うさとmother-pearl

目指せ道楽三昧高等遊民的日常

運命の恋

2006年11月13日 | お出かけ
11月、秋たけなわのお出かけは、名古屋市則武にある、トヨタの産業技術記念館。自動織機や、車の製造工程や、ロボット展や、お子達も一杯、家族連れ、ドこぞの企業のおじさんの研修旅行の団体。外国の方。賑わっておりました。子どもの頃から文系で、機械やらには興味がなかった私。機械って、煮物ばかしが詰まって全体に茶色いお弁当のようだと思ってた。それに比べて、お話やら歴史やらは、だし巻きの黄色、ブロッコリーの緑、トマトの赤、エビフライの黄金色、とにかく色とりどりで楽しそうって思ってた。しかし、大人になって「機械」を見ると、結構エキサイティング。最新の自動織機はまるで和太鼓集団のようにリズムを刻みながらお仕事をする。ロボットは心を持っているように、働いている。たっぷり時間をかけて見ても飽きない。私の頃の大学受験は、文系でも盛りだくさんの理系科目の記述入試があり、そのおかげで、否応なく理系科目のリテラシーは育てられた。昨今の受験は少子化の影響もあり、入試科目が減らされていたり、文系にとっての理系(理系にとっての文系)はマークシートとなってしまっている。大学入試の時期に、自分の専門の対岸にある科目を、きちんと勉強しないことのデメリットは大きい。日本は、マークシートの導入に伴い、そういう育て方をしてしまっているのかもしれない。本当に高度に専門化された研究をするには、真逆の発想、文系における理系的発想、理系における文系的発想が不可欠であるのに。それができない人を日本の教育は何年もかけて作り上げているということかもしれない。大学受験が人生最大の通過儀礼であるという日本のシステムにおいて、その罪過は深いなあ、とレンガ作りの展示館を見ながら考えた。

まだ、日暮れには時間があったので、急いで川上貞奴が福澤桃介と住んだ二葉御殿へと向かった。二葉御殿は数年前までその崩落が危惧されていたのだけれど、市の改修によって、きれいに保存されていた。「お大尽御殿探検隊(いつから?)」の私にとっては、ちょっと美しくなりすぎていて、もっと古いままで改修して欲しかったなって思ったのだけれど。
ステンドグラスの花、紅葉、女神。
往時の女性には珍しく、花のように口をあけて笑う美しい貞奴。そうして「人たらし」であっただろうと思わせる桃介の美丈夫ぶりの幾枚もの写真。ここは名古屋産業界のサロンであった。貞奴と桃介は若い頃出会い、お互い違う相手と結婚をした。貞奴は川上音二郎と結婚し、欧州で女優としての名声を轟かせた。桃介は福澤諭吉に見込まれその娘の養子となり、株投資で成功、電力王と呼ばれるまでになった。そうして、壮年となった二人はここに共に住んだ。彼らにとって、お互いは運命の恋人であったのだろう。しかし、貞奴は音二郎と結婚し欧州に渡っていなければ、一介の人気芸妓で終わっていたかもしれない。桃介も諭吉に見出されて婿になっていなければ、郷里に帰って病弱な教師にでもなっていたかもしれない。お互い違う相手と結婚したことにより、名をあげ、それ故に再会できたのかもしれない。それを経なければ、一緒になれぬ二人のえにしというものもある。それも運命の皮肉ということである。また出会うために、他者との結婚が必要であった二人。稀代の女優と稀代の電力王は、その運命の力で、最も人生の充実した時をここで過ごしたのだろう。

そうして私はあの青年を、いや、少年とも青年とも区別できぬあの頃の彼を思い出している。思い出は、多くはない幾本かの糸となり、その糸を私は縦にし、横にし織っている。時にあの時の彼の面影がふと形をなし、また消えてしまう。ちょっとだけ私に笑ってみせる。もうとうに青年ではなくなった彼の顔と重なったり、離れたりしながら。
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10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
白壁セレブ (けんちゃん)
2006-11-14 00:48:33
いかにも楽しそうだった声色うさと。
茶色だった理系が複数の彩と変化したのだろうか。逆もまた真なり。その逆の歩みをした私は文系が茶色だった。というか色が多すぎて絵の具を全てパレットに出し混ぜ合わせた色をしていた。
その点では答えがひとつな理系はその時々に鮮烈な色を放ち毎度驚かせられ目を輝かせてくれた。
でも結論はうさと論の通りだと思う。受験のために理系文系に分けただけであって興味のある科目の偏りで決めていた気がする。歴史・政治経済に興味が無かった私も地理は好きだったし、恋愛下手だったことで心理学や愛について興味を持つようになった。今でも苦手なことに変わりは無い様であるが・・・

