パンダとそらまめ

ヴァイオリン弾きのパンダと環境系法律屋さんのそらまめによる不思議なコラボブログです。
(「初めに」をご一読ください)

FERC Order No. 890

2007-05-24 23:53:22 | Weblog
 先週書いてたpaperで規制緩和というか事業再編というか自由化というかいろんな言葉で表現されてますが電気事業ネタの在り様をアメリカのと日本のとさらさらと眺めていたのですが、いや、paper自体はオリジナリティもへったくれもない手抜きだと言ったとおりですが、調べているうちに最新のFERC(連邦エネルギー規制委員会)のorderが目に入って、これをスルーするのは手抜きの域を超えると思ってさらさらと読んでみたら面白かった。2月に発表されて、こっちの官報(Federal Register)で公布されたのが3月、めでたく5月14日に施行されたばかりのできたてホヤホヤ。
 まずビックリしたのがその量。1255ページもあるって信じられます 結論パートと論点紹介・パブコメ意見・レスポンスパートあるからなのですが、それにしてもスゴイ量。発表日の委員長のStatementが"Let me begin by congratulating the OATT Reform Team on their superb work throughout this rulemaking."とまず職員の献身を称えているのも分かるというもの。
 
 んで中身ですが、電力自由化の流れで96年に出たOrder 888 & 889の流れをさらに推し進める中身で、一言で言うと送電事業者にさらに公正・透明な事業を求めるものです。なんで送電網の話なのかというと、それが引き続き規模の経済が働き&公益的な性格を有し自由化に際してその公正な利用が求められるという事情はありますが、そもそもFERCはInterstate Transmission(州際送電)にしか権限がないっていう事情もある。大昔にRGGIの関連で連邦政府のCommerce Power(国際・州際通商規制権限)にちらと触れたことがありますが、ここでも同じで、結論的に言うと、電力事業の規制権限は、州際送電は連邦、発電・州内送電・配電は州です。州によって独占のままだったり事業再編・自由化が進んでたりするのはこのため。ついでですがテキサスの送電網は州内で完結しているのでFERCの管轄が及びません。
 メジャーな内容は送電事業者に対する義務として以下を定めてます。かなりマニアックですが、
○送電可能量の計算方法の標準化・透明化
○送電網敷設計画における顧客との調整義務
○Conditional Firm Service提供義務ー年間ある時間だけ送電できない場合、ある時間送電できないという条件付で安定的に送電するConditional Firm Serviceを提供しなきゃいけない。特定の時間送電キャパを越えそうだから一切送電しないというのはダメよと。
○インバランス賦課料の計算方法の明確化。インバランス度に応じて3段階化すると。興味深いのは、風力発電のような断続的な発電に対しては、どんなにバラつこうが3段階目にまではいかないってこと。調整義務やConditional Firm Service提供義務やらとあわせて、Renewable特に風力発電に対する環境を整えたと力説しています。

 なにが面白いって日本での風力発電普及のボトルネックはまさしくこの送電の安定性で、送電網の運用が地域会社ごとの串団子って事情もあって、全体のパイが大きい東電、関電、中部電力以外では系統連系は一定の制限があるみたい。エネ庁が委員会まで作って検討してる(た)みたいで、実際解列はconditional firm serviceの発想と似てるし、発電事業者との協議の必要性とか、粗方網羅されてる訳でその意味では日本の議論が先を行ってた訳ですが、ウンチク並べておいて大体の論点で最後はことごとく「期待される」といって電力会社任せなので(まぁいつもどおりですけど)それで本当に公明正大にできるんでしょうかというのはやや疑問だし、規則制定を終えたアメリカに見習う点はあるんじゃないかと思う。普通に考えればどう見ても送電側の方が立場が強いと思うんですけど、期待表明だけで十分なのかと。あと、エネ庁内部でも新エネ部会任せにしてないで、自由化における公正性の確保という点の方が重要ではないかと思うんですけどー。ここは一つ鳴り物入り!?で設立された中立機関の電力系統利用協議会さん頑張ってください。一つよく分からないのはその協議会のルール監視って申立に応じた受動的なものだけなんですかね?末端の小規模の発電施設を持ってる人が電力会社を相手に中立機関に訴え出るってかなりハードルが高いように思うんですが。
 本当はテキサスの電力事業再編法とかかなり面白いのですが、既にマニアックな長文になってるのでこの辺りで。


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2 コメント

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Unknown (さなえ)
2007-05-28 06:13:40
そういえば大規模な停電が各地で起きて騒動になっていましたね。その後どうなったのかと思っていたら、こういう形で出てきていたのですね。勉強になりました。東南アジアの水道事業で私企業が公的サービスを独占したことで問題が起きていましたが、こちらは米国のようにはいかないでしょうし、停電なら最低、夜は寝ればいいのですが、水が手に入らないというのはどうなるのか、やきもきします。
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RE; (そらまめ)
2007-05-28 13:43:40
停電の要因はイマイチ私自身消化しきっていませんが、系統運営の問題とあるいはそれ以上に送電設備の絶対量の不足が影響していたハズで、今回の不合理な競争制限の禁止的な規則がどう送電設備の増強に影響をもたらすのかおっしゃるとおり注視が必要ですね。
水の民営化はフィリピン出身のクラスメートは非常に否定的でしたが、なぜうまくいかなかったのか確かに興味深いですね。
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