『ケアされること』(岩波書店)という本を読みました。
小山内美智子さんや、安積遊歩さん、
橋本操さんの文章が読みたくて買ったのですが、
その中に、三田優子さんの「知的障害者の自立」という文章があります。
☆ ☆ ☆
「三田さん しせつを出て ぼくのおしろを手にいれました。
ぜひ、みにきてください」
手紙を受けとった三田さんが、彼の「おしろ」を訪ねます。
二十年以上も待ちわびた、自立生活の「おしろ」。
「おしろ」の外見は古くてボロかったが、
彼の部屋は、とてもきれいでした。
「どうしてこんなにきれいになっているの?」
「毎日、早起きしてね、ぜんぶお掃除してからお仕事にいくんだよ」
三田さんは、「ぜんぶ」の中身を尋ねます。
…床の水拭き、掃除機かけ、畳の乾拭き、窓拭き、柱の乾拭き、
玄関の掃き掃除、ドア両面の水拭き、トイレの水拭き、便器の掃除……。
三田さんがつぶやきます。
「家の掃除なんて、いつ最後にしたかも覚えてないなあ」
彼が答えます。
「それじゃ、自立してないよ、だめだよ三田さん!」
「ごめんなさい」
「朝はね、ごはんを炊いて、お弁当を作ります。
おかずも一品でなくていくつか作ってきれいにつめていきます。
洗濯も毎日します。きちんと干さないとだめです。
洗濯機もカビないようにお水を拭きます………」
そうして、彼は言います。
「おしろはくたびれるねぇ……」
「どうして毎日、洗濯するの?
お休みの日にまとめてするのはだめなのかな?」
「だめだよ。もしも雨が降って、制服が乾かなかったら笑われるから」
「誰に?」
「お仕事の人たちだよ。
お弁当だっていいかげんなものを持っていったら、
障害者はだからだめだって言われるよ」
「言われたことあるの?」
「ないけど、支援センターの職員が言ってた。がんばらないとダメだって」
「どうして毎日お弁当作るの? コンビニでも売ってるよ?」
「お金は大切だから、節約しないとだめだって、お姉さんが言ってた」
「でもたまには楽したい、寝坊したいって思ったりしない?」
「そんなことしたら自立できない子って言われて施設に戻されるかもしれない」
「そんなことないと思うけどなあ。じゃあ……自立って何だろうね?」
「よくわかんないけど、くたびれるってこと。
……くたびれると泣けてくるんだよ」
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