つばさ

平和な日々が楽しい

▼企業が競争力をつけて賃金を持続的に上げられるようにするためにも、人づくりに目を向けたい

2013年12月19日 | Weblog
春秋
12/17付

 日立製作所は従業員教育を早くから始めた会社の一つだ。明治の末に創業者の小平浪平が、発祥の地である茨城県の日立村に、鋳物づくりや製図などを教える「徒弟養成所」を設けた。鉱山用の電気機械の修理からモノづくりに出ようと、試作を重ねていた頃のことだ。

▼修理の仕事を通じてモーターや変圧器の構造はわかっていても、自前でつくるには技術を一つ一つ身につけなければならなかった。徒弟養成所は2年目以降も生徒を増やし、製品がなかなか売れないなかでも寄宿舎まで建てて教育に力を入れた。その後の会社の成長は、こうした人材育成なしには望めなかったに違いない。

▼新しい仕事を始めるには、そのための知識や技能が必要になる。技術革新が速い今はなおさらだ。ところが気になるデータがある。企業が毎月支出する従業員一人あたりの教育訓練費は1990年代に入って低下傾向にあり、2011年は91年の6割強の水準。新製品、新サービスを生みだす力が落ちてはいないだろうか。

▼企業が競争力をつけて賃金を持続的に上げられるようにするためにも、人づくりに目を向けたい。政府や経済界、労働組合の代表らによる政労使会議でも議論を深めるべきテーマだ。徒弟養成所をつくった頃の日立は技能を磨くための機械設備に不自由した。環境に恵まれた今の日本なら、やりようはたくさんあるはずだ。

野党に迫真の怖さがあれば

2013年12月19日 | Weblog
春秋
12/19付

 ことし活躍した「野党」と聞かれてピンとくること。まず「アッキー」という愛称も定着、話題になり続けている安倍昭恵首相夫人の「家庭内野党」が頭に浮かぶ。もう一人、沈黙を破って反原発を唱える小泉純一郎元首相も野党の役回りだろう。その次、がもうない。

▼政治の1年を振り返ると、これほどに野党がだらしなかったことは最近記憶にない。舞台は敵役まで身内に抱え込んだ「大自民党一座」に独占されてしまった。野にいて乱を目指すつらさに耐えかねたか、特定秘密保護法の審議の間には、「大一座」の回りをうろついて物欲しげに中をうかがう姿を見せられた気までする。

▼興ざめしていたら、お定まりの仲間割れが起きた。そしてきのう、小なりとはいえ新一座の旗揚げである。「結いの党」とは「野党勢力結集」の覚悟を示したらしい。その意気はいいとしても、みんなの党との内輪もめにさえ結論は出ていない。「みんな」がみんなでなかったように、政党は往々にして名が体を表さない。

▼芝居がつまらないといわれたら、芝居自体のせいではない。自分がまずいからだ――。役者ならばそう思え、という話をどこかで聞いた。敵役が下手くそな芝居はつまらぬ典型だろう。野党がだらしない政治も同類である。野党に迫真の怖さがあれば、首相夫人も「私は家庭内野党」とニコニコしてはいられなくなろうに。

思い悩む人たちに居場所とつながりを作る。

2013年12月16日 | Weblog
春秋
12/16

 「高齢者の万引き犯が増加中」。本紙社会面に、そんな小さなコラムが載ったのは20年前のことだ。取り調べを受けた万引き犯の1割以上を高齢者が占めた。たいていは罪の意識がなく、親のような年長者に「盗むのはいけない」と説く警官の困惑を記事は伝えている。

▼直近の統計では高齢者が万引き犯に占める比率は3割を超えた。人口全体の高齢化を上回る増え方だという。4年前になるが、警視庁が取り調べ担当者を通じて万引き犯1000人余りを調査した結果がある。たとえば未成年の万引き犯には所持金がなく、遊びを楽しむ感覚で、仲間の誘いを断れず犯行に及んだ例が多い。

▼高齢者の答えは対照的だ。お金はある。しかし生きがいがない。家族も友人も周りにおらず孤独に悩む。誰かにかまってほしくてつい、という場合も目立つ。昔なら買い物ついでに会話があった。「店先から会話が消えたことも、お年寄りの孤立感を深めたのでは」。作家の藤原智美さんは、本紙の取材にそう語っている。

▼万引きは犯罪であり店には痛手となる。犯罪者をかばうのではない。とはいえ、街の居心地を良くし、罪を犯す人も減るよう、もっと工夫が生まれていい気もする。クリスマスに年末年始と、にぎわいが独り生きる人の心を乱す季節が来た。思い悩む人たちに居場所とつながりを作る。そうした発想もビジネスの芽になる。