Sゴフ銃砲店で小型の拳銃を購入した女性は犯人グループのうちのひとりなのだろうか。念のため、銃創を確認しておこう。われわれは死体を安置している聖バーソロミュー病院（38EC）へ向かった。
バーツでジャスパー・ミークス卿に会った。ミークス卿はクラレンドンは至近距離から小口径のピストルで撃たれたと教えてくれた。
「私のところに遺体が送られてきたのは午後1時だったよ。死亡推定時刻はそれから4時間から10時間前だね」
思いがけず、レストレードから貴重な情報を得たわれわれは、Sゴフ銃砲店（28WC）へ向かった。
S・ゴフ銃砲店の店員は先週店にひとりでやってきた女性客のことをよく覚えていた。
「女の方が店に見えることはめったにありませんからね。それもひとりでとなるとなおさらです。 とても魅力的な女性でした。ただ眼鏡をかけられていたのが残念でしたがね。ディリンジャー型のピストルを買われて、宛名の入った領収書を書いてほ しいといわれました。ええと、名前はたしかフランシス・ノーレス．．．いやフランシス．．．ともかくフランシスなんとかという名でした」
フランシス・ノーラン氏の証言により、調査する必要がある場所がいくつかあがった。その前にひとつ気になったことがある。可哀想なレストレードは、なぜ凶器の拳銃を「ノーラン嬢のものに間違いない」と断定しているのだろうか。無駄足かもしれないが、いちおうスコットランドヤード（13SW）へも寄っていこう。
「この事件を調査するなんて、時間のむだだね」
われわれの質問にうんざりしたレストレード警部は、めんどくさそうにいった。
「いいかね、フランシス・ノーランはクラレンドンがハリデイ特約ホテルに泊まっていることすら知らなかったと供述している。にもかかわらずだ、彼女は迷いもせずまっすぐにクラレンドンの部屋に向かっている。そして、いきなりデリンジャーをぶっぱなしたんだ。犯行に使用したピストルをS・ゴフという銃砲店で買ったことは、彼女が持っていた領収書から判明している。ホテルの部屋で発見されたクラレンドンの死体には、ちゃんと小口径のピストルによって撃たれた跡があった。どう考えたって彼女の犯行にまちがいない」
財産目当てにフランシス・ノーランに近付いたクランレンドン氏は、何らかの金銭トラブルに巻き込まれていたのかもしれない。さらに話を聞いてみよう。
「では、ハリデイ特約ホテルに行ったことはどう説明します?」
「それは．．．まったくわかりません。前の2回のときと同じなんです」
「以前にも記憶をなくされたことがあるんですか?」
「ええ。このひと月のあいだに2回ありました。はじめて記憶を失ったときは、気がつくとハイド・パークのベンチに坐っていました。妹と昼食をとって いたことは覚えているのですが、そのあとのことはまったく覚えておらず、いつのまにか夕方になっていました。2度目はその2、3日後でした。その日の朝、わたしは弁護士のハイアラム・ ダヴェンポートに会いました。つぎに気がついたときにはリバプール街駅にいました。わたしは不安にかられ、かかりつけの医者に相談しました。メイスン先生です。しかし先生は原因がどうしてもわからないといって首をかしげておられました。よく休むようにとだけおっしゃいました」
「ピストルは、どこで手に入れたのですか?」
「警察はわたしのものにまちがいないというのですが、あんなピストルは見たこともありません」
「最後にもうひとつ。ジェラルド・ロックとはどんな関係ですか?」
「ジェリーは古くからのよいお友だちです。最近ちょっと仲たがいしているのが、とても残念です。 ジェリーがガイについてとても失礼なことをいったものですから」
