マーガレット・ミッチェル作 荒このみ訳 「風と共に去りぬ」あらすじ38
第4部第34章
翌朝、雨は止み強い風が吹いていた。スカーレットは雨が止んだことに感謝した。ピティおばさんがマミーとピーターを連れて家を出ると、ベッドから飛び出し新しいドレスを取り出した。男の人と機知を試して争うのだという予感が、スカーレットを発奮させた。
モスグリーンのドレスは何よりも豪華で、恰好よく、品格があった。タラから持って来たダイヤのイヤリングをつけ、顔をひょいとあげてその効果を試してみた。すっかり荒れた手をおばさんのマフで隠した。これで完璧に優雅さを装える。レットに疑われないこと、それが重要課題だ。
消防署の前にはヤンキーの歩哨兵がいた。レットはあそこにいる。私はヤンキーをひとり殺すくらいの勇気があったのよ。ヤンキーの話しかけるくらいで、怯えてなんかいられない。スカーレットは背筋をピンと伸ばして向かって行った。歩哨兵は礼儀正しくスカーレットをレディとして接してくれた。
本部の大尉には妹だと言い、キャプテン・バトラーへの面会を申し出ると。昨日もバトラーの妹が一人来たという。ベル・ワトリングだろうか。自分もその手の女だと思われているのが、耐えがたかった。でもバトラーは昨日のレディの面会は断ったそうだ。
スカーレットが自分の名前を告げると、しばらくしてレットが現れた。「私の可愛い妹」レットはスカーレットの頬にキスをした。なんというならず者だ、牢屋のぶち込まれても変わっていない。「時別扱いだ」ヤンキーの将校がレットと二人きりにしてくれた。
「アトランタに来て、すぐに会いに来てくれたんですね」
「もちろんですわ。レットとても悲しいわ」
「もう、絶対に許してもらえないと思っていましたから。許してくれたことの証ですね」
「いいえ、許してなんかいませんわ。いい訳も聞きたくありません。あんな風に私を置き去りにするなんて」
「嘘は止めなさい。許してくれていますよ。しかもベルベットの洋服でドレスアップまでして。スカーレットのとてもきれいだ」
ドレスに気がついたのね。スカーレットの爽やかな興奮を覚えた。
「なかなか羽振りがよさそうだし。とても小ぎれいにしている。でも最後に会ってからというもの、何をしていたのですか」
「まあ、私はうまくやっておりますのよ。タラ農園は全てうまく行っておりますの。でも田舎は退屈で、飽き飽きしていましたのよ。パパが楽しんでおいでっていうのですから、それでここにやってきたの」
うまく伝えられた。それほど裕福層でもなく、絶対に貧乏たらしくもなく。
「きみよりも賢く道徳的でもっと優しいレディをたくさん知っているが、どういう訳かきみのことを思い出してしまう」
「まあレット、私のことなど思い出しもしなかったくせに。わざわざ遠くから来たのはそんなことを聞くためじゃないわ。私が来たのは……私が来たのは……なぜって……」
「なぜって?」
「ああ、レット、心配なのよ。この恐ろしい場所から、いつ釈放されるの」
「縛り首になって出ることになるでしょうね。南部連合政府が隠匿した金貨を私が持ち逃げしたとうい噂が、どうもあるようで」
「それは事実なの。あなたのお金の出どころは何処なの。出所のチャンスはないの。あなたが縛り首になったら、私は死んでしまう」
レットはスカーレットの手の平にキスをしようとして、あっと息を呑んだ。
「これはレディの手ではありませんね。本題に入ろうじゃありませんか。きみは私から何を手に入れたい。つまらぬ猿芝居を打って。まるで娼婦のようだ」
「意地悪は止めて。お金がいるのよ。三百ドル。何もかもうまく行っているなんて嘘よ、食べさせてやらない人たちが十三人もいて、飢えと寒さに苦しめられているの。その上渡り政治屋が税金をあげてしまって、支払わなかったら、タラ農園を追い出されてしまうの。
「お願い私を担保に三百ドル貸して」
「そんな高い値のつく女性なんて、ごくまれですよ。農園を放棄してピティおばさんの家に住めばいいじゃないですか」
「タラを手放すなんてとんでもないわ。私を軽べつしたいなら、しなさいよ。でもお金はちょうだい。」
「あげたくても、手元には一銭もない。為替手形を書こうものなら、ヤンキーたちに取り上げられてしまう」
気がつくとスカーレットはレットの腕の中にいた。気絶したようだ。
「もしきみのリストの中に他の男もいれば、助言します。男から何かを得ようとするなら、だしぬけに言ってはいけない。もっと巧みに誘って、上手にやるのです」
「それはありがとう。でも、税金の支払いに間に合わないかもしれませんわ」
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