プロペラ機と呼ばれるANAのジェットコースターで無事伊豆大島に着陸したのは大会当日。遥か上空から見ると波は高くなさそうだったが、着陸後外へ出れば風、雨が強い。バイクを空輸したのは自分だけのようだった。選手らしい人は数人だけ。フェリーで上陸する選手がほとんどということがわかる。『はたして泳げるのだろうか?』という不安を胸に、空港に待たせている宿の軽トラへ急ぐ。そして雨の中空港から宿へ。チェキンし、部屋の中でバイクセッティングをさせてもらった。ザックにバイクシューズ、ランシューズ、ウエットスーツ、他もろもろ詰め込こんだ。身体にホットクリームを塗る。ヘルメットを被り、新調した2XUのトライスーツ、ウインドブレーカ、ビーサンという姿で港へいざ出陣。冷たく寒いが、徐々に弱くなってきている雨と見知らぬ土地が気持ちを高ぶらせる。港の会場受付には既に選手たちで埋まっていた。そこから見える海の波はだいぶ小さかったのでこの時点では会場のほとんどが無事SWIMのスタートが切れると思っていたに違いない。ほぼ雨が止んだ。受付、ナンバリングを済ませる。昼は羽田で買ったロールケーキだけとなってしまったのでバナナに数本かじりつき、2本トランジットへもって行くことにした。ビニール袋に必要なものを詰め込み、ザックを預けた。
よどんだ空、冷たい雨、濡れるランシューズ、水溜りに映り込むバイクたち。今日のトランジットの光景は、青い伊豆大島とは雲泥の差だ。荷物を置き、受付会場へ戻った。メカニックへ行きポンプを借りる。外へ出ると雨が少しだけ強くなったようだ。1kmほどバイクに乗り、変速、ボトルの出し入れを確認した。トランジットに戻ると選手たちが大勢集まり、ウエットに着替えていた。フルスーツの人がほとんどだったか、自分はロングジョンしか持っていない。身体がどんどん冷えていたが、ウエットを着れば凍えるほどではなかった。雨の中、スタート地点へ素足の黒い集団は進む。トランジションを出るとすぐ海が一望できる。『波たけええ!!!』防波堤とテトラに囲まれた湾内のスイムコースは波がほとんどないが、入水ポイントとテトラ付近は大きいうねりと高い波。オレンジ色のコースブイと大きく揺れるレスキュー達。『うおおおおお』テンションは上がる。勿論海は黒いわけだ。入水ポイント脇の防波堤でほぼ全選手が集合し待機。アナウンサーが運営側で協議に入っていると言う。選手皆がどよめく。間をかき分け防波堤の突端付近まで行ってみる。そして冷静になって全体のコースを見回してみた。『・・・・・・・これ、、むりぢゃね????!!!!!』
さあ、気持ちを入れ替えて、なんて心は微塵もない。SWIMが中止になった。運営の判断は正しい。が、泳ぎたかったと思う選手は少なくないだろう。『俺たちはデュアスロンにきたんぢゃねーーー!トライアスロンに来たんだ!!』と心で叫んでいたに違いない。黒い集団はトランジットに戻り再び準備をし直した。ウエットを脱ぐと寒さが一気に急上昇。RUNの準備を終えたちょうどその時、ビックサプライズが訪れた。なんとtwitterで知りあって最近親しく(?)やり取りさせてもらっていた、The Bike Journal作成者でもあるジャーナリストのケンジラ選手と海外を連戦しているエクステラ日本チャンプのプロ小笠原選手が自分のバイクを見つけて会いにきてくれた。『ぱねえ、ぱねえ、はんぱねえええええええ!!!!!』初めましてと今日の健闘を祈り、2人と固い握手を交わす。計り知れないネットのパワーを体感した。
カテゴリ別(年齢順)のウェイブスタート。1グループ目のRUNのスタートを待つ選手たちの真ん中少し前にケンジラ選手と小笠原選手が見えた。強烈にストイックである姿に一気にファンになった小笠原選手は、今大会でも勝てる(優勝できる)トップ選手だ。2つめのスタートである自分の番が回ってきた。寒さを紛らわすために身体をずっと動かしていた。先頭から3列目くらい。1stRUNは片道2.5kmの直線的な海岸線を往復する。往路は左手に水平線が広がり最後は登り。ペースを上げずにマイペースで進む。強風がつらくてドラフティングしたい。何度も試みたが周りに同じペースの選手はいない。ガンガン抜かされる。半分であるたった2.5kmが遠い。復路は追い風だが、ペースは上げられない。ホットクリームが効きだしウインドブレーカーを早く脱ぎたくなった。『ああ、早く一刻も早くバイクにまたがりたい!』