話は替わって、双葉御殿か二葉御殿?近所に金城学院高校、美宝堂がある華やかなこの一帯白壁スクエアーを散策してみたくなった。今までであった数少ないこの地のお大尽は一様にゆとりを感じ別世界に住む人種であった。歴史的に観てもその人格形成に頷ける地域なんだなあと興味がもてました。ありがとううさとさん。
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二葉御殿 (家主うさと)
2006-11-14 09:51:10
けんちゃん
直したつもりだったんだけれど、残っててごめん。正しくは二葉御殿です。今回は時間が足りなくって二葉御殿だけしか見られなかったんだけど、周りには豊田佐吉さん宅とか,歴史的な邸宅がたくさん。今度はそちらにも行きたいと思っています
>答えがひとつな理系はその時々に鮮烈な色を放ち
なるほど、その通り。
若いうちはそんな自分の感覚に、偏った志向を持ってしまうけれど、時がたつとそういうものから自由になれる。だから時がたち、年をとっていくっておもしろい。だからこそ、時がたったとき、そこから自由になれるように、さまざまな素養を若いうちに準備しておくことはとても大切だなって思う。
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期待外れ (matsubara)
2006-11-18 10:13:13
二葉御殿は、今年、私もうさとさんと同じ写真をupしてblogに書き込んでいたと思います。
時間があったので、豊田佐吉さん宅や、長屋門も見ましたが、ちょっと期待外れ・・・
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市制資料館 (家主うさと)
2006-11-20 02:22:09
matsubaraさま
そうですね、「二葉御殿」って名前が、本当にふくらんじゃいますものね。
名古屋市資料館、はいかがでしょう。今度行ってみようと思っています。やっぱ、期待を持たずに行くべきでしょうか
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Re資料館 (matsubara)
2006-12-01 21:00:16
返信するのに10日もかかりごめんなさい。
名古屋市資料館は、以前「ウィルあいち」へ行ったついでに寄りました。建物はblogのどこかにupしていると思います。建物が重要文化財なので、写真撮影し、中も見ましたが、充実していたと思います。
岐阜とはスケールが違います。高等裁判所も日本で6つしかなかったのですが、そのひとつも名古屋ですし・・・
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通り過ぎ (家主うさと)
2006-12-02 22:07:54
matsubara様
今日は名古屋に行ったので、市制資料館も行こうと思っておりましたが、風邪を引いてしまい、後ろ髪を引かれながら帰りました。私もウィルあいちは行ったことがあります。藤原晋也さんの講演でした。でも資料館に気づかなかったんですよ。興味がないってそんなものです。今日はUFJの資料館の前を通ったんで、写真とってきました。
今度は、必ず行ってこようと思います。中村日赤の古い建物も。
歌集、頂戴しました。こんなところでお礼を言うという不義理を、どうぞお許しください。
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UFJ (matsubara)
2006-12-05 21:40:07
名古屋へ行ったついでにUFJ資料館に寄りました。もう一ヶ所寄る予定は取りやめました。中味が充実していてここで時間がタイムオーバー・・・
東京の日銀の資料館と負けず劣らずの内容でした。
東海銀行時代からの蓄積があったからとか・・・
歌集はまた来年も載せたくて・・・また見せて下さい。
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通貨資料館 (家主うさと)
2006-12-06 16:41:14
matsubara様
資料館は確か、銀行の営業日しかやってないんですよね。ウィークデイに行くのはなかなか難しいんですが、今度は中まで入ってみようと思います。
浮世絵もあるようですね。
「歌」最近作っていません。matsubara様のお言葉を大変うれしく思いました。また、見てください。
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浮世絵 (matsubara)
2006-12-06 22:32:31
本当は別の目的で名古屋に出たのですが、UFJの方が凄かったです。Kさんには申し訳なくて先に今日upしました。
浮世絵も充実していて、版木の展示もあり、何よりも嬉しかったのは、撮影自由であること。
テーマが変わったらまた行きたいところです。
お歌の作品またお待ちしています。
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そんなにも (家主うさと)
2006-12-07 10:22:08
それはそれは、ぜひ行かなければ。しかも無料ですものね。わたしは建物が見たいと思っているんですが、撮影自由ってうれしいですね。アップ楽しみにしています。
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