『せかいの合言葉はつながり』(その2)
《第M章》
「あのさ、ジャムのこと覚えてる?」
「ジャム?」
順さんの自宅の庭でバーベキューをしているときに、ふとジャムのことを思い出して聞いてみた。
「うん、前から聞こうと思ってたんだけど…」
「なに、なに?」
「小学校の1年か2年のときにさ…、おれは覚えてないんだけど、みんなは覚えてるみたいでさ、よく言われるんだよね」
「…」
「給食のときに、おれがジャムパンをこう開いて、順さんの髪の毛にべとーってぬったんだって…」
「……えーー、ぜんぜん覚えてない」
「…へ?、覚えてないの?」
「うん」
◇
・・・そう言えばジャムの話は、誰が言い出したのか。はっきりとした記憶がない。高校生のころだったか、もっと後のクラス会だったか。
証言者は一人二人ではない。「よーちゃんは、順さんにはひどかったよね~」と、目の前のジャムをぬられて泣いている女の子が目の前にいるかのように、その場にいたみんなが悲しげに首をふるのだ。
そのとき、わたしは必死で無実を訴えた。
「そんな訳ないじゃん。おれは順さんのことが大好きだったんだから。」
誰も聞いてはくれない。
「だってさ、おれは順さんのあの長いサラサラの髪が大好きで、ほら、教室の前の廊下に卓球台が置いてあるときがあって、通り抜けるには狭くて、そこで順さんとすれ違ったとき、順さんの髪が、おれの頬をパサーってなでていったとき、頭がクラクラってした感触をいまでも覚えてるくらい、順さんの長い髪が大好きだったんだから…。それにジャムをぬる? そんなひどいことする訳ないじゃん……。」
私がどんなに無実を訴えても、冤罪を訴えても、みんなの記憶と証言は変わらない。
それなら、直接、順さんに確かめてみるしかない。
その機会は事件から40年後に訪れた。
そして、無実は証明された、かに思えた。
その時だった。
◇
「ジャムのことは覚えてないけど、牛乳のことは覚えてるよ」
「へ?」
「ようちゃんはいつもわたしのこと、助けてくれたでしょ」
「へ?」
「私ね、牛乳が嫌いでのめなかったの。だから、ようちゃんが私の牛乳をこぼしてくれてね、それで飲まなくてすんだんだよ」
「……」
わたしはジャムも牛乳も覚えていない。
ひたすら順さんが大好きで、いつも天使だと思ってた記憶しかない。
その後、さらに衝撃の言葉がつづく。
「ようちゃんって、いい男だよね。わたし、昔からようちゃんのこと大好きだったんだ。」
20年前にその言葉を聞いていたら、わたしの人生はぜんぜん違うものになっていたかもしれない。
(つづく)
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