「人並みを目指すな」と横塚さんは言う。
「健常者と同じことをしようとするな」、と言う。
初めてこの本を読んだ19才のころは、
実際に障害をもつ子どもと付き合ったこともなく、
大人の障害者の知り合いも、一人もいなかった。
だから、横塚さんの言葉をそのまま受け取ってきた。
最近、復刊されたのをきっかけに読みかえして、
ふと思った。
私が出会ってきた子どもたちが、
知ちゃんやリサや秀和が高校を目指し、
0点でも高校へとやってきたことは、
「人並みを目指す」ではなかったよな、と。
横塚さんの時代と変らない差別は今もあふれているが、
違うこともある。
それは、この子たちは、小さいときから「人並み」だったのだ。
できないことだらけのままで、ありのままで、
幼稚園に行き、
地域の普通学級に通い、
地域の中学校に通い、
地域の仲間と15年間を過ごした。
(そのために、たくさんの差別を乗り越えてのことなのは
もちろんだが、それは別の機会に)
社会の障害者への扱いは、
今も横塚さんの時代とほとんど変らない。
駅のエレベーターの数が増えたが、
障害者への偏見も差別も変わってはいない。
ただし、この子たちの同級生の、
この子たちへの感覚は確実に違う。
その子たちは、「0点でも高校へ」という言葉を知らなくても、
朝子やリサや秀和が高校になることに不思議を感じない。
浪人していることを聞けば、
「がんばって、来年は高校生になってね」という言葉が
普通に返ってくる。
浪人したって、字も書かないだろうし、
言葉もしゃべらないことは百も承知の上でだ。
考えてみれば、何をがんばれというのか不明だが、
そんな論理を超えた、当たり前の感覚がそこにはある。
それこそが、同世代の中では、人並みに育ってきた証だ。
そこまで含めた当たり前を感じる同級生を15年かけて手に入れたのだ。
人並みの15歳なのだ。
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