日常

プロレスラー小橋健太

2013-05-12 10:06:05 | 
プロレスラーの小橋健太が引退した。

自分は、全ての哲学のエッセンスは漫画とプロレスから学んだと、今でも思っている。
たいていの人生哲学も深遠な哲学も、すべてそこに詰まっていると、今でも思っている。



プロレスラーでは小橋が一番好きだ。
もちろん、猪木も馬場も鶴田も三沢も川田も橋本も前田も長州も藤波も永田も・・・・好き。
自分の小中高は毎週プロレスの歩みと共にあった。






プロレスを楽しめない人は、読書で言うと小説やSFやファンタジーが楽しめない人だと思う。ノンフィクションこそが「客観的な事実」だと思う人は、小説やSFが読めない。プロレスを素直に楽しめない。

「科学」こそが「客観的な事実」だと思う人が、超常現象やスピリチュアルやUFOや神や仏を信じれないことと似ている。


「現実」は層構造になっている。そこは平面的ではなく、立体的なものだ。そして、常に何かしらの「視点」が含まれている。


自分をプロレス好きであると知って
「プロレスなんて八尾長なんでしょ。」
と言う言葉を、悪気なく、特には悪意を持って言われることが何度もあった。いつも、返答に困っていた。

そういう人は、おそらく「創作物」や「つくりもの」に対する見方が違うし、その言葉に対する感性自体が違う。
それは、人間を見るときにも、人生を見るときにも、通じる問題だ。
どんなものにも立体的な深さがある。時には3次元だけではなく4次元にも5次元にも・・多次元に広がる。



本での「ノンフィクション」というジャンルでさえ、作者の視点から逃げることはできない。
どんなに「客観的」と思われるデータを並びたて、「いろんな視点」の証言者を立体的に並べようとも、それは書き手が書いた「創作物」。「つくりもの」という点では濃淡があるだけだろう。

たしかに、小説やファンタジーでも、いかにも作者の頭でこしらえた作品は、全く面白くない。それは考えなくても、読めばわかる。

そういうことは、プロレスでも格闘技でも芝居でも・・・あらゆる芸術作品は全て同じだろう。
誰かのシナリオを機械的に自動的になぞっただけの作品に、感動があるはずもない。

本当に素晴らしい物語は、ある程度の「流れ」は事前に存在しつつも、登場人物がそれを越えていくことにこそ、ある。




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村上春樹「1Q84」より

It's Only A Paper Moon

Without your love
It's a honky-tonk parade

Without your love
It's a melody played in a penny arcade

It's a Barnum and Bailey world
Just as phony as it can be

But it wouldn't be make-believe
If you believed in me


君の愛がなければ
それはただの安物芝居に過ぎない

ここは見世物の世界
何から何までつくりもの

でも私を信じてくれたなら
全てが本物になる
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It's Onlly A Paper Moon/Nat King Cole
Ella Fitzgerald & Delta Rhythm Boys - It's Only A Paper Moon 1945
Miles Davis Sextet 1951 ~ It's Only A Paper Moon
Paper Moon 訳詞付 - Natalie Cole




それは、人間の人生も同じだろう。
僕らが先天的に与えられたもの。それは顔、身長、生まれ、家系、特質、にんげん。そういうものは変えられない。それを人は「宿命」と呼ぶ。「宿った命」。
その宿命の与えらた制限の中で、僕らは自由意志を持って人生を瞬間瞬間的に創造していく。そこは後天的に変えられる。「運ぶ命」と書いて、「運命」と呼ぶ。

人間は宿命と運命との二枚重ねで透かし絵のような人生を生きている。
変えられない大きな流れに従いながらも、変えられる自分の役目を果たしていく。


完全に宿命に委ねると人生は面白くなく、運命に酔って宿命を無視するのもうまくいかない。



誰もが「信念」や「偏見」を持ち、それに基づき人生を経験する。そして、人生を「つくりあげていく」。
そこが安物芝居になるか真実になるか、そこには確かに深い問題をはらんでいる。




すべての創作物は同じ。そのバランスや配合に妙がある。

いいプロレスは、そうして選手と観客とが、瞬間瞬間に創造していくものなのだ。
選手だけではなく、見ているものも同時に作り手となり、創造主となる。
それがプロレスの魅力なのだ。
そこに観客は人生の縮図を見て、人生を投影し、生きること、与えられた命の燃焼、そのこと自体に感動する。
生きていてありがとう、生かしていただきありがとう、という気持ちになる。



小橋健太は、全ての人間の奥底で密やかに燃焼する生命エネルギーを、常に感じさせてくれるレスラーだった。だから大好きだった。
小橋のプロレスを見るたびに自分は感動し、昨日も明日も忘れて「今」に集中して、我を忘れた。忘我。







