つばさ

平和な日々が楽しい

位置を測る 梵語

2012年09月28日 | Weblog


位置を測る
 大海原にこぎ出せば目印は何もない。古来、人は太陽や星から位置を割り出す航海術を育んだ。絶海の孤島に漁船がたどり着くには、位置を知る航法と海図がいる。今は多くの船舶が米国の人工衛星による全世界測位システム、GPSを利用している▼携帯電話やスマートフォンのGPS機能で現在地を確認することは暮らしに浸透した。ビルの影や山間部で妙な場所を示すこともあるが、GPSは物流や観光でも欠かせない。グーグルとアップルが繰り広げるスマホ市場の覇権争いも、高度な情報を含む電子地図空間の提供が鍵だ▼GPSが示す「世界測地系」の緯度・経度の表示に合わせ、10年前に測量法が改正された。「日本測地系」とのずれで生じる影響が無視できなくなったためだ▼法改正で東経135度の子午線が東へ数百メートルずれた。このため、旧夜久野町役場(福知山市)の前に建つ子午線標柱も、今は子午線上にはない。移設の予定はないそうだ▼明治から測量を重ねてきた日本測地系を捨て、米国が軍事目的で開発したグローバル基準に従ったことは、日本のこの10年の象徴に思える▼領土をめぐり、日本の主張する「基準」が隣国に通じない。地方は都市との格差が広がり世界基準から取り残されたまま。現在位置を見失った日本は、世界の荒波に漂流している。そんな気がしてならない。

[京都新聞 2012年09月28日掲載]

ぼくの絵は兵隊の位になおすと、どのへんですか

2012年09月28日 | Weblog
【産経抄】9月28日
 「ぼくの絵は兵隊の位になおすと、どのへんですか」。「放浪の天才画家」と呼ばれた山下清が、徳川夢声との対談でもらした何げない言葉は、たちまち流行語になった。
 ▼「なぜ、兵隊の位になおすと…って言うの?」。甥(おい)の浩さんがある日尋ねると、こう答えたという。「メンコだな。メンコをやる子供は、何が何に強いというのは、兵隊の位を知らないとだめなんだな」(『家族が語る山下清』並木書房)。
 ▼大人になっても、いや、なってからの方が、「兵隊の位」が大事になってくる。中央大学横浜山手中学の不正入試のニュースを聞いて、再認識した。中学校長のもとに、中央大学理事長から電話がかかったのは、今年2月の入試の最中だった。
 ▼受験して不合格となった、理事長の知人の孫についてだ。理事長は「合格させろ」とは言ってない、と弁解している。校長は「勝手に忖度(そんたく)して」合格させてしまった。どうやら、2人の兵隊の位はだいぶ違うようだ。
 ▼ところが、内部告発で不正合格を知った大学学長が、今度は合格取り消しを求めてきた。やはり位の高い学長の命令には、逆らえない。合格発表から1カ月以上たってから、受験生に取り消しを告げたという。事情を知らない受験生は、制服を注文して、入学を楽しみにしていた。その悲嘆、怒りはいかばかりだったろう。
 ▼「自分の絵をうまいと思う?」。「人間は自分のことってわかんないんだな」。夢声の質問に清が答えている。不正をスクープした朝日新聞によると、大学が開いた記者会見で、理事長の口から「この一つの小さい問題」という言葉が出た。どうやら、「自分のこと」も問題の深刻さもわかっていないようだ。