つばさ

平和な日々が楽しい

駅という独特な空間を文化発信に生かし、廃線跡を街の快適さにつなげる

2013年03月24日 | Weblog
春秋
2013/3/24
 先日の本欄にもある通り、東京都心の東急東横線渋谷駅が16日から地下に移った。人けのない旧駅では早くも解体工事の準備が……。と思いきや、違った。この週末、欧州の終着駅を思わせる大空間では音楽公演や鉄道模型展などが開催され、にぎわいを見せている。
▼入場券売り場の前は大変な行列だ。親子、カップル、鉄道好きの男たち。きのう土曜の午前中に行ってみたら、入場に40分を要した。本物の線路に降り、敷石を拾って帰れる企画の人気が高い。今週の木曜日からはファッションブランドの展示販売が始まる。取り壊し開始までの約1カ月半、さまざまな文化催事が続く。
▼渋谷と並び都内で若者に人気の街、下北沢。この街でもきのうから、中心に位置する下北沢駅で交差する私鉄2線の1つが地下に移転。取り壊しを待つ地上の旧ホームを撮影し、名残を惜しむ人が目立つ。渋谷も下北沢も、長い線路跡が街にぽっかり残された。都市の貴重な空間をどう活用するか。知恵の絞りどころだ。
▼ニューヨークやパリでは廃止された高架鉄道跡が歩行者専用の空中公園になり、古い駅舎が美術館に変身している。これまで都市は効率や機能を追い求めた。これからはアイデアなど知的創造力がカギを握る。駅という独特な空間を文化発信に生かし、廃線跡を街の快適さにつなげる。そんな発想がますます重要になる。

生活季節観測

2013年03月17日 | Weblog
春秋
2013/3/17
 春のあらしに吹かれ、黄砂や煙霧に驚いているうちに桜の季節がめぐってきた。あちこちで去年よりかなり早くつぼみがほころび、きのうは東京のソメイヨシノにも開花宣言が出た。まもなくこの花はいつもの風景をあでやかに染め変えて、人を酔わせて散るのだろう。
▼急ぎ足は桜ばかりではない。気象庁の「生物季節観測」では、今年はウグイスのホーホケキョを初めて聞く「初鳴日(しょめいび)」が横浜で平年より10日も早く、モンシロチョウの「初見日(しょけんび)」も下関で12日、静岡で6日早かった。職員が実際に見たり聞いたりする昔ながらのやり方が、季節の進行をさぐるのにはあんがい効果的らしい。
▼生物観測の対象はほかにも梅やツバキやヒバリなどさまざまだ。気象台によっても違いがある。ただし近年は都市化の影響でとんと見かけなくなった生きものもいて、東京などではトノサマガエルやホタルの観測をやめた。生物の居場所をどんどん減らし、暮らしのまわりの小さきものを見失っていくわれら日本人である。
▼気象庁はかつて、火鉢や蚊帳を使う時期を調べる「生活季節観測」も手がけていた。こちらは短期間で廃止されたが、いまなら花粉マスクの使い始め、使い終わりなど陽春の移ろいの目安になるかもしれない。ハ、ハ、ハックションと止まらないくしゃみを恨みつつ、こればかりはいつの世にも変わらぬ桜を見上げてみる。

上に政策あれば下に対策あり

2013年03月10日 | Weblog
春秋
2013/3/10
 中国では今月、にわかに離婚が増えたと伝えられる。たとえば上海の英字紙によれば、楊浦区というところでは4日から届け出の件数がいつもの倍のペースに跳ね上がった。北京や江蘇省の南京からも似たような話が聞こえてくる。少なくとも都市部では目立つようだ。
▼不動産バブルを抑えるため住宅売却益に税金をかける、と中国政府が表明したのがきっかけらしい。2戸の持ち家を保有する夫婦がうち1戸を売れば税金をとられるが、離婚でそれぞれ1戸を保有する形にしておけば免れる、という仕組みになるとか。新税が動き出す前に――。駆け込み偽装離婚のラッシュとあいなった。
▼当然のことながら、窓口はてんてこまいだという。それでも「いずれまた、婚姻届を出しに来てください」と声をかける窓口係もいるというから、何だか心がなごむ。「上に政策あれば下に対策あり」とは、中国の庶民のしたたかさを表す言い回し。そんな庶民の感覚を、お役所の窓口係もまたよくわかっているのだろう。
▼日本でも最近、駆け込みが話題になった。3月末で定年を迎える地方公務員が数多く、退職手当の減額を避けるために前倒しで辞めていった。卒業式の間際になって学校を去る先生たちを批判する声も上がった。問われるべきは見苦しい自衛策を促すような制度であり、それを編み出した人たちだろう。日本でも中国でも。