『せかいの合言葉はつながり』（その１）

『せかいの合言葉はつながり』



「人生からほしいものは手に入れた、望んだ以上に」
(　ル・グイン『世界の合言葉は森』)



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『せかいの合言葉はつながり』


《第B章》

「せんせいー、また、よーちゃんが牛乳こぼしちゃったよ」
「ぞうきん、ぞうきん、だれか、ぞうきん持ってきてー」
「バケツも」

またあの子は、そうやって順ちゃんに意地悪なことばかりするんだから。
自分のはさっさと飲んじゃって、食べるのが遅い順ちゃんの牛乳を取ろうとして、いつもビンを倒しちゃうんだから。昨日なんか、順ちゃんが座ろうとするときに椅子を引いたもんだから、かわいそうに、順ちゃんはおもいきり引っくり返って大泣きだったんだから、まったくもう。

先週は、リュウ君に下敷きを投げつけて何針も縫うケガをさせたし、となりのクラスの松井くんとはろうかで取っ組み合いのケンカ。あの子はいったい何しに学校に来てるんだか。廊下に立たせても、いつのまにかどこかにいなくなっちゃうし。

この前の図工の時間も、みんなが片づけ終わって、次の授業が始まってるのに、一人だけ粘土をやめないのよ。「先生の言うことが聞けないなら、明日から学校に来なくていいです」と叱っても、平気な顔してるし…。まったく親の顔が見てみたいわ。

といっても、何度も見てるんだけどね。そうそう、この前なんか校庭の野球のネットがあるでしょ、ほらバックネットよ。あのてっぺんまでよじ登って遊んでるのよ。いくら雪が積もってて、落ちても大丈夫とか言ったって危ないに決まってるわよ。案の定、破損したネットの針金で手を切っちゃって７針も縫ったのよ。保健室の先生に「またこの子！」って怒られるのは私よ。

怒られるっていえば、この前、あの子、講堂の天井裏に登っちゃったのよ。教頭先生が見つけて、「危ないからおりてきなさい」っていうのに、あの子、どんどん奥に入っちゃって……、大騒ぎだったんだから。
どうしてすぐに降りてこないのって、叱ったら、だって怒られるもんて。
どっちにしたって怒られるにきまってるでしょ。

まあ、私はいいわよ。かわいそうなのは順ちゃんよ。聞けば、保育園のころから目をつけられちゃって、順ちゃんは登園拒否だったみたい。入学前にそれが分かってたら、同じクラスになんかしなかったのに。ほんとに順ちゃんがかわいそう。お勉強もできるしピアノも上手で、とってもいい子なのに。長い髪を束ねているリボンの結び方ひとつで、お母さんがどんなに順ちゃんを大切にしているかがわかるわ。

それなのに、まったくどうしてあんないい子に意地悪するのかしら。
そうよ、ジャムパン！　この前の給食のときよ、あの子ったら、ジャムパンを開いて、順ちゃんのあのきれいな髪にジャムを塗りたくったのよ。信じられる？　ジャムよ、ジャム。

やっぱり、あの子、どうかしてるのよ。なんとかしなくちゃ。
このままじゃ、あの子にも、他の子にもよくないわ。


（つづく）