小橋健太が引退するというのは少しさびしい。
でも、プロレスファンなら、誰もが喜びを持って引退の報告を聞いたはずだ。

死が人生の終わりではないように、引退も終わりではない。

死が終わりと考えている人には、引退は終わりのように思えるし、
人生や人間をくだらないと考えている人には、プロレスは「八百長」と思える。


大げさな話ではなく、プロレスを楽しめるかは人生観や人間観の問題に行きつく。

もちろん、自分はすべてのプロレスの試合を無批判に称賛しているわけではない。
小橋健太をはじめとした一流のプロレスラーの試合には、人間観や人生観を感じるほど、深く広いものが内蔵されていて、だからこそ人々は熱狂し、思わず涙を流すのだ、ということを言いたかっただけなのです。そして、そういうことを僕らプロレス好きは、プロレスそのものから学ぶのです。
いいプロレスは教師として、よくないプロレスも反面教師として、学ぶのです。



小橋健太からは色んな元気や感動や夢をもらった。ありがとう。

自分も何かしら社会に還元していきたいと、思っている。
受け取る側だけではなく、与える側に、誰もがなれるはずだ。




■動画

1996/10/18 小橋VS川田
1997大阪府立 小橋VS三沢 三冠戦
1998.6.12 三冠戦 小橋VS川田
1999.6.11 小橋VS三沢 三冠戦
2003年ベストバウト 三沢光晴 vs 小橋建太 他
小橋建太 引退記念ベストバウト

6 コメント

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だからプロレスが好きなんだ (有樹)
2013-05-13 10:32:26
なぜ自分がプロレスが好きなのか、この記事でわかったような気がします。ありがとうございます。
 
 
小橋は誰に対しても敬意をもって、真摯に、ありのままの姿で戦うレスラーでしたよね!
奥底で密やかに燃焼する生命エネルギー・・・まったくそのとおり!
 
自分自身をも 「技」そのものをもまったく飾らず、派手なパフォーマンスもせず、多くを語らず・・・・・完全にその試合スタイルだけで観客を魅了するレスラーというのも そういえばなかなかいないよなあと改めて思いました。 
1998~9年あたり、特にいいですね。
一見地味な技の応酬なのに、あのエネルギー!
 
そういえば人気レスラーには独特のコスチュームやら、魅せることにも重点を置いた技やら、自分を飾る名言やら、何かしら代名詞みたいなものがありますけど、小橋にはそういうものがほぼない。(青春の握りこぶしもありますけど、そもそもキャッチーさを意識したパフォーマンスではなかったですもんね)

でも何も無いからこそ浮きだつ彼の生き様、戦うスタイルそのものが人を引きつけていたなと。 彼の純粋なまっすぐさに 女性は特に惹かれます♪ 

ひとつだけ心配なのは彼の今後・・・。
あまりおしゃべりが得意でない小橋が 今後どんな人生を選択をしていくのか・・・
勝手な思いですが バラエティとかあんまり出てほしくないんですよね・・・ 
 
確かに私も友人からよく「プロレスって八百長でしょ?」「K-1のほうがほんとの格闘技だ」とか言われてました。。。
  
プロレスの根底にあるのは「受ける美学」。これこそが醍醐味。この理解を体感しているかどうか。それをわからず、1年の半分以上も全国を縦断しながら 体を張ってロマンを伝えてくれる彼らを 「八百長」という軽い一言で片づけないで欲しいと思っていました。
  
とはいえ、私も究極のショーマンシップだとは思っています。
 
でも!
たとえシナリオがあったとしても、あれだけ身体を張った深い人間ドラマは他にないし、たとえシナリオがあったとしても シナリオどおりに演じるために あそこまで身体を張れないわけで。観客を喜ばせようとか思えないわけで。あの赤く流れる血は本物で、青く腫れ上がったチョップのあとも本当で。それだけでも尊敬に値すると思うのです。
  
どうしてシルクドソレイユには感動するのに、シンプルなリングで表現するのみ!のプロレスは八百長で片付けるのだろう?私には人間の肉体と精神の限界をさまよいながら表現をしているという、同じ系統に思えるのです。(極論すぎるでしょうか)
  
それにプロレスといってもひとつじゃない。
ヘビー級ファイターの戦いで会場に響き渡る技の重低音、ジュニアの熱く初々しくまっすぐなエネルギー、女子の華麗かつ”男子よりもえげつない”技の応酬、笑点的なおきまりの笑いでの会場の一体感、グラウンド・関節技の試合での張り詰めた静けさ、”プライドのぶつかり合い”異種格闘技、人間か?鳥か?ルチャリブレ、完璧なエンタテイメントであるアメリカンプロレス、、、 
 
