今度、どこ登ろうかな?

山と山登りについての独り言

・尾瀬沼、皿伏山

2011年10月19日 | 山登りの記録 2011

 平成23年10月16日() 

 皿伏山1,916.8

 

   先週は新潟の守門岳で、紅葉が始まったばかりという感じだったが、季節はどんどん進んでいる。しぼれさんが10日に尾瀬に行かれた写真では、紅葉真っ盛りという鮮やかな色合いだ。このところ遠征が多かったので、今回は近場、しぼれさんの写真に心を動かされ、尾瀬に行こうと思った。残念ながら、週末のお天気は土曜が雨、日曜も朝までは雨らしい、その後は晴れるというものだが、直前の予報では群馬県北部は朝から晴れとなった。よしっ、ということで、尾瀬行きは決まった。ただ尾瀬に行くだけでは詰まらない。というより、尾瀬は喧騒の地だから、引き換えに静かな所も付け加えたい。この方面で登っていない山というと、もう5年前になるが、黒岩山・赤安山に行った時に脇を通過した藪山の檜高山と袴腰山、それに一昨年荷鞍山に登った時に、そこまで行こうと思って白尾山までで取止めた皿伏山はどうだろう。大清水からニゴリ沢経由で小淵沢田代に上がり、袴腰山・檜高山に登ってから尾瀬沼に出て、皿伏山もついでに登るという欲張りな計画とした。というか、これは『藪漕ぎ込み』なので結構きつそうだな…とも思う。

 

   土曜の夜に家を出て、車で1時間半弱の大清水へ向かう。もう雨は既に止んでいるが、予報によると、夜半からまた幾らか降るというものだった。夜の10時過ぎに大清水登山口の駐車場に着いた。駐車場は車も疎らだった。空には星も見えるが?5時半にアラームをセットして、シュラフに潜った。

 

   5時半前に目が覚めた。ところが、車の屋根を強い雨が叩いている。ザーザー降りだ。気持ちが腐って、シュラフから出る気にもならず、また潜って寝てしまった。6時半にもう一度外を見るが、ザーザーではないものの相変わらず雨は降っている。7時過ぎになって漸く雨も上がり、外を見ると車から出て支度をしている人の姿が見えた。中型バスが一台やってきて、20人くらいの人たちが降りてきた。とはいえ、車も矢張り少なく、人の数も少ない。この時間から起きて出発では、もう檜高と袴腰山は無理だろう。雨に濡れた藪漕ぎも厳しそうだ。

 

   とにかく起きてパンを食べ、支度をして、尾瀬沼までは行って来ようと思った。皿伏山くらいなら登れるかな。まだ雨は少しぽつぽつ降っているが、空に明るいところも見える。カッパを着て、730分に大清水登山口を出発する。そういえば、5年前に黒岩山に行った時もこの登山口で、最初からカッパ着ていったなと、思い出す。ここは雨に縁の有るところなのか?三々五々出発する人たちと後先になって、林道を一之瀬に向けて歩いていく。今朝は気温が高めで、少しも寒くない。登山口の大清水周辺は丁度紅葉の盛りで、周囲の山肌も赤や黄に彩られて美しい。この分では、上はもう盛りを過ぎているだろう。

 

   一之瀬休憩所に着くと、雨も止み空には一部青空が見えてきた。カッパを仕舞い、ザックカバーは念のため、まだ被せておく。827分に一之瀬休憩所から再度出発。少し先で橋を渡り、登山道に入る。木道は濡れて滑りやすいので慎重に登っていく。水場でポリタンに水を満たし、ここからしばらく急なジグザグ登り。背後には雲が切れて荷鞍山が見えてくる。南には大きく四郎岳も見える。しかし、青空はまた直ぐに白い雲に覆われ曇り空のままだった。ジグザグもあれっと言うほどあっけ無く、落葉松林の緩い登りになって、922分に三平峠に着いた。ここから滑って恐ろしい木道を慎重に下るので気が抜けない。下ってくる人たちと随分すれ違うが、みんなしっかりカッパの上下を着込んでいる。上はまだ降っているのだろうか?

 

 尾瀬沼の広がりが木々越しに感じられるようになって、935分に三平下の尾瀬沼山荘に着いた。小屋前に沢山ある休憩ベンチと周辺には人もいるが、その数はいたって少ない。この山荘と休憩所の間の木道で、なんと2回連続で滑って大尻餅をつく。ホントに恐ろしい。誰にも見られなかったかなあ、いってー。この日はここで2回、尾瀬沼周回の木道で1回、皿伏山の下りの木の根で滑って1回と、4回も、強烈に転倒しました。幸い、後に残るほどの打撲にはナラナカッタので良かった。(本当に濡れた木道は恐ろしいです。分かっていても滑るんだから)

 

