イバラノツルヒコの華麗なる生活

ボンソワール、今夜も僕と素敵な話をしよう

伊集院君

2005-08-03 20:29:49 | Weblog


ボンソワール、今日も暑いね。全然関係ないけど、フランス語と「暑い」って言葉とは、なんだかしっくりこない気がする。フランスっていったら秋とか冬とか、そんなイメージがあるのは僕だけかなあ。

それはともかく、昼に駅前で銀行に寄ったり買い物をした後、バイト先に行くにはまだ時間があったし、あんまり暑くて喉が渇いたので、どこかでひとやすみしようと手ごろな店を探したんだ。でも生憎と、皆同じことを考えていたようで、冷房のきいた店内はどこも満席だ。席があくのを待とうか、もっと他を探そうかなんて考えていると、テラス席の向こうに見知った姿を見つけた。伊集院君だ。

珍しいところで会うものだ、と思うけど、なんだか彼とはこういう偶然が結構多い。向こうも僕に気づいたようなので、一応手を挙げて挨拶してみた。一応、っていうのもなんだけど、前にも書いたように僕は彼とどうも波長があわないからこういう時に会っても微妙な感じなんだ。伊集院君も僕に応えてちょっと手を振ってみせたけど、なんだか少し様子がおかしい。うまく言えないけど、身体に芯が通っていない感じ。顔もいかにも不機嫌そうだ。ただでさえ苦手なのに、不機嫌そうな彼にわざわざ近づきたくはなかったけど、体調が悪いのかもしれないし、さすがにそのまま行ってしまうのもどうかと思ったので、僕は彼のところに行ってどうかしたの、と声をかけてみた。

かけてから正直しまったと思ったけど、もう遅い。伊集院君は不機嫌どころじゃなかった。暑くてだるくて死にそうだ、もう一歩も動けない、今すぐ何か飲まないと死ぬ、とか言い出して、そこに座り込みそうな勢いだ。熱中症にでもなったのかと思ったけど、どっちかというと子供のダダみたいにみえる。おいおいしっかりしろよ、とちょっと呆れてみせると、なんだか泣き出しそうな顔で睨まれた。うわあなんだこれ。でも、僕はこういう顔は良く知っている。華子がぐずったときの顔だ。自分がこんな思いをしているんだから何とかしろ、って顔。

冗談じゃない、妹とか女の子ならともかく、なんで同い年の男に(…って逆差別かな)そんな顔されなきゃならないんだ、と思ったけど、僕はこういう顔をされるとどうにも弱い。きっとこれは長男のスリコミってやつに違いない。思いっきり大きなため息をついて、自分のお人よし加減を呪いながら、僕はその店からちょっと離れたスタンドまで飲み物を買いに行った。…店のほうは行列になっていて時間がかかるのが目に見えていたから。

なんでこんな事になっちゃったんだろうと思いながら僕は伊集院君と並んで冷たいカフェオレを飲んだ。飲み終わる頃には伊集院君の機嫌も大分直ってきたみたいだ…やれやれ。ああ生き返った、と彼が言うので、僕は当然のように次は感謝の言葉を期待したんだけど、続いた言葉は
「イバラノ君はいいよねえ、暑くても寒くてもマイペースってかんじで」
だった。僕がどれくらいがっくりきたかは想像してもらうとして、じゃあごちそうさま、と言いながら飲み物の代金を払うと(当然彼の分だけだ)彼はさっさと通りの向こうへ消えてしまった。

もう金輪際、何があっても、彼が道端で倒れていても声なんかかけるもんかと思いながら、僕はなんだか一気にだるくなった身体をひきずって仕事先に向かった。
…で、ここまで書いてしみじみ思うんだけど、なんだか僕ってちょっと情けないな…。