必ず自分の魂と共鳴する試合が見出せますよね、プロレスって。
 
いくつも熱狂的なコンサートに行ってますが、観客の地団駄で武道館が揺れるのを体験したのは、プロレス以外でありえませんでした。あのとき会場を包んだ「気」は、自分が自分でなくなるような、世界が変わる瞬間に立ち会っているぐらいの感覚がありました。ちょっとした病気なら治ってしまいそうでしたよ。
  
団体が分裂しすぎて、夢のカードがなかなか見られなくなったのは痛手ですが・・・
  
ちなみに私が一番好きなのは入場シーンです。
新日との対抗戦@東京ドームでの三沢の入場シーンは今見ても震えがきます~(;;)
 
あああ すいません。つい長くなってしまいました。
稲葉さんにお会いして、過去のプロレス熱が再燃しています(笑)
  
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プロレスへの深い愛 (いなば)
2013-05-14 20:37:43
>>>>有樹さん
そうです。小橋は常に敬意をもって真っ直ぐに戦ってましたよね。相手がラフファイターのときも、小橋の気迫に押されて、そのラフファイターも変なことは絶対にさせないオーラがあった。たとえば、花束をぶつけたり、いきなり乱入してなぐったり・・・そういうのをさせないオーラがあった。相手の卑怯な思いを消し去る力は、一流の格闘家(武術家)だけが持ちうるオーラなのかな、と思ってました。

プロレスの「受ける美学」。これをわかってくれない人が多いんですよね。
相手のわざを受けて、受けて、受け続ける・・・それでも仁王たちをして相手にたちふさがる。相手の必殺技もすべて受けて、そのうえで相手を倒す。
これは橋本がとてもうまかったと思います。それは、言うなればダイアログ(対話)なんですよね。相手が語りかけてくる言葉を否定するでもなく肯定するでもなく、とにかく全てを受ける。これは対話の基本です。完全にこちらが意志や意図を捨てて聞き切るというのは聞くプロにしかできない芸当ですが、それを肉体で見せてくれるのがプロレスラーなんですよね。それは相手の敬意。相手をぶっ潰すんじゃなくて、相手のいいところを引き出せる。それは相手のレスラーの成長を促すものです。 これは、人間関係でも同じ。プロレスを愛せない人は、おそらくそういう対話の相手と出会ったことがないのではないか、と誇大妄想さえしてしまうほどです。

プロレスは筋書なきドラマ。シナリオは観客全員と選手とが描くのですが、時にそれを超えていくことがあるのですね。それは、三沢が最初に鶴田にフェースロックで勝ったときであったり、前田が長州の顔面を蹴ったりしたときであったり。そういうハプニングを経て、またプロレスという巨大な神話は動いてゆくのです!!
あらら、自分も興奮してきた・・・笑

有樹さんの『ヘビー級ファイターの戦いで会場に響き渡る技の重低音、ジュニアの熱く初々しくまっすぐなエネルギー、女子の華麗かつ”男子よりもえげつない”技の応酬、笑点的なおきまりの笑いでの会場の一体感、グラウンド・関節技の試合での張り詰めた静けさ、”プライドのぶつかり合い”異種格闘技、人間か?鳥か?ルチャリブレ、完璧なエンタテイメントであるアメリカンプロレス、、、 』このあたりなんて、まるで週刊プロレスか週刊ゴングのような熱い記事!すごい!編集部にスカウトされそう!

自分の魂との共鳴なんですよね。
肉体と肉体をぶつけあうという不器用な戦いに、人間の不器用さやどうしようもなさをみて、またそこに美しさを見る。人間ドラマや人生ドラマの縮図を見る! レスラーの成長を見ながら、自分も鼓舞される。共に成長していく共鳴スポーツなのです!

地団駄で武道館が揺れるのは、本当にすごいですよね!全日本プロレスの名物だった。自分も参加しました。あのとき、武道館も一つの生き物のようにうごめき共鳴していました。すごいなー。本当にすごい。

団体が分裂しすぎたのは痛いですよね。
猪木、馬場、前田、大仁田、くらいの4種類にとどめてほしかった・・・・。
まあ、そうした専門分化は社会全体の流れと呼応してしまっていることもあるので、僕らも専門分野で分離していくのではなく、自分の所属している世界ではなるべく統合の方向に向かうべきだろうと感じています。

入場シーン、テーマ曲がいいですよね。僕はやはりスタンハンセンの入場が好きでしたー。大学生時代の着信はハンセンの入場曲にしてましたし。

新日との対抗戦@東京ドームでの三沢の入場シーンはかっこよかったですよね。あの何とも言えない三沢の表情はすごかった。対抗戦は、なんだか全員が少し浮き足立って興奮しているのが分かって(もちろん見ている自分も!)、それも含めて奇妙な感覚に襲われたのを覚えています。


東京に出てきて、闘魂SHOPとかでプロレスグッズ買ったときはうれしかったなー。今も水道橋にあります。 東京出てきてよかった!と思いましたもの。当時から、少しずつお洒落なTシャツとか出てきたんですよね。僕はブロディのTシャツを愛して着ていました。笑
下北沢の<バンバンビガロ>っていう名前の店でも良く買いました。今はつぶれてしまったみたい。
そういえば、<リングの魂>っていうテレビ番組もありましたよねー。なんちゃん(南原清隆)もすごくプロレス好きで。格闘コロシアムとかSRSとかもあった。
タレントだと、勝俣州和 、浅草キッド、大槻ケンヂ、関根勤、ケンドーコバヤシ、くりぃむしちゅー有田、東野、バッファロー五郎、リットン調査隊・・・とかも本当にプロレス好きですよね。
B´zの稲葉さんもプロレス好きで、『ギリギリChop』って曲は名「馬場さんの死に哀悼を込めてタイトルをつけた」と聞いたたことがあります。


雨上がり決死隊のアメトークで、プロレス芸人がよくあるのは、プロデューサーのワールドプロレスリングやリングの魂を担当していたからみたいですよ。新日本プロレスの「ワールドプロレスリング」もテレビ朝日ですしね。


Youtubeでプロレス動画見てると、仕事が手につかないので、危ない・・・笑
(このあたりのワードでyoutubeで検索してみてください。燃え(萌え)ますよ。)
・前田日明vs.高田延彦 1986 Japan
・前田明 vs アンドレ・ザ・ジャイアント (1983.5.13 大宮)
・初代タイガーマスク デビュー戦 vsダイナマイト・キッド
・新日本プロレス列伝 その2 :長州 力.
・猪木VS長州 蔵前国技館 PART3
・新日本vsUインター
・・・・・見ていると、涙・涙・・・

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小橋引退。 (鈴木 千里)
2013-05-29 18:02:42
このブログで小橋引退を知りました。
泣ける歌というテレビ番組で同選手を初めて知り
腎臓ガンからの復帰の場面が強く目に焼き付いています。「小橋が勝ちました!腎臓ガンに勝ちました!」
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ローリング袈裟斬りチョップ (いなば)
2013-05-29 19:05:35
>>鈴木さま
コメント有難うございます。
プロレスは全て好きです。いろんな人からなんと言われようと、プロレスに勝るものは、自分の青春にはなかった、と言えるほどです・・・(K1やPRIDEもみましたが、自分の中でプロレスの熱狂はなかったなぁ。)

とにかく、小橋は腎臓癌のあと、右腕の尺骨神経麻痺と両肘関節遊離体も手術してましたよね。
手術の度に復活する小橋、しかもその鍛え上げられ維持された筋肉はすごいものでした。


小細工しない技の応酬。ひたすら技を受け続ける姿は、橋本真也と似てるなぁと思ってました。
マシンガンチョップ、逆水平チョップ、ローリング袈裟斬りチョップ、剛腕ラリアット、・・・青春の一撃。懐かしい思い出です。

三沢も川田も、常に三冠戦は名勝負になったもので。

ただ、三沢も鶴田も橋本も他界してしまったので、小橋が生きてるだけでも、うれしいことです。ものすごい試合をしていたので、いつもひやひやしてました・・・。
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自己紹介 (鈴木 千里)
2013-05-29 22:45:56
申し遅れましたが私は矢作先生のFBからこちらに来ました。
名古屋在住の51歳男性です。

たまにコメントさせていただきます。

以後よろしくお願いいたします。

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Y先生 (いなば)
2013-06-01 22:53:31
>鈴木さま
そうなんですね。自分はFacebookをやってないものでよくわからないのですが、矢作先生のところにこのブログのサイトが書いてあるとか、そういうことでしょうか?自分にはFacebookは情報量が多すぎて、やってないもので。 かなり以前に、一瞬だけ登録してみたら、すごい数の友達神性が雪だるま式に膨れ上がり、そこで選別したりすることも面倒になってしまい、自分のキャパオーバーを感じて完全にやらなくなってしまいました。Twitterも同じです。ブログの方が、自分が好きなことを文字数かけずに樹が済むままかけるので気が楽です。
矢作先生も、Facebookされてるとは意外です。結構コメントも書かれているとか・・。
矢作先生の本は、出版前になるべく自分も目を通して、ここは書き過ぎなのでは、、誤解されるのでは、、と言うところは自分なりの親切心でコメントしてます。出版される少し前に生原稿を読めるのは、役得のような気もします。。。

いつも自分の気が済むまで書いているのでえらく長くなることありますが、半分自分の備忘録としても使っていたりします。
今後ともよろしくお願いします。
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