一日、魏延が説いた。
「丞相。それがしに、五千騎おかし下さい。こんなことをしている間に、長安を潰滅してみせます」
「策に依ってはだが・・・・・・?」
「ここと長安の間は、長駆すれば十日で達する距離です。もしお許しあれば、秦嶺を越え、子午谷を渡り、虚を衝いて、敵を混乱に陥れ、彼の糧食を焼き払いましょう。丞相は斜谷から進まれ、咸陽へ伸びて出られたら、魏の夏侯楙などは、一鼓して破り得るものと信じますが」
「いかんなあ」
孔明は取り上げない。雑談のように軽く聞き流して、
「もし敵に智のある者がいれば、兵をまわして、山際の切所を断つにきまっている。そのときご辺の五千の兵は、一人も生きては帰れないだろう」
(吉川英治『三国志』より抜粋)
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