つばさ

平和な日々が楽しい

ムーン・リバー

2012年09月30日 | Weblog

日報抄

 レコードプレーヤーを廃品回収に出したのは何年前だったか。壊れた部品は値の張るものではないが工賃はかなりになる。そこまでして修理しても、使う回数は知れている。そんな決断だった
▼しかし、この訃報に接して後悔した。50代以上の方なら、先日の死亡記事を読み、懐かしい歌声が耳の奥によみがえったのではないだろうか。米国のポピュラー歌手、アンディ・ウイリアムスさんが84歳で亡くなった
▼本棚の上でほこりをかぶった平積みのレコードの中から、1枚が出てきた。映画「ティファニーで朝食を」の主題歌「ムーン・リバー」や、「モア」など往年のヒット曲が入っていた。悔しいことに聴く手だてがない
▼簡単、便利、手軽-が重宝される時代である。若い人は音楽をインターネット配信で楽しむ。盤のほこりを拭き取ったり、針を交換したりと、何かと手間のかかるレコードなど見向きもされなくなったと思っていたら違った
▼国内では、レコードのプレス会社もプレーヤーを作るメーカーも健在だ。電源を入れ、しばらく待たないと音が出ない真空管アンプの人気も根強い。デジタルでは感じられないという音のふくらみを愛好する人々から、熱い支持を受けているらしい
▼ここ数日、ラジオから繰り返し「ムーン・リバー」が流れている。ファンの多さを物語る。同じ名の川が実在するとの話も聞くが定かではない。こよいは十五夜。川面に映る満月に甘い声を重ねて聴きたいものだが、身近に歌詞のような大河もプレーヤーもないのがつらい。
新潟日報2012年9月30日


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木浦のオモニ(母) 春秋

2012年09月30日 | Weblog

春秋
2012/9/30付
 韓国南西部の港町、木浦市に「木浦のオモニ(母)」と慕われる日本人がいた。夫の遺志を継いで孤児施設を営み、3000人の子どもたちを育てた田内千鶴子さんがその人だ。生誕100周年の10月31日を中心に、両国で記念行事が開かれ、木浦市長も近く来日する。
▼田内さんは朝鮮総督府に勤める父親とともに7歳の時、日本が統治していた朝鮮半島へ渡った。現地で孤児施設の園長と結婚し、太平洋戦争、朝鮮戦争と続く激動の時期に施設を守り続けた。日本人として初の韓国文化勲章を受け、死去した際には市民葬が営まれる。3万人が会場を埋め、「木浦は泣いた」と報じられた。
▼田内さんの功績をたたえる日韓の有志は、10月31日を「世界孤児の日」とするよう国連に働きかけていくという。だが、残念なことにその国連は、日本と中国、韓国が領土をめぐって火花を散らす舞台となったばかりだ。特に中国は総会の演説で尖閣諸島を「日本が盗んだ」と激しく批判し、日中間で反論の応酬が続いた。
▼領土をめぐる対立のあおりで、中韓との交流事業や修学旅行の中止が相次いでいる。田内さんは日本の敗戦直後にわき起こった激しい反日感情のなか、国家や民族を超え、子どもたちを慈しみ育てた。夫婦をしのんだ孤児施設前の記念碑には、日韓両国語が刻まれている。泉下でいま、田内さんは何を思っているだろうか。
http://www.nikkei.com/article/DGXDZO46718770Q2A930C1MM8000/