 尾瀬沼山荘から、そのまま尾瀬沼周回のコースに入る。木道が沼畔に続くが、樹林越で景色が良く見えるところは少ない。尾瀬沼南岸のコースは、一日中陽が当たらない所が多く、樹林の下に続く木道は相変わらず滑りやすくて気が抜けない。疲れてしまうような道だ。汀に木々が切れた所を通過する。折から、晴れてきて燧ケ岳の下半分くらいが、尾瀬沼対岸に雲霧の帳を上げて姿を現し始めた。碧色に静まり返る水盤には、細かな漣が波音を遠慮がちに立て、山上の湖の主役を見せるために、白い緞帳を静かに上げ始めているところだった。その光景はここに来ただけで、もう今日の元は取れた様な気持ちにさせた。写真を撮って少し歩くと、富士見峠分岐の標識があった。尾瀬沼山荘から30分だった。

 

 富士見峠分岐から少し登ると、背の高いシラビソ越しに尾瀬沼が俯瞰できる。尚も緩く登ると鬱蒼としたシラビソの原生林になり、尾瀬の大通りからわき道に逸れたとたんにヒトケも少ない静かな道になった。しかし、シラビソの森は幾らも続かずに、突然目の前がぱっと開け、ラクダ色の湿原が現れた。

 大清水平だ。思いの外この湿原は広々として、朽ちた木道が湾曲して延びた先は、シラビソの黒っぽい樹林の縁取りに、半ば葉を落としたダケカンバが幹枝を箒のように伸ばした樹形をくっきりと際立たせ、それは葉脈だけ残して色紙に定着させた、懐かしい昔のしおりを髣髴とさせた。今しも、それを背景にして、一頭のメス鹿が警戒音を発しながら駆け抜けて行くところだった。まるで東山魁夷の日本画の世界が動いている様だ。

 

 尾瀬周辺の湿原では普通の、植生保護のために張り巡らされているロープ類は一切無く、湿原に同化しそうな半ば朽ちた木道は水没しているところも多く、人工物の少ない生のままの風景は素晴らしかった。所々には青空も見え始めている空から差す陽が、湿原にまだらのスポットを当てている。その上、ここには人の気配も無く静かな所だ。そんなところは、小淵沢田代にも似ているが、唯一違うのは、この湿原には池溏が無いことだった。それだけは惜しい。湿原の真ん中に朽ちた木道が、ここだけお休み場の複線になって、防腐処理を施された木柱に真新しい小豆色の方面標識が付けられ、真ん中に『大清水平』と書かれてあった。

 

 丁度標柱が立つところが原の真ん中で、ここに立って周囲を見渡すと、鹿が走り去ったシラビソの森から、今度はパンの吹くフルートの音色とともに、妖精でも現れそうなシチュエーションだった。夢でも見てるみたい…。

この湿原には、池溏が無い代わりに、よく見るとごうごうと音を立てて、あちらこちら湿原の草の中を勢い良く水流が流れている。雨上がりだからかも知れないが、これも珍しい。

 

 大清水平から、またシラビソの森に入り、直ぐに今度は小さな傾斜湿原を横切って、再び傾斜の緩いシラビソの原生林の登りが、結構長く続く。流れる霧にシラビソの巨木が浮かび上がり、喧騒の尾瀬にいることを忘れさせる所だ。皿伏山山頂の標識が立つところは、少し他より高いかなと思う程度の森の中で、ここで南に道が折れる。119分に皿伏山山頂に着いた。わざわざここを目当てに登ってくるような所ではない。周囲のシラビソ林と変わりの無い所で、地図にある三角点を笹藪をしばらくごそごそと探したが、見つからなかった(家に帰ってからネットで調べたところ、三等三角点があるようだが、ネット上の記録でも見つけた人はいない様だった)。山頂から南に折れた道をしばらく進むと、道は北に転じ、その先はジグザグになって白尾山との鞍部に下っていた。先に行っても見晴らしの良さそうな所は無かった。

 

 皿伏山頂に戻り、標柱脇の朽ちて崩れかけた濡れたベンチに、ザックカバーをシート代わりに敷いて腰掛けた。ここはわざわざ登ってくるような山では無いものの、人の気配もしない静かな所で、それだけは好ましかった。既に昼近くなっていたので、湯を沸かし、カップラーメンを食べる。今回のは、ノーブランドの『旨辛』と名前のついたやつで、これがおそろしく辛かった。ひーひーいいながらもスープは全部飲んだ。山では余り辛いものを食べない方が良い、喉が痛くなった。口直しに焼きソバパンも食べたが、ソースの味が食欲をそそり、これは美味しかった。何時まで休んでいても、誰もやってこない。周囲をよく見ると、藪の中にすかいさんの山名板とGさんのプラ名板がぶらさがっていた。

 

 1151分に皿伏山から尾瀬沼に戻る。復路の大清水平で年配のハイカーとすれ違う。顔を合せると、ひと言、ここは静かですね、とつぶやいた。その方は、富士見峠まで行くということだった。30分くらい大清水平で写真を撮ったりして憩う。尾瀬沼に降りると、またここは尾瀬の大通りで、沼尻に着くまで何人ものハイカーとすれ違うが、ハイシーズンには比べるべくも無い。小沼湿原まで来ると、目の前に大きく、今度はすっかり快晴になった空を背景に燧ケ岳が聳えて見えた。沼尻に143分に着いた。休憩舎の回りには数人が休んでいた。昼過ぎは急に時間が経ってしまったようで、もうこんな時刻だ。すっかり晴れ渡った青空と、山頂まで手が届きそうな燧ケ岳、ラクダ色に広がる湿原に、静まり返る尾瀬沼の水盤と、どれをとってもここは一級の景勝地だった。本当に尾瀬は美しいところだなあ。

 

 2時に沼尻を後に、尾瀬沼の北岸を木道で歩きながら浅湖湿原を横切り、大江湿原までやって来ると人の姿を見るが、やはりまばらで閑散としていた。大江湿原附近は、もう、筆舌に尽くし難い美しさで、うっとりしながら長蔵小屋に256分に着いた。既に夕方の気配だ。小屋も閑散とし、尾瀬ビジターセンターを覗いてみたが、レンジャーの若い女性が、お客の少ないお店の店員みたいで手持ち無沙汰そうな顔をしていた。何か質問をして欲しそうな?

 

  3時を回って長蔵小屋を後に、尾瀬沼東岸のすっかり乾いて滑らなくなった木道をぽくぽくと歩いていく。『檜高の突き出し』休憩ベンチあたりから見る尾瀬沼と聳える燧ケ岳の景観は絵の様で、尾瀬沼に燧ケ岳と尾瀬ヶ原に至仏山は、やはり無くてはならない対の存在だなと感じる。3時半に尾瀬沼山荘に着いて、のんびりとした尾瀬沼一周を終えた。日が傾いた尾瀬沼を後に、三平峠に登り、そのまま下る。朝抜いてきたハイカーを、また帰りの一之瀬附近で抜いて?5時丁度に大清水登山口に帰ってきた。陽が短くなったので、もう直ぐ暗くなりそうだ。紅葉的には、この登山口周辺が一番鮮やかで美しい。比較的静かで、日本的な美しさに満ちた尾瀬を満喫した一日だった。

 

 帰りは、昨年の秋、利根笠ヶ岳登山の帰りに立ち寄った、尾瀬交番向かいを入った先にある『湯の宿畔瀬』で入浴。宿の規模の割りに立派な内風呂と露天風呂があるので気に入っていたところだが、今回は3人ばかり先客が入っていたので独り占めじゃないやと思ったが、間もなく皆さんが出て行って、やっぱり独り占めの貸切になった。あーあ、気分は最高だ。軽い山と思って、確かに標高差は大したことないけど、距離的には結構歩いた様だ。程よく疲れた身体を沈める温泉の泉質も心地よく、ここはまたリピーターになりそうだ。湯上り後は、お腹が空いてしまった。この辺りには適当なお店も無いから、コンビニで弁当を買って食べ、帰路に着いた。

 秋の尾瀬は、あらためて言うまでもないが、やはり静かで素敵な場所だった。


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
大清水平のダケカンバ林いいですね (ノラ)
2011-10-19 21:29:59
あさぎまだらさん こんばんは。大清水平のダケカンバの木はいいですね。ほんとに妖精が出てきそうな景色です。尾瀬もこういう時があるんですね。これだけでも見る価値があります。
しかし木道や木の根で滑ってよく尾てい骨をしたたか打たなかったですね。私は佐分流山で滑って打った尾てい骨はまだうずきますよ。皿伏山はすかいさんとGさんの世界ですか。はは---
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仙境尾瀬沼 (あさぎまだら)
2011-10-19 23:12:08
ノラさんこんばんは。
尾瀬は四季折々何回行ったか分かりません。
でも最近は人が多いこともあり、特に水芭蕉の季節は20年以上行っていませんね。何度訪れても素敵なところだと思います。
木道の恐怖は尋常じゃないですね。実際目の前で何人も滑って転んだ所を見ました。幸いザックを背負っていた所為でそれがクッションになって『尾てい骨割り』は免れました。アハハ。
群馬県人なら誰もが知っている『上毛カルタ』の「せ」は「仙境尾瀬沼花の原」という札です。本当に仙境という死語が当てはまる所ですね尾瀬は。
皿伏山はわざわざ登る山じゃないですね。このコース(尾瀬沼→皿伏山→白尾山→富士見峠)は変化に乏しく冗漫なルートで以外に距離も長く人気が無いようです。ゆえに人も疎らな所です。ですから、大清水平は穴場ですね。尾瀬の一角というのを忘れる場所で、ここは行ってみる価値がありますね。
確かにすかいさんやGさんの世界でした。
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