うさとmother-pearl

目指せ道楽三昧高等遊民的日常

はじめての雪(1)

2005年05月25日 | 語る!
ちょっと、創作なんかしてみました。連載全3回です。


「ねぇ、みっちゃん、今年の初雪はね、来週の土曜日に降るんだって。ちゃんと気をつけてね。」母は布団の中で、固く両手を組んだまま、天井を見つめながらつぶやいた。いつ瞬きをするんだろうと思わせるほど、視線が動かない。私に話しているはずなのに、私が聞いているかなど全く関係のないような一言である。私はこれを、「ご託宣」と呼んでいる。
 母の「ご託宣」は、予期せぬときに、予期せぬ事柄について、降りてくる。「このあたりに空き巣がいるから、うちの電気は全部つけたままにしてね。」「今日の信号がどこでも青なのは、早く家に着くように神様がしてくださるからなのよ。」「テレビで、今日は新しくなる日だと言っていたから、古い服は全部捨てておいてね。」「私が外に出られないのは、私を汚そうとする悪い人が狙っているからなのよ。」
 残念ながら私には、空き巣のうわさも、テレビの忠告も、信号が教える神様のメッセージもわからない。ただ、電気をつけたまま眠り、古い洋服をこっそりと押入れに隠し、外出しない理由を母に問い正さぬだけである。
「ご託宣」を聞くようになってから、母は子供のように私に甘えるようになった。
「ねぇ、みっちゃん。お母さん、りんごの皮のむき方がよくわからなくなってしまったから、みっちゃん、やってくれないかなぁ。」昨日の母は、亀甲に切ったしいたけだけが五つも詰まった、おかしな茶碗蒸しを作っていた。りんごがむけぬはずはないのだ。そう思いながらも皮をむいて四つに切ると、「大きすぎて食べにくいから、もっと小さくしてくれないかな。」「昨日から腕が痛いから、食べさせてくれないかなぁ。」とお願いは増えていく。
「りんごぐらい、一人でむけるでしょ。」とでも言おうものなら、「そうよね。みっちゃんはお母さんなんて、もう要らないんだもんね。大人になったから、邪魔なんだもんね。お母さんの言うことは面倒なんだもんね。昔からずっと、みっちゃんはお母さんのこと嫌いだったんだよね。」と、泣くのだ。、泣きじゃくる母の求めるままに添い寝をし、私は母の髪をなでて眠った。母は誰に抱かれて眠っているのだろうと考えながら。

はじめての雪(2)に続きます。
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4 コメント

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うさとさん おはよう♪ (らくパパ)
2005-05-26 06:37:43
創作小説・・いいですね!

みっちゃんのおかあさんは、いろいろなことを教えてくれそうですね。

次回はどんなことを教えてくれるのか、興味深々です。



わたしも、小説をブログで書くのが夢なのだ。(先越されちゃった:笑)

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らくパパも (うさと)
2005-05-26 14:57:31
お読みいただきありがとうございました。らくパパの小説も読みたいですよ。シリアル?コメディ?幼稚園児にもスラムダンクにも新撰組にもなれちゃうんだから、想像がつかない!
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こんにちは (happy field)
2005-06-15 11:05:47
先ほどはコメント&TBありがとうございました。



とても魅力的ですね。

続きをすんなり、読みたいという気持ちになりました。

今後ともよろしくです。^^
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happyさま (うさと)
2005-06-15 20:25:09
happy様、早速コメントいただきありがとうございました。こちらこそよろしくです。また、happyさんの素敵なブログ、時々お邪魔させていただきますね。情報満載で、かつかわいくっておしゃれですものね。
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