位置を測る
大海原にこぎ出せば目印は何もない。古来、人は太陽や星から位置を割り出す航海術を育んだ。絶海の孤島に漁船がたどり着くには、位置を知る航法と海図がいる。今は多くの船舶が米国の人工衛星による全世界測位システム、GPSを利用している▼携帯電話やスマートフォンのGPS機能で現在地を確認することは暮らしに浸透した。ビルの影や山間部で妙な場所を示すこともあるが、GPSは物流や観光でも欠かせない。グーグルとアップルが繰り広げるスマホ市場の覇権争いも、高度な情報を含む電子地図空間の提供が鍵だ▼GPSが示す「世界測地系」の緯度・経度の表示に合わせ、10年前に測量法が改正された。「日本測地系」とのずれで生じる影響が無視できなくなったためだ▼法改正で東経135度の子午線が東へ数百メートルずれた。このため、旧夜久野町役場(福知山市)の前に建つ子午線標柱も、今は子午線上にはない。移設の予定はないそうだ▼明治から測量を重ねてきた日本測地系を捨て、米国が軍事目的で開発したグローバル基準に従ったことは、日本のこの10年の象徴に思える▼領土をめぐり、日本の主張する「基準」が隣国に通じない。地方は都市との格差が広がり世界基準から取り残されたまま。現在位置を見失った日本は、世界の荒波に漂流している。そんな気がしてならない。
[京都新聞 2012年09月28日掲載]
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