Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

世界遺産という香り高い文化活動

2009-05-30 23:27:01 | 自然から学ぶ
 「伊那谷自然」143号は「高山植物・希少野生植物の現状と保護」というシンポジウムの報告である。片桐勝彦氏は中央アルプスで高山植物の保護活動をされている。①「植物や風景の写真を撮るため、保護ロープを越えて進入したりカメラの三脚を立てるカメラマンが多く、植物を損傷している。また、進入しなくても撮影目的の植物だけに目をやり、足もとの植物には無関心で踏みつけている例も多い。(中略)圧倒的に多い観光客への対策が課題である」と言う。小林正明氏は同会の現会長である。絶滅危惧種に指定されているニョウホウチドリのシカ害について②「生育地に保護柵を設置するしかありませんが、それも見通しが立っていない状態です。私はニョウホウチドリ以外にも希少種が、人知れず消えていくことがあると思われ、不安でなりません」と言う。

 ①は保護しようとする側にとってみればよく見えるものなのだろうが、許された観光者にとっては無理もないことであって、だからこそ片桐氏は「地道に啓発活動と指導注意を行い、モラルを訴えてきた」と言う。しかし、観光という権利に対して「指導注意」という意見はどう観光者に聞こえるだろう。認識のない間違いはたくさんあり、そしてその認識を与えようとする動き、なかなかそれは一致しないものだろうし、なかなかうまくはいかないほど人はそれぞれかもしれない。そして②にいたっては結局希少種を保護しようと言うのが誰しも前提になってしまう。「足もとの植物」が希少だから保護しようとするが、果たして希少とは何だろう。

 シンポジウムをまとめた北条節雄氏は「本質を突く言葉」として白旗史朗氏の「一本の草の命を守ることが高い文化活動である」と、塩沢久仙氏の「高山植物を傷つけることなく、未来に残していくことは将に今を生きる私達の香り高い文化活動」という言葉を紹介している。そして「この本質に立って南アルプスの高山植物保護がなされるようになったとき、地元住民は世界遺産を話題にする資格が得られたと自覚するべきである」と言う。わたしにはどうも解らない言葉である。香り高き文化活動がないうちに「世界遺産」と口にするなということなのかも知れないが、わたしには「世界遺産」が香り高い文化活動の先にあるものだとは少しも思わない。もちろんそこまで解っていて北条氏は語っているのかもしれないが、別に捉えるとそう捉える人もいなくはない。「人々の文化的意識の高揚」と言うが、それは保護活動ということなのだろうが、わたしは自然保護がという以前の意識としてそこに暮らすことの事実を意識せずしてそれだけで文化的意識とは思っていない。
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