1stトランジション。隣の長身ジンガイ選手のZIPP大先生を装着したバイクは既に無かった。シューズを替え水を得た魚のようにバイクにまたがった。なんともいえない胸に広がる安堵と高揚。苦痛からの開放、快感へ。今回のバイクとホイルの選択は、直前まで悩んだ。結局ホイルは、トラ復活の今回のために新調したZIPP大先生フルカーボンホイルを止めて、MAVICコスミックカーボン。バイクはクラックの入ったSIX13にした。(ちなみにコスミックを選んだのは、twitterでのケンジラさんからの一声だった。この雨では大正解だった。) MTB王滝とCXバイクの週末だった直前の2週間が、バイクを軽くしていた。前から横からくる両者ない太平洋の荒風につんざくスピードで突き進む。『?ん?、おいーーーっっっディープホイルメッちゃあおられるルルルルルーー、、汗』できるだけ風を受けないように即席TTポジションを構える。TTバイク、DHバー装着バイクたちをぶち抜いて行く。登りが苦手なトライアスリートを抜かしまくる。周回コース折り返し地点、90度右折で、前にいたディスクホイール&エアロヘルメットの完全TT兄ちゃんがスリップし激しく転倒。その落車をよけるようにスーッと右から回避した。その間に1名か2名選手を抜かしたが「こんなとこで抜かしてんじゃねえぞ!」と怒号を浴びせられる。もちろん抜かそうと思って抜かしたのではなく、急ブレーキなんで余計危ないわけで。ゆっくりリスタートした所で、後ろを振り向くと「わたしぢゃありません(汗)」と目があったOSJジャージお兄様。その後追ってきたとあるチームジャージ怒号お兄様「転倒をよけてんだからあんな所で抜かすなよ!」と改めて言われる。『いやいやいや、、このお兄様おこちゃまか?』と思い、しかしいろいろと説明するのもなんなので、「まあ、そんなカリカリすんなよ」と一言返す。
DHバーを握りラインを気にしながら抜かしていった怒号お兄様を登りであっさり抜かし返し、2周目が終わろうとした時、ふと何周するのか分からなくなった。根拠無く2周と決め込んでいた。手元のSUUNTOを初めて見る。ボタンを押し確認すると距離は20km台。結構脚を使っていたのであと2周と思うとつらくなった。が、ここでやらなきゃいつやるんだ。キースが俺に鞭を打つ。もっとROLLしろと。まだぜんぜん足りなすぎるからもっと踏めと。まだいけると。いつのまにかどでかいゲージンのサーベロP2C青との攻防になっていた。ストレートで彼が俺をぶち抜き、登りで彼を抜かし返すというそれは暗黙の中の対話のようだった。決して嫌な空気は無くお互いをお互いが奮い立たせていた。抜かすとき両者に自然に笑みが生まれていた。
そして自分との対話は続いた。己と対話することで己を確認できる。対話し確認しそして探す。俺今どう動いている?このラインいけるのか?もっとこう動かせ。もっと踏んでいいのか?いや今のは間違いだろ。いややっぱりこれでよかったのか。頭の中は不思議と冷静だ。今の自分で最善を尽くす。それは何事でも同じだ。その対話に答えは無いかもしれない。でも進まなきゃならない。瞬間瞬間に自問自答し、わずかな光でも楽しみを見つけ前に進むこと。降り続ける塩辛い雨の中、そんな時間を満喫した。
最後はほぼ歩きだった。片道5kmの海岸ロードが下半身を壊しにかかった。バイクで数えきれないほど抜かした選手が今度は自分を振り払って進んでいく。後ろ姿を見送るだけで何もできなかった。距離は10kmと短いのに長かった。完全に脚は切れていたが歩く事だけは避けたかった。かろうじて走っている。遠くの水平線に目をやるとうっすらと光が降り注ぎ、雨は止んでいた。アナウンサーの声が聞こえ大勢の選手とサポーターがFINISHゲートで待っていた。2005年9月の波崎トライアスロンから丸7年の月日を経て、今自分がどこまでやれるのかという挑戦は終わった。翌日の天気はうってかわって清々しい青空でそれは自分の皆の心を映しているかのようだった。ありがとうございました。伊豆大島、関係者の皆さま、選手の皆さま、そしてケンジラさんに小笠原さん。またお会いしましょう!
我らTTLにゴールはない。

宿にて準備完了


受付会場前、ほぼ雨は止んだいたのだが、、


受付


トランジットにて準備中

中止になる前のコース

やれたのか?やられたのか?俺


アフタパテは沢山のご馳走と島太鼓 ケンジラさん小笠原さんとご一緒 2次会後ケンジラさんにラーメンゴチになる 今回のゲストハウス

また来年か 有難う伊豆大島(オガッチレポートはこちら)