2010年度 118冊目
『プラド美術館 名画に隠された謎を解く!』
薮野 健 著
中央公論新社
2006.3
127ページ ¥1800+税
『プラド美術館 名画に隠された謎を解く!』を楽しむ。
まさに楽しむという言葉がぴったり。
ゴヤやルーベンスがいっぱい。
独立美術の故須田国太郎氏のことが二ヶ所、名前三回記述。
薮野 健氏は二紀会の方だけれど、須田国太郎さんに一目置かれているのかな。
この先生の講義も受けたかったな。
レビュー
出版社/著者からの内容紹介
ティッツィアーノ、エル・グレコ、ベラスケス、ゴヤ……。プラド美術館所蔵の超一級品名画の数々。画家藪野健が、描く立場から名画の見方を語り、その中に隠された謎を解き明かします。
内容(「MARC」データベースより)
ベラスケス、ゴヤなど超一級の収蔵品を誇るプラド美術館。画家・藪野健が、描かれた場所、時代背景、構図に秘められたメッセージなど、78枚の名画に隠れた謎を解き、その見方・愉しみ方を伝える。
出版社からのコメント
著者の藪野さんは、プラド美術館を見たことで人生が変わったひとりです。マドリードの建築学校に進む予定が、プラドの作品に魅せられてサンフェルナンド美術学校に留学先を急遽変更。そして画家になります。そんな藪野さんがプラドを再訪し、新たな目で作品を吟味し、そして作品を模写して作品の魅力を語ります。画家ならではの見方を存分にお楽しみください。そして、読み終わったときには、きっと新たな絵画の魅力を発見していると思います。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
薮野 健
1943年名古屋生まれ。画家。二紀会理事。早稲田大学芸術学校教授。早稲田大学大学院文学研究科美術史修了。1970~71年、マドリード・サン・フェルナンド美術学校プロフェソラードで学ぶ。安井賞展佳作賞、二紀展文部大臣賞などを受賞。武蔵野美術大学教授を経て現職(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
YOMIURI ONLINEより ▼
芸術とは生きるための装置
藪野健著『プラド美術館―名画に隠れた謎を解く!』(中央公論新社、2006年)
プラド美術館を「自分の人生を変えた場所」という藪野教授が、数々の名画を自ら模写しながら、その時代背景、登場人物、構図、技法、隠されたテーマなど“7つの謎”を考察。
スペインでは、プラド美術館でベラスケスやゴヤをはじめ、膨大な量の絵画作品を見て、根底から考え方の違うものに出会ったという衝撃がありました。他の国ではあまり見られないような、暗さと重々しさに満ちていて、宗教的な知識がないと読み解けないような難解な図像とか、サイズの巨大さなどで、なにかこう見る者に格闘技を挑んでくるような、圧倒的な存在感がある。しかも極めて高いテクニックがあって揺るぎがない。このスペイン絵画の力は凄いと思いました。
例えば、ゴヤの「黒い絵」と呼ばれる14点のシリーズは、ゴヤが死に際で描いたもので、「我が子を食らうサトゥルヌス」をはじめ、地獄絵と言ってもいいようなおどろおどろしい作品が並んでいます。70歳を超えて病床に就いたゴヤは、もう今日死ぬか明日死ぬかと言われていたのに、やおら筆を手にして、当時住んでいた家の壁に這うように描き始めたと思ったら、それから3年ほどもかけて家中の壁に大作を書きまくったんですね。描くにしたがって、食欲がもりもり出てきて、肉をがつがつ食べて、ワインもがんがん飲んで、凄いエネルギーを取り戻したらしいです。
これらの作品を見て、まさに「ものを創り出すとういことは、生命を生かすための装置だ」ということをゴヤが体現したのだと思いました。当時のスペインは、ナポレオン侵攻と悲惨な内乱を経験し、「生き死に」の残酷な現実を直視させられて、それがこうした作品へ表現されていったのではないかと思います。
スペイン絵画に魅せられる一方で、スペインの都市にも関心がそそられました。スペインの街並みは内乱でかなり破壊されて、マドリードなんかも壊滅的な状態だったんですね。それを莫大な資金を投じて、戦前の街並みを徹底的に復興することを目指してきた。このエネルギーと情熱には驚愕しました。都市が好きで、スペインへ行く前も東京の街並みをぐるぐる歩き回ったりしていたんですが、マドリードの都市再生への取り組みを見て、「日本はいまだバラックのまま、戦争で壊された街の上にただ都市を造り続けているだけだな」と思いました。でも、じつはそれがきっかけで、帰国してからさらに東京や地方都市の街を歩き回るようになり、逆に日本の都市の中にも、素晴らしい街並みがたくさん残っていることに気づくようになったんです(笑)