日報抄
レコードプレーヤーを廃品回収に出したのは何年前だったか。壊れた部品は値の張るものではないが工賃はかなりになる。そこまでして修理しても、使う回数は知れている。そんな決断だった
▼しかし、この訃報に接して後悔した。50代以上の方なら、先日の死亡記事を読み、懐かしい歌声が耳の奥によみがえったのではないだろうか。米国のポピュラー歌手、アンディ・ウイリアムスさんが84歳で亡くなった
▼本棚の上でほこりをかぶった平積みのレコードの中から、1枚が出てきた。映画「ティファニーで朝食を」の主題歌「ムーン・リバー」や、「モア」など往年のヒット曲が入っていた。悔しいことに聴く手だてがない
▼簡単、便利、手軽-が重宝される時代である。若い人は音楽をインターネット配信で楽しむ。盤のほこりを拭き取ったり、針を交換したりと、何かと手間のかかるレコードなど見向きもされなくなったと思っていたら違った
▼国内では、レコードのプレス会社もプレーヤーを作るメーカーも健在だ。電源を入れ、しばらく待たないと音が出ない真空管アンプの人気も根強い。デジタルでは感じられないという音のふくらみを愛好する人々から、熱い支持を受けているらしい
▼ここ数日、ラジオから繰り返し「ムーン・リバー」が流れている。ファンの多さを物語る。同じ名の川が実在するとの話も聞くが定かではない。こよいは十五夜。川面に映る満月に甘い声を重ねて聴きたいものだが、身近に歌詞のような大河もプレーヤーもないのがつらい。
新潟日報2012年9月30日
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