福井のニュース 越山若水
「ののさま」といえば、お月様や仏様のこ…
(2012年9月29日午前6時45分)
「ののさま」といえば、お月様や仏様のことを指す幼児語とされる。江戸寛文期の堀河百首題狂歌集でも「みどり子のののとゆびさし見る月や教へのままの仏成らん」と詠まれている▼なぜ月や仏を「ののさま」と呼ぶのか、万葉学者、中西進さんの「美しい日本語の風景」(淡交社)から教わった。説明が少し長くなるが、引用すると…▼まず基本にあるのが「のんさま」だという。これを幼い子どもたちが「のんのんさま」と繰り返し、さらに「ののさま」と短縮した。では「のんさま」とは何だろう▼かつて律令制度の下、法律を管理する役所・式部省を「法(のり)の司(つかさ)」といい、人々は「のんのつかさ」と発音していた。つまり「のんさま」は「法さま」起源の言葉というわけだ▼さらに8世紀ごろ、比叡山では中秋の名月の前後、月に向かってお経を上げていた。仏法でいう無明の闇を照らし人々を救い出す「法の月」から、月を「法さま」と呼んだ▼かわいい響きでありながら、何とも奥が深い日本語「ののさま」。その呼び方が一番似合うのは、あす30日(旧暦8月15日)の「中秋の名月」だろう▼天気予報は曇りとつれないが、雲の切れ目からのぞく「ののさま」を観賞するもよし。雲間からこぼれる「ののさま」の光で迷いを晴らすもよし。もし満月を拝めなくても、来月27日には「後(のち)の月」が控えている。