見されます。
 解雇予告手当の請求は解雇の効力を争わないことが前提の請求であり,解雇予告手当の金額は平均賃金30日分に過ぎませんので,リスクは限定されます。

4 解雇無効を前提とした賃金請求
 解雇無効を理由に働かずにバックペイ又は解決金を取得する目的で,社員から解雇されたと主張されることがあります。解雇通知書や解雇理由証明書を交付するよう要求してきたら要注意です。
 解雇が無効と判断された場合,実際には全く仕事をしていない社員に対し,毎月の賃金を支払わなければなりません。しかも,解雇が無効と判断された場合に使用者が負担する金額はは,高額になることがあります。単純化して説明すると,月給30万の社員を解雇したところ,解雇の効力が争われ,2年後に判決で解雇が無効と判断された場合は,既発生の未払賃金元本だけで,30万円×24か月=720万円の支払義務を負うことになります。
 解雇が無効と判断された場合に解雇期間中の賃金として使用者が負担しなければならない金額は,「当該社員が解雇されなかったならば労働契約上確実に支給されたであろう賃金の合計額」です。基本給や毎月定額で支払われている手当のほとんどは支払わなければなりません。
 通勤手当は,実費補償的な性質を有する場合は,負担する必要はありません。
 時間外・休日・深夜割増賃金(残業代)は,時間外・休日・深夜労働をして初めて発生するものですので,通常は負担する必要がありません。ただし,定額(固定)残業代を採用するなどしているため,時間外・休日・深夜労働をしなくても一定の時間外・休日・深夜労働が確実に支給されたと考えられる事案では,時間外・休日・深夜割増賃金の支払を命じられる可能性があります。
 賞与は,支給金額が確定できない場合は,解雇が無効と判断されても支払を命じられません。支給金額が確定できる場合は,確定できる金額について支払が命じられることがあります。一定額の賞与を支給する労使慣行が成立していたという主張は,なかなか認められません。
 解雇期間中の中間収入(他社で働いて得た収入)は,それが副業収入のようなものであって解雇がなくても取得できた(自社の収入と両立する)といった特段の事情がない限り,
 ① 月例賃金のうち平均賃金の60%(労基法26条)を超える部分(平均賃金額の40%)
 ② 平均賃金算定の基礎に算入されない賃金(賞与等)の全額
が控除の対象となります。控除し得る中間収入はその発生期間が賃金の支給対象期間と時期的に対応していることが必要であり,時期が異なる期間内に得た収入を控除することは許されません。
 解雇期間中に失業手当を受給していたとしても,失業手当額は控除してもらえません。

5 社員が出社しなくなった原因
 社員が出社しなくなった場合の法律関係としては,主に以下のようなものが考えられます。
 ① 社員が辞職した。
 ② 合意退職が成立した。
 ③ 使用者が社員を解雇した。
 ④ 社員は辞職しておらず,合意退職も成立しておらず,使用者は社員を解雇しておらず,社員は在職中だが,出社していない。
 ①社員が辞職したと認定された場合,辞職申入れの日から2週間を経過した時点で退職の効力が生じます(民法627条1項)。
 ②合意退職が成立したと認定された場合,合意された退職日を以て労働契約は終了します。退職届等の客観的証拠がないと,社員が合意退職を申し込んだと認定されにくい傾向にあります。
 ③使用者が社員を解雇したと認定された場合,有効に解雇を行うための準備が不十分なことが多く,解雇は無効と判断されるリスクが高いと言わざるを得ません。解雇が無効と判断されれば,使用者は,社員が現実には働いていない解雇期間中の賃金を支払わなければなりません。
 使用者が解雇していないにもかかわらず,社員が解雇されたと主張するような事案では,会話のやり取りが無断録音されていることが多いです。解雇されたことにしたい社員は,会話を無断録音しながら「解雇」と言わせようと誘導しようとすることが多いので,不自然に「解雇」と言わせたがっている様子が窺われる場合には無断録音を疑うとともに,慎重に対応する必要があります。
 ④社員は辞職しておらず,合意退職も成立しておらず,使用者は社員を解雇していないと認定された場合,退職の効果が発生する事由が存在しませんので,労働契約は存続していることになります。在職中の社員が職場復帰を求めてきたのに対し,使用者が既に退職しているとして労務提供の受領を拒絶していたような事情があれば,使用者の責めに帰すべき事由により社員の労務提供が不能となっていますので,社員が現実には働いていなくても,使用者は賃金を支払わなければならなくなってしまいます。

6 解雇していないのに退職届も提出せずに出社しなくなった社員への対応
 退職する意思があるのかないのか,働く意思があるのかないのかをはっきりさせることが重要です。退職届も取らずに,退職したものとして扱うのはリスクが高いと言わざるを得ません。
 解雇していないのに,退職届も提出せずに出社しなくなった社員に対しては,電話,電子メール,郵便等を用いて,
 ① 退職する意思があるのであれば退職届を提出すること
 ② 退職する意思がないのであれば出勤すること
 ③ 出勤できない事情があるのであれば,欠勤の理由を記載した欠勤届を提出すること
を要求して下さい。
 ①退職届の提出があれば,退職の効力が争われるリスクは極めて低くなります。
 ②出勤を催促することにより,使用者が労務提供の受領を拒絶していないことを明確にしておけば,仮に退職の効力が生じない事案であったとしても,社員が出勤して現実に労働しない限り賃金支払義務を負わないため,不必要な出費を抑制することができます。
 ③出勤しない社員に対し,欠勤の理由を記載した欠勤届の提出を要求することにより,使用者が労務提供の受領を拒絶しておらず,社員の都合で「欠勤」しているに過ぎない事実がより明確になります。「欠勤」であれば,使用者は賃金支払義務を負わないのが原則となります。



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