8才の子ども 五十年目の糸
新たな世紀、新たな法現るも、生まれくる子を分かつ闇教育の掟、変わらず。もうだいじょうぶな世になったと、もう心配せずに生きていいと、8才の子どもに未だ報告できず。
五十年では変わらなかった。
五十年では届かなかった。
百年経てば、変わるだろうか。
先にみおくった幼きものたちと後の世を待つのみか。
出会いの日々をおもえば声がきこえ、手をひかれる。
振り向けば、おもかげから笑みがこぼれる。手放してはいけないものを守るため、握りしめたこぶしからこぼれるぬくもり灯り。
こぼれるぬくもり灯りは、「いる」だけですべてを包まれ守られた日々。生まれる前の記憶。同じぬくもりから生まれた者たちは、互いの気配やことば以前の声に惹かれ合う。
そのぬくもり灯りに照らされて、
まだしゃべり始める前の子らをつなぐ糸がみえる。
まだ歩きだす前の子らをつなぐ糸がみえる。
まなざし合う子らのつながりがみえる。
声の届く距離がある。
手の届く距離がある。
まなざしの届く距離がある。
その距離を超えて、耳を傾ける子らがいる。
届かない距離に、手をのばす子らがいる。
みえないまなざしに、目を凝らす子らがいる。
どれほど遠ざけられても、分かつことのできない糸がある。
いくどすり抜けても手をのばす子らの笑みがわたしの灯り。
その灯りに照らされて、五十年の時を経てもなお、守られつづける糸がみえる。
8才の子どもが命がけで握りしめた糸が、いまもここにある。
だから、明日出会う子の、糸を守ろう。
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