フランシス・ノーランと思われる女性は、はじめて来たホテルで迷うこともなくガイ・クラレンドンの部屋部屋へ向かった。さらにフロント係の話を聞いてみよう。
われわれの依頼で、このフロント係の男はベルボーイに例の続き部屋へわれわれを案内するように命じた。やってきたベルボーイは眠そうな顔をしてい た。部屋に案内してもらいながらそのわけを聞くと、ちょうど夜勤から昼勤に かわったばかりだからということだった。さらにいろいろたずねたところ次のようなことがわかった。
ホテルの正面玄関は午後10時には鍵がおろされる。したがってそれ以降は宿泊人であろうが訪問者であろうが、夜勤の従業員に鍵を開けてもらわないかぎり出入りはできない。模範的生活を送っていたクラレンドンはいつも10時前には部屋に戻っていたという。
2間続きのその部屋の警備にあたっていた警官は、部屋のなかであちこち歩きまわるわれわれを警戒し、じっと監視の目を注ぎつづけていた。居間の壁には淡い色調の花模様の壁紙が貼られてあり、天井は黄色のしっくい塗りだった。
警官は寝室へ通じる廊下を指さし、そこで死体が発見されたことを教えてくれた。廊下のじゅうたんにはわずかに血痕がついている。あたり一面の大きなしみはぶどう酒によるものにちがいない。すぐそばに2個のワイングラスが落ちていて、1つは割れていた。そこから4、5メートル離れた部屋のまんなかあたりに、 黄色のしっくいの小さなかけらが散らばっていた。
居間をくまなく捜査したが、被害者の個人的な持ち物としてはたいしたものは見つからなかった。ただ机の引出しのなかに、コックス銀行からの報告書が入っていた。そこには次のように記されていた。
預け入れ 5月30日 5000ポンド
引き出し 6月1日 5000ポンド
預け入れ 6月12日 500ポンド
預け入れ 6月16日 1500ポンド
預け入れ 6月18日 500ポンド
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