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うさとmother-pearl

目指せ道楽三昧高等遊民的日常

たたかう花ー中川幸夫

2005年09月21日 | 語る!
私は、闘う人が好きだ。真っ直ぐに求め、求めることと闘う人が好きだ。
中川幸夫。彼を知ったのは、ずいぶん前の早坂暁の本の中だった。
四国の遍路道の近くにある百貨店の家族を描いた「花へんろ」というドラマを書いた早坂暁という脚本家が好きで、小説も含め、彼の著書の多くを読んでいた時期があった。
「花へんろ」は今思い出しても名作だ。桃井かおり、森本レオなど、豪華な顔ぶれのドラマだった。早坂氏のドラマでは、「夢千代日記」が有名だが、私は「花へんろ」が好きだ。早坂氏は、多くの秀作といえる小説を書いており、そちらも紹介したいのだが、中川氏を知ったのは、「華日記」という、華道界を書いたノンフィクションでだった。
中川氏は、家元制に疑問を抱き流派から離れ、会派に属さず、花をいけ続けた人だ。脊椎カリエスにより不自由な体を押して、生ける花は、生と死が、美と醜が、せめぎ合いながら、闘いながら、手を取り合いながら共存している。
爛熟した幾千幾万の花びらから流れる血の花汁。噎せ返る花の命。または、床の間に一輪だけ取り残された清冽な侘び助。上半身だけで踊る高齢の舞踏家に天上から降り注ぐ何十万という花。潔く、匂いたち、生きながら死に、動かぬものの内の鼓動を挿し。花と闘い、美と闘い、花と戯れ、美にひれ伏し、すっくりと花と向かい合い、美を指でたどり。

数年前、岐阜県が主催する「織部賞」の授賞式で、私は中川幸夫氏に会った。彼に会うために私は授賞式に行った。彼はサインを求める私に、はにかんでいた。隣に座っていたカメラマンのアラーキー氏が「先生、人気者ですね、して差し上げなさいよ」と言ってくれて、ゆっくりと「花」と書いてくださった。花のように見ても見ても飽きぬ字だった。だれが教えるわけでもないのに、時がくれば咲いていく花のように、揺るぎのない美しい字だった。人知れずとも咲く野辺の花のように、強く、やさしい目を持つ人だ。
たたかう心の、その先に生まれる、きっぱりと美しい花。この世の全てがそこにあり、この世ならぬ花がそこに咲いている。

中川幸夫事務所
コメント (